壊れゆく日常-4-
「桜!」
首に巻いたストールを翼に変え、飛んで校内に戻った空は真っ直ぐに保健室に向かい、扉を開ける。
だが。
「…っ!」
保健室に少女の姿はなく、室内はところどころ黒いノイズに侵食されていた。
辺りを見回し、空は叫ぶ。
「桜、桜っ!」
『いくら叫んでもムダですよ、代理観測者さん。彼女はもう、ここにはいません』
バッと空が後ろを振り向くと、扉を塞ぐように敵性プログラムが立っていた。
『彼女だけでなく、マスターもNPCも全員、すでにここにはいません。−ここにいるのは、アナタだけ』
「っ、皆をどこへやったの!?」
『こことは別の空間へ連れていきました。心配しなくても大丈夫、今からアナタもそこへ行くのだから』
「そう言われて素直に行くわけがないでしょう」
空は弓道場の時と同じように両手にナイフを作り出し、構える。
(何とかここを抜け出して、ムーンセルに報告を…!)
『ムダですよ』
「!」
敵に向かって飛び出そうとした空の思考を見透かしたような言葉が響くと同時に、背後が暗くなる。気づいて振り返るも遅く、包み込むように敵性プログラムは空を捕らえる。
「−っ!」
『すぐにみんなと同じ世界へ送ってあげます。…だから、少しの間眠っていてくださいね?』
ぐわんと頭の中が回るような感覚の後、視界が霞み始める。必死で抗うも身体はどんどん重くなり、意識が遠のいていく。
意識が途切れる寸前、遠くで何かが聞こえたような気がした。
『今度アナタの前に姿を現わす時は、全ての準備が整った時です。だから−今は、眠っていてください。少しの間、辛さも苦しみも忘れてください。今度は、私が守るから。…お姉ちゃん』
***
2017.1.31