壊れゆく日常-3-

(特に異常はないわね)


校内、教会、校庭と順番に見回り、最後に弓道場にやってきた空は辺りを見回す。すでに部活の活動時間は終わっており、人気のない静かな空間が夕焼けに照らされて茜色に染まっている。


(まあ、異常があれば即座にムーンセルが反応するだろうし、私なんて必要ないんだけど)


本当、何で代理観測者なんてやっているんだろう。…それが、この世界での自分の役割だと分かっているけれど。


(………)


仕事は終わったのだから桜のいる保健室に戻って休めばいいと分かっているのに、足は動いてくれなかった。壁に寄りかかり、ぼんやりと景色を眺める。


(……も、やってたのかな…)


ふと思い浮かんだ、記憶の中のあの人。すぐにはっと我に返り、空は首を振る。


(何を考えているのよ、私!…本当におかしい…今回の聖杯戦争に限ってこんなに感傷的になるなんて…)


今までの聖杯戦争ならこんなこと、考えもしなかったのに。こんなに感情を表に出すようなことも、なかったのに。
…感情なんて、ほとんど失ってしまったはずなのに。


(きっと疲れてるんだわ…早く保健室に戻って休もう)


深く息を吐き、壁から背を離した時だった。


『もしかしてお疲れですかぁ?そういう時はー、休むのが一番!眠って、何もかも忘れちゃえばいいんです!』

「!」


静寂を切り裂くように、心の内を読むように響いた声に空は身構える。


「誰だ!」

『あなたは知らなくていいことですよ、代理観測者さん。−アナタはもうすぐ、夢に堕ちるんだから』


言葉が切れるのと同時に、空の周りに攻勢プログラムが現れる。両手に持てるだけスローイングナイフを作り出し、空はいつでも動けるように構える。


(さっきまでは何もなかったのに…!一体どういうことなの…!)


アリーナにしか現れないはずの敵性プログラムがこの空間にいることも、先程のプログラムにない声も異常事態のはずなのにムーンセルが反応しない。まるで世界が切り替わったような、そんな感覚。


(早く校舎に戻って状況を確認しないと…!桜…!)


保健室で自分の帰りを待っているはずの少女。この異常事態だ、あの子が気がつかないはずはない。あの子は、無事なのか。
飛びかかってきた敵性プログラムに向かって、空はナイフを投げつけた。




back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -