雑多 | ナノ


▼ 殉情(BSR)


悔しいことに身を託した相手の心は未だに彼の者に囚われたまま
自ら手を離すために手に掛けたのにそれによって縛れているとは本末を転倒している
もう一人フラフラ現れてはその幻影を引っ張りだす男がいて実にやりにくい
背後に加賀のお家があるから、人脈を絶つと面倒だから、們だから、
理由が多々あれ、この手でいっそ消せないことが口惜しい

なんだって君達は過去がそんなに好きなのだ
僕には無限に開く明日はあまりに少ないのに
変わりなき昨日より変化する未来を
亡者の手より啓ける先の生者を

肺を痛めるような湿った咳を零して憂鬱に肘をつく
文机に広げられた日の本の国を描いた紙には幾つか朱に潰された国があった
朱に塗り潰したのはそれを見つめる半兵衛である
手中に国を治めるとこうして朱を塗りこめていくのだ
目に見える実績を
手に取れるに事実を形にしなければ彼が行っていることは大きすぎて実感がわからない

国を一つに

幾人の将がそれを目指して鎬を削っているだろうか
少なくともその知略を持ってしても手強く幾年かけていてもまだ国を半分も手にしてはいない
知略に知略をぶつける相手をいれば戦力でものを言わせる相手もいる
北に竜、中央に虎の子
過ぎた兵を持つ御子に隠し玉に伝説をつけてる名家
まだまだ頭が痛くなる強者どもが控えているのだ
戦力だけではどうにもならず知略を総動員しても果たして幾つかを手に出来るか
穏便に、これ以上下手に出ても無事に和平を結べるかも怪しい
その前に調停に持ち越せるかすら危ない
綿を紡いで出来た糸の上をぎりぎり歩いているような危うさで今、この国は成り立っている
早く糸を縄に、縄を板に、板を土台に変えていかなければいつ転げ落ちるかわからない
だからこうして毎夜頭を抱えて歯噛みしながら戦略を練っているのだ
今日のように五月雨る日は胸が愚図つき頗る調子が悪くなるため、夜更けまで起きているというのは億劫なのだがそうとも言っていられない
時は待たないのだ
何をしていても流れる
こうしている今ですら己を置き去りにしても

忌々しさに強く歯噛み、文机を手のひらで叩いた
木の渇いた音が響き、硯に立て掛けて置いた筆が二三度跳ねて落ち紙に朱の班点を残す
その紙を勢いのまま掴み握れば無残な様相を訂した
ぐしゃりとした感触に一気に冷静さを取戻した半兵衛が手を開いて紙を落とす
朱が移った手のひらは戦の後のようだと苦笑してくしゃくしゃになった地図を丁寧に皴を伸ばすように広げた
皴と朱ですっかり見られたものではなくなった国々を見下ろし、この先を表しているようだとらしくもない事を思った後もう一度咳を吐き出した



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