雑多 | ナノ


▼ 雨、逃げだしたあと(BSR)

いやだった
すべてが

そうじゃない、自分が

周りの重圧と誰も先立たない見えない先と己の不甲斐なさとそのほかの諸々が混じった感情は時折こうして弾けた
弾けたといっても何かに八つ当たりの筋違いような気がして
奮う刃さえも不安という重さを滲ませていたからただがむしゃらに走り出した
叫びたい気もしたが口にしたら最後、すべてこぼれ落ちるような気がして奥歯を食いしばる
ぎりりと鳴った奥歯は戦場とは違う嫌なものだ
いつの間にか降り出した雨足を強めた雫は先がよく見通せない
ただしたたか打ち付ける雨は容赦なく体を冷やしていく
これ以上冷えてはいけない頭の芯すら冷やしそうで足を止めることもまたできなかった
ないないずくしで、もはやどうしていいのかすら、わからない
森の中へ踏み出そうと瞬間頭上から声が降ってきた
大将、という声は情らしい情が滲んでおらず他の臣下がかける声によく似ていた

「此処で鬼事は終わり。雨の森に入る危険はわからなくないでしょう」

ゆるりと上げた視線の先には太い幹に佇む懐刀
ただ昔のように困ったように笑むこともそこに潜む柔らかい何かも廃除された忠実な忍だ
雨の膜のせいで形しか見えず森の入口にいる姿は妖しのようにも見える

「もう夕刻も近いですからお戻りを」

砕けた口調はいつ代わったのか
正しく主に接する者としてのものになり、よりいっそう距離を感じさせた
旦那と呼ばなくなったのは己が甲斐を背負った日からだったのだけは覚えていた
それはもう昔に戻れないという証

「佐助」
「なんでしょう」

なぁにとへらりと笑って答える者ではもうない
隔たったのは何か
幸村には検討も付かず、何かどろりとした煮凝りのようなものが胸に湧く

「某は、」

どうしたらいいのか、
そんなことを口にしてはならないのは一番自分が知っていた
何を。
それが決定打に抜けているから余計にだ
一国を背負うべき武士が何もわからないなど、あってはならない
鉛の色の空の下でずぶ濡れになり何をしているのだろうと他人事のように思って視線を下げ、水面をたたき付ける雫を見るともなしに眺める
頬を流れる温いものはどちらかのか知りたくもなかった
ただ忍はそれを黙って見ていることがまた哀しかった


**
佐助と幸村

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