死ぬまで別れない(影と双竜)

吐き気がした
吐いて吐いてもうなんにも無いのにまだ吐けるような気がした
そうしてぼんやり夕日にくれる戦の跡に立ち尽くす
生きてる者なんていなくてただ屍と武器とあとよくわからなくなったものが散らばった焼けのが原に立っていた
忍のくせに忍ばないで
忍のくせに主に先立たれて
忍の命は主の物の癖に
本当にぼんやりと緋の夕日を眺めていると足音がした
それが誰のなんて言わずもがな
しかし見る気にもならなかった
二人分の足音は間合い手前で止まる
「何してんだ」
無遠慮の声が耳にはいるが流れるように留まらない
「何してんだって、よ」
翳された刀が首筋に当たる
冷たい刃がほんの少し意識を覚醒させる
「あんたが殺すのか考えてた」
「他人事だな」
本当に他人事だ。自分の命などもうどうでもいいのだから
それより大事な者は今刀を翳してる男が奪った
真剣勝負どちらが勝っても負けても文句なんかなかった
なかったけれど魂は持って行かれてしまった
今此処に立つ佐助はただの抜け殻だ
「死にてえのか?」
「わかんない」
死にたくはなかった。さっきまでは
何がなんでも生きろというのが主の教えだったから死にたい気もするが生きなければいけないような気もする
ただそれだけ
「もうどうでもいいよ」
武器はもう使い切った
利き腕は半分無い
ならもう役立たずだ
なんの役に立つのか。立てるのか。立ちたいのかわからないけれど
「殺しなよ。伊達政宗。今なら一尽きだ」
名を呼べばぴくりとまなこが動いた
そういえば名前を呼んだのは初めてだったなあと霞みがかった頭で思う
それからその背後でいつでも斬れる態勢のお目付け役を確認してそちらでもいーよと投げやりに呟いた
「命は投げ捨てるもんじゃねえ」
「それは主を失ってからも言えるか考えてみなよ」
そう言い返せば黙って一歩引いた
多分あの男も同じだ
大事なものを失ったら抜け殻になる。今の自分のように
「あーあ」
夕日に目をやってから首の刀に目を移す
「本当に、人間、死ねばいいのにって思うことあるんだね」
渇いていたまなこがうっすら景色を滲ませてまだ人間らしいことが残っていたのかと思えた



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