最初は甘露寺だった。


「名前ちゃんって言って、すごーく美味しいお料理を作る子がいるんです」


隊士の皆が話していて、ずっと気になっていたんですけどようやく会えたんです〜!と笑う甘露寺は年相応の少女のようで微笑ましい。


「ふむ、俺は初めて聞いたが!隊士達の間で噂になっているのか?」


興味を惹かれて、そう尋ねる。


「えと、一緒に任務に赴くとお弁当を必ず作ってきてくれて、声をかけてくれて、そのお弁当が美味しくて!皆言うんです、家族のことを思い出して、死ねないって。闘志があがるって。だから、」


その子がいる任務はとても生存率が高いんですよ。


それが彼女、苗字名前に関して聞いた、最初の情報だった。歳も近いんです、お友達になれるでしょうかと頬を赤らめる甘露寺に、きっとなれるさ!と背を叩き声をかけたのを記憶している。



鬼殺隊
その名の通り鬼を殺す集団。この集まりは様々な境遇の者が肩を並べる。俺のように代々鬼殺隊に入る一族の者もいれば、宇髄などのような経歴の者も少なくない。

その中で、最も多いのは鬼に身内を殺され天涯孤独となった者。一般隊士のほぼがそうして、育手の元に流れ着き、刀を握ることを覚えた。


皆一様に、鬼を憎み、倒さんと立ち向かう。


ここで一つ、柱合会議で上がった問題があった。
鬼の動きが活発であった年、比例して隊士の死亡率がとても高かった。
問題点はその多くが、身内を失った者だったこと。皆、闘志を胸に鬼に挑む。それは鬼殺隊として心強いこと。だが、その多くは敵わない相手に対し捨て身を選択するのだ。

お館様はその事に関して酷く心を痛めていた。



話は戻るが、苗字に会ったのは甘露寺に連れられて挨拶をされた時だった。


「師範!」
「甘露寺か!その子は、」
「えへへ、前に話していた名前ちゃんです!師範の姿が見えたから声をかけてしまいました」
「そうか!そうか君が」
「は、初めまして、炎柱様!階級「戌」、苗字名前と申します」


深々とお辞儀をする緊張した面持ちの少女。嬉しそうな顔の甘露寺。それで察することができる、思わず笑みが深まるというものだ。


「うむ、よろしく頼む!俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ。甘露寺、友人になれたんだな、よかった!」
「はい〜!」
「え、えっ」
「甘露寺から君のことはよく聞いていた、飯が美味そうだな!」
「い、いえそれほどでも、ありませ」
「美味しいです!!!あ、そうだわー!先日のぱんけえきのお礼にって、これから私の家で名前ちゃんお夕飯を作ってくれるんです、師範も一緒にどうですか!」


名案!と両手を合わせ、華やぐ笑顔を見せる甘露寺。びっくりした顔をする苗字。対照的な表情を見せる少女二人は、それでもとても仲睦まじく見える。


「む、いいのか!」
「あ、あの、蜜璃さんが、良いのであれば」
「わーい!じゃあ師範も!一緒に行きましょう!」
「実はとても気になっていたんだ、その誘い、遠慮なくのらせてもらおう!」


そうした経緯で初めて食した苗字の料理は、確かにとても美味かった。俺と甘露寺で、たくさんあった食材を全て食べきった時は驚きながらも嬉しそうに微笑んでいた。


そう思えば、彼女が今の立場に落ち着いたのは必然だったのかもしれない。





「名前という隊士をしっているかな」


お館様から苗字の名を聞いたのはその後の柱合会議だった。その名前に、いささか驚いた顔の甘露寺、胡蝶が顔を上げる。俺も視線をお館様に向けると、変わらず優しい微笑みを携え、話を続けた。


「隊士達の生存率が、上がっている。私はその一因に名前があると考えているんだ」


「その隊士が、何かしていると?」


宇髄がすかさず質問をする。他の柱は名前も初めて聞くといった雰囲気。富岡だけはいつも通り静かに佇んでいただろうか。お館様は微笑み答える。


「美味しいご飯をね、作るらしいよ」
「飯?」


言葉の意図が読めない不死川が言葉を反復する。


「皆も知っての通り。鬼殺隊には鬼に身内を殺され、入らざる得なかった者が多くいる。私は生へ執着する物事がないゆえ、隊士達の多くが特攻を選択することが多いのではと考えていた。その勇ましさは誇れるものであり、一人一人の活躍を私は忘れない。だけどね、」


生きる事を投げ打って欲しいわけではない。生きてほしい。今まで死んでいった隊士を思い出しているのかそう語るお館様は少し俯く。


「それは私も感じておりました。…けれどお館様、どうしてこの件で、彼女の名前を?」


問いかけたのは胡蝶。まっすぐにお館様を見つめる。お館様もうん、そうだねと頷き、続けた。


「必要なのは、生きることへの糧。それはきっとなんであってもいい。そう例えば、美味しいご飯。当たり前のようにそこにある存在、心の寄りどころ、だね」


すっと人差し指を挙げるお館様、ここまでの説明で、俺や、甘露寺、彼女を知る者はお館様の意図を感じ取る。


「名前に隊士のための食堂を任せてみたいと思うんだ。多くの隊士を生へ繋ぐ事、そのきっかけを彼女に担ってもらおうと思う」


もちろん、名前の承諾を得られたらだけどね、と笑う主を、柱と呼ばれる一同は見つめた。


「僕は忘れてしまうので、なんでも、いいです」
「お館様がそうおっしゃるのであれば。…富岡、お前も何か言ったらどうだ、ずっとだんまりだな貴様は」
「……」


それぞれ肯定の言葉を口にする。その中でじゃらりと数珠を鳴らし悲鳴嶼が疑問を口にした。


「お館様、くだんの件に関して私も異論はない。だが、この場で話した意図は何か他にあるのでは?」
「…うん。そうだね、私が名前にやらせようとしていることは、贄に近い、そう自覚しているんだ。彼女を他隊士の糧にしようとしている。だから、」
「そんなことは…!きっと名前ちゃんだって、思わないと思うんです…!」


甘露寺が間に入る。はっと気づき、失礼しました!と礼をした彼女を一瞥しお館様は、ありがとう蜜璃、と囁いた。


「きっとそうだと思う。けれど、私の可愛い子ども達。どうか見ていてあげて欲しい。私が託した分の、名前を」


この会議からあまり時が経たずして。
苗字は階級を幾分かあげ、隊士専用の食堂を任される立場となった。お館様のお考えは結果として、うまくいったと言えるのだろう。
そして他の柱達も言葉通り、彼女を見守っているようで、共にいる姿を見かけることは少なくない。




「美味しい!本当にこのお団子美味しいですね煉獄さん!」

西のはずれの甘味屋は、賑わっていたがすぐに席に座ることができた。運ばれてきた甘味を綻んだ表情で甘味を食べる苗字。誘った甲斐もあるというものだな、と思う。


「ああ、美味いな!千寿郎にも土産でも買って帰ろうか」
「せんじゅろうさん、ですか?」
「弟だ!任務が重なるとなかなか家に寄れないが、君を見てると思い出す」
「そうなんですか、えと、似てますか?」
「いや、全然似てないな!」
「ええ」


はっきりとした否定に苗字の戸惑う声。似ているわけではない。ただ、おそらく、


「強いて言うなら、扱い方だろうか?」
「扱い方…」


疑問をそのままに首をかしげる様にくつりと笑いを噛んだ。思わずと頭をなぜれば、驚く声。細い髪がするりと指の間を通る。


「あの、」
「うむうむ、これからも君が思うように励むといい。鍛錬も頑張りたいのなら協力しよう!」
「???はい、」


兄が弟のことを信じているように。そう、そこが似ている。俺は、俺なりに彼女のあり方を信じ、見守りたいと思うのだ。



はじまり



「ああそうだ煉獄さん、蜜璃ちゃんにもお土産買いましょう」
「うむ、それがいいな!」

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