晴天の霹靂、加えて気候も上々な秋晴れの昼過ぎ。まさにお出かけ日和の今日は、往来を歩いている町の人も多いようだ。

そんな町中を煉獄さんと共に歩みを進める。


「宇髄が言っていた甘味屋は西はずれだったかな」
「そうですね、この道をずっと行ったところではないでしょうか」
「苗字はその店に行ったことがあるのか?」
「あ、いえ、私も行ったことはないです。ただ前蜜璃さんも美味しいって話していたところだと思うので」


西外れに甘味屋といえばそこくらいですから、と説明すると煉獄さんはそうか、と笑った。


「甘露寺のお墨付きなら間違いないな!」
「はい!私も行ってみたいと思っていたので嬉しいです」


蜜璃さんはおいしいものが大好きだから、どこがおいしいか、ここはたくさんでるの!などあらゆる情報を得ては教えてくれる。彼女の食に関する情報の信頼度は誰よりも高いのだ。


「苗字は甘露寺と本当に仲がいいのだな」
「!はい、同じくらいの年なのもあってだと思うんですけど、時間が合うときはお茶会をしたりするんです」


煉獄さんの言葉に、パァっと気持ちが華やぐ。彼女は鬼殺隊の先頭に立つ柱で、私は一介の隊士だけれど。蜜璃さんの気さくさもあって、仲良くしてもらっているのだ。


「甘露寺と話していても、やはり君がよく話題にあがる」
「え!?どんなことを、」
「最近だと君と冨岡の事を楽しそうに」
「あ!!それ違います、それ色々違うので!!」


話を折る形になるが、続いて言われる言葉に見当がついてしまったため、迅速に否定にはいる。宇髄さんの弊害がここにまで、ちくしょう速さだ、魚も噂の否定も鮮度が重要なんですよ!


「わはは、色々違うのか!」
「まるっと違いますね!!!この件に関しては義勇さんにもご迷惑がかかるので‥それでさっきも宇髄さんと話して… 」


甘味屋へと足をすすめながら、蜜璃さんやしのぶさんにも話していたこと、そして噂の大元が宇髄さんで、先ほどの話をしていた事を(諸所はぶきながら)伝える。それをうんうんと頷きながら聞いてくれる煉獄さん。


「よもやよもやだ。そういうことだったか」
「はい、そういうことなんです。思わず音柱様に声を荒げてしまいました。あの方そうでもしないとやめてくれないと、最近気付いたので…」
「宇髄は、君のことを気にかけているんだな」
「それは‥ありがたい事ですけれど」


困るときは困ります…と、
すん、とした顔で正直な気持ちを申し上げる。煉獄さんはそれすらカラカラと笑った。さっぱりとした人だ。


「そうだな、だが気持ちはわからなくも無いぞ」
「え?」


なんの気持ちだろう?わからず、首をかしげる。そんな私の動作をみて目を細める煉獄さん。
彼は常々その大きな目を見開いているので、どこをみているのかわからないことが多いのだが。珍しい表情を見たかもしれないと頭の端で思考する。


「あ、の、煉獄さん、わ…っ?!」


何か話そうと言葉を紡ごうとしたがそれは叶わなかった。
ちょうど公演が終わった歌舞伎座の前を通ったようで、どっと劇場から出てきた人々の波に飲まれてしまったのだ。

ああはぐれる、と手を伸ばすが人の波がどんどんと押し寄せて煉獄さんを捉えることができない。
しまった、人混みが落ち着いたら煉獄さんを見つけなければ、と諦めて引っ込めようとした空を泳ぐ手を、瞬間、ぐっと強い力で引っ張られた。その力強さに上ずった声と共に咄嗟に目を瞑る。


「大丈夫か、苗字!」
「!」


次に瞳を開ければ、煉獄さんが目の前にいて、驚き瞬く。鮮やかな色の髪が真横をかすめるほど近い。色素の薄い瞳に驚いた顔の私が見える。


「…う、」
「ん?」
「うわ”ぁ!!!すみませんすみません」


べりぃ!と勢いよく離れ自立した。意図的ではないとはいえ抱きつく形になってしまったからだ。心臓がうるさい。そして顔が熱い。というか、


「ほ、本当に、度々とすみませんご迷惑を、本当に…」


しっかりして私!!!!
先日のサツマイモのときといいどうしてこう情けないところを見られてしまうんだ。


「気にするな、丁度歌舞伎が終わったのだな。突然だった、しかたあるまい!」


それよりも怪我はないか、と問うてくる煉獄さんに小さくはい、と返事をする。この方がいろんな方から慕われる理由が身を持ってわかる。


「うむ、それなら良かった。さぁ甘味屋に向かおう。もう少しだろう?」
「…はい、そうですね、あの本当にありがとうございます」


ぺこりと一礼した私を、問題ないと煉獄さんは笑った。


「だが」
「はい」
「やはり鍛錬をするといいやもしれんな君は!」
「返す言葉もございません!!!!!」


今度稽古を付けよう!!と勢いのある申し出に、よろしくお願いします!!!!!と更に勢いよく返事をした。


甘味屋までもう少し。



お出かけ



申し訳なさそうに隣を歩く少女。

彼女を見ていると、ふと弟を思い起こす時がある。
皆がこの子をついと構うその気持ちがわかるなぁ、と一人そっと頷いた。

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