「というわけで宇髄さん!根も葉も無いお話を色んな方に話すのはどうかやめてください!」
前略本日お日柄もよく。
今日はまさしく洗濯日和と言えるような天気。そして私にとってはいつぶりかの丸っと一日のお休みを頂いた日でもある。いいですねぇこんな日は街に出て美味しい甘味でも食べたいものです。
が。
私の心まで陽気とは限らない!!!
理由ははっきりとしている。先日の蜜璃さんしのぶさんとの甘味会にて、聞いた噂の、その大元である音柱の宇髄さんへの冒頭の抗議が理由の全てだ。
「あ〜?なんだよ苗字、浮いた話の一つや二つや三つくらい。あったほうが良いんじゃねーの」
むしろだ、感謝しろよ、派手な俺に!
と目の前でどやどやとする宇髄さん。悪いことをしたなどとは微塵も思っていないようだ。
いけない、血管がプチっといきそう。
「よく!ない!です!私もすごく困りますし、義勇さんがご迷惑被るでしょう、やめてあげてください!」
「あいつはまんざらでもねぇだろ、本人に聞いたけど特に否定しなかったし〜」
「宇髄さんは義勇さんがちゃんと否定できるような人間に見えますか?頭で色々考えて勝手に結論を出し納得したか、もしくは話すのが面倒くさくなって放棄しただけだと思います」
「いや知らねぇけど。あとお前割とひどい事言ってんぞ」
「経験則です」
そんなことは今は良いので、これ以上宇髄さんからこの話題を出すのはやめてください!と再び、半ば喚くように訴える。
宇髄さんはそんな私を見て、おーおーと言いながらだるそうに頭を掻いた。
「うるせぇ奴だ、そんなだから浮いた話がねぇのかねぇ」
「ひどい!立場が許すなら実力行使してますよ!」
「はーーん!俺がお前なんぞにやられるかよ!」
「わかって!ます!そんなのことは!!」
いよいよ立場を失念して宇髄さんに叫ぶ。ここで尻込んだら相手の思うままなのだ。あーーほんともう、ほんとうもうこの人!
音柱である宇髄さんは。
柱を担う立場でわかるように強いし、思っていた以上に良い方だとは思うし、どうしてか何かと私を気にかけてくれる。
けれど、どうやら人を、かまう言い方を変えると、からかう、ことをする人、のようで。
宇髄さんにこんな風に扱われたのは初めてではない。
最初は立場もあり丁重に対応していた。けれど、そんな事ではやめてくれないと認識してから向こう、このように声を荒げる事もしばしばとなってきた。
「でもよ苗字」
「…なんですか」
「俺はよぉ本当にお前の事気にかけてんだぜ?」
冨岡じゃねぇなら誰かいねぇの?
と言う宇髄さんは、随分と真剣な顔をしている。けれど、
「宇髄さんわかってます、そんなに気にしてくださるのは、私をからかっているからですよね?」
「…ははッ。まぁそういうことにしておこうか?」
「わ、」
私の確信を持った問いに対し、宇髄さんはなぜそこでという所で、頭をぐしゃりと撫でてきた。一瞬で変わった雰囲気に私もスンと気持ちが落ち着いてしまい、二の句が告げなくなってしまう。
「なんなんですもう…」
「いや、別にぃ。まぁ悪かったよ。あー話変わるけどよ、雛鶴がまた家に来てほしいっつってたぞ。料理に関してまた相談乗って欲しいってよ。手すきの時にでも来てやってくれや」
「いえそれはいつでも、行きますよ。なんだったら今日も休みで「苗字!!」はい!!?」
話の途中で大きな声で名を呼ばれまたも良い返事をしてしまった。なんか少し前にもこういう事があったような気がする。
振り返らなくともわかる、この快活な声、
「おーう煉獄じゃねぇか」
「宇髄か!苗字もすまない話中だったか?」
「いえいえ」
ハキハキと喋りながら近づいてくるのは、そう、煉獄さん。その出で立ちは隊服ではなく、おそらく暇をもらっているのだろうか、珍しく着流しを着ていた。鳶色の着物が煉獄さんによく似合っている。
「煉獄、お前今日は非番なのか」
「ああ!先日の任務の事後処理が済んだのでな。お館様から直々の暇だ、ありがたく頂戴するほかあるまい」
「はははっいいじゃねぇか、お前次の任務にさっさと行っちまうもんな」
宇髄さんが笑いそう言うと、煉獄さんも鬼はいつ何時と尽きないからな!とからりと笑う。
「で、お前はこいつに用があったんじゃねぇの?」
「うむ、そうだった!苗字、今日は君も休みだと聞いてな。甘味でも共にどうかと思ったんだ」
「甘味ですか?わぁありがとうございます、でも今日は雛鶴さ「ああーーーっと、いい、うちはまた今度でいいんだよ苗字、せっかくだ煉獄と甘味行ってこい、な!」
「ええ、」
私の肩にぽんと手を置き、発言にかぶさるように宇髄さんがまくし立てる。なんでそんなあなたが押し気味。と宇髄さんの方を見ると、によによと笑みを携えて、煉獄さんには聞こえない声で私に耳打ちする。
「悪かったなぁ苗字、煉獄と甘味楽しんでこいよ」
「……違いますからね宇髄さん、待って下さい、あなたまたさっきと同じような誤解をしてませんか?ご迷惑がかかるので!やめてください!(小声)」
「おう煉獄、せいぜい甘味楽しめよ!街の西はずれにある店が人も少なくてうまいぜ!」
「そうなのか!ありがとう、ではそこに行くとしようか!」
「え、あ、はい、煉獄さんが良ければ!」
「おー行ってこい行ってこい、はーー若いっていいねぇ!」
「宇髄さん!!!!」
ご機嫌に去っていく宇髄さんの背に声を荒げながら拳がわななく。なんであんなに話が通じないのだろうあの人。
というか!そんなに!年変わらないでしょう!!
からかい
願わくば。
愛した者と添い遂げ子を成し笑い生きて欲しい女がいる。こんな環境下、望みは薄くとも。
(どうかしたか、苗字)
(大丈夫です、あの煉獄さん、宇髄さんが何か言ってきても聞き流してください…)
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