鬼殺隊には隊士専用の食堂が用意されている。

その食堂で、私、苗字名前は今日も忙しなく働いていた。

朝起きて、割烹着に身を包み、夕方の仕込みをしつつ、主に任務から帰ってきた隊士へ朝食出しを行い、昼〜夕にかけて任務前の配膳。毎日、沢山お米を炊いて仕込みをし、入れ替わり立ち代り食べては任務へと向かう隊士の皆さんを見送る。

私自身も鬼を狩る資格を有している。
けれど、この隊士の食を担う仕事はとても好きで、最近はあまね様からお館様のお食事に関するご相談も承ることもあり、至らない部分は多いけれど身の引き締まる思いで勤めている。



さて、私は現在、昼食時がひと段落したため、食材の追加を買うため町へ赴いていた。

普段から食材はまとめて買いこんでいるのだが、早朝烏から炎柱である煉獄さんが任務からの帰還が明日であると知らせがきたのだ。

食堂を任されている手前、隊士の好物は概ね把握していて、煉獄さんはさつまいもの味噌汁が好きということを知っている。そして炎柱様が食べる量が柱の中でも1、2を争うほど凄いことも覚えている。私は確信した。絶対(さつまいもが)足りなくなる、と。

生死の境を常に生きる鬼殺隊の隊士。その上に立つ柱。そんな方々が日々口にするものは、美味しいものや好物であってほしいと思う。故にこうして、足りなくなるであろうさつまいもを一人買いに来たのだけれど。


「はい、さつまいも!いつもありがとうね」
「わぁ良い色!ありがとうございます」
「だろう!所で名前ちゃんそれ相当な量だよ。本当に運べる?」
「はい!これくらい運べなくて食堂担当は務まりません!頑張ります!」
「頼もしいねぇ!気をつけな!」


そんな会話をしたのが半刻ほど前だっただろうか?

おじさん、私見栄を張りました。
良いさつまいもだからと買いすぎました。この量、運べない事はないがすぐにへばってしまう。食堂担当の前に隊士だというのに、自分の軟弱さに泣けてくるものがあるな…。


「…ちゃんと隊士としての訓練もしなきゃ」
「その心意気は感心だな!頑張れ!」
「はい、ありがとうござい‥?!!」


ぽそりと呟いた独り言のつもりだった。その独り言に返事が返ってきて当たり前のように返答しようとしてしまったがいやいや、一体私は誰と会話を。というかこのハツラツとした声は


「れ、煉獄さんだ…?!」
「うむ、いかにも!」


振り返るとそこには想像通りいかにもな感じで煉獄さんが腕を組み立っていた。慌てて立ち上がり、向き合う。まさか当人がいるとは思わなかった。噂をすればなんとやらとはこういう事を言うのだろうか。


「あの、吃驚しました、お帰りはてっきり明日だと思っていたので‥」


そう言って戸惑い、見つめる私を一瞥した煉獄さんは、うむ!と元気な返事をして、その事なのだがと続ける。


「隠の者がこの場は任せて帰還をと申し出てくれてな。その言葉に甘え、帰路についていた!」


そうしたら君が道の真ん中でうずくまっていたからな、声をかけたんだ!


屈託のない笑顔とその言葉に思わず、う、と唸り顔を覆った。よもや煉獄さんにいもに負けている姿を見られてしまうとは。


「食材が足りなかったのか?」


そんなことは気にしない様子の煉獄さんは、視線を手元にあるさつまいもの袋に移し疑問を口にする。


「あ、ええとこれは煉獄さんが」
「俺が?」
「はい、煉獄さんが任務から帰還すると伺ったので。さつまいも料理を追加で作ろうと思ったんです。それで八百屋に赴いたんですけど、とても良いいもだったのでたくさん買ってしまって」
「む、そうか、そう言う事だったか!」
「はい、あの、お見苦しいところをお見せしました!とういうことでお食事はいつでも作りますので、」


また教えていただけば、と言葉を紡ぐ間に、煉獄さんはにこにこと私の持っていたさつまいもの袋を容易くさらった。その流れるような動作に、え、と声を漏らしてしまう。


「今!」
「今?」
「ああ、今!この後頂けるだろうか!苗字、これは食堂に運べばいいな?」
「え、はい、え!?あ、あの!承りました!けれど私が運びます、任務の後で煉獄さんもお疲れでしょう!」
「わははは今回は特に怪我もない。これ位運ぼう!」


そう言いながら、歩み始める煉獄さん。私も慌てて後をついていく。


「すみません、あの、ありがとうございます」
「構わん!」
「すぐに準備しますので」
「ありがとう、そうしてくれると助かる!」


実はこのまま帰れるのであれば食堂に寄れると思い、食べるのを少し我慢してしまったんだ、と煉獄さんは言った。


「君の料理は美味いからな」


さらりと。
煉獄さんが放ったその言葉に、嬉しさがじわり、心に広まるのを感じる。


「…あの!私、精一杯作ります!」
「うむ!では食堂に行こう、正直早く食べたい!」
「はい!沢山作ります!」
「ああ!」


そんな会話をしながら、いもを物ともせず軽快に歩く煉獄さんのその背を見上げ、ああ無事に帰ってきて本当に良かった、と一人息を吐いた。


(うんと、さつまいも料理を振る舞おう。)


きっと沢山食べてくれる、煉獄さんの好きなものを。そう考え、ぐっと気合を入れる。


「あ、…煉獄さん、」
「ん?」


おかえりなさい


遅れ、そう告げると、
煉獄さんは、ただいまと笑った。



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