【注】
錆兎生存ifです。義勇さんと共に二人で水柱をになっているという程で、夢主は連載の食堂の設定で話が進みます。相手を煉獄さんとしていますが話しているのは水の二人です。




ここは鬼殺隊隊士専用の食堂。

その厨房を任されている同じ鬼殺隊隊士である苗字名前という女性は、非常に人当たりがよく、ひそやかに男性隊士の間で胡蝶、甘露寺と並んで話題に上がる人であった。

だけれどこれはごくごく内密。言おうものなら”水の加護に祟られる”。それが、もう一つの彼女の噂だった。


「苗字さん、ごちそうさま」
「はい、おそまつ様でした。これから任務ですか?」
「そうなんです、北の山間の村へ」
「ああ、あそこは前も。どうぞ、気をつけて行ってきてくださいね。お帰りになったら、また食堂に寄ってください」


美味しいもの頑張って作ります!と笑う名前に、隊士はやや頬を赤らめた。隊士はいつも美味しいご飯を作って、優しい言葉をかけてくれる名前のことが気になっていた。そして此度の任務に行く前に食堂へ寄り、あることを彼女に告げようと決めていた。


「あ、あの苗字さん!」
「はい」
「こ、この任務が無事にすんだら!俺と「出発の時間はとうに過ぎているはずだが、お前はここで何をしているんだ」
「あ、」


意を決した、かなり勇気を出した隊士の発言は、背後から来た人物にいともたやすく遮られてしまう。隊士はその声に聞き覚えがあった。


「ひっ、水柱様…!」
「錆兎さん、ご飯食べに来たんですか」
「ああ。おい、お前」
「ひゃい!!」
「聞こえなかったか、さっさと、任務に、いけ!」


脱兎。この言葉が適切であろう速さで、隊士は瞬く間に食堂から去っていった。その姿に名前が小さく手をふる。


「何か言いかけてたみたいなのに、錆兎さんそんなにも焦らせなくても」
「どうせ大したことじゃない、それより名前、飯を頼む」
「うーん、わかりました」


錆兎さんは。
現水柱を任されていて、私、苗字名前は一階の隊士に過ぎないのだけど、私たちの育手が旧知の仲であり、よく合同任務と称して共に訓練を行なっていた。

その縁で、こうして鬼殺隊に入り立場が変わった今でもとても気にかけてくれる兄弟子のような存在なのだけれど。

ああそうだ、水柱と言えば。


「義勇さんは?任務ではないですよね?」


現水柱である、錆兎さん、並び、義勇さん。
異例にも同じ呼吸を有した二人は、水柱の席を二人で担う立場となっているのだ。


「ああ、義勇ならそのうちくる」


私の言葉を受け、錆兎さんが簡潔に答えた。それに、そうなんですね、と答えて私も厨房に戻る。だったら義勇さんの分も一緒に作っておこうか。


「名前、前から言っているが、ああいう輩には気を付けろ」
「ああいうとは?」
「さっきの隊士だ」
「錆兎さんが何を心配しているのかよくわからないですけど、いい人ですよ。任務もいつも頑張っていて、」
「好いているのか?」
「へえっ?え、なんて?」


錆兎さんが先ほどの隊士のことをどう思っているのかはわからないが、悪い人ではない。から、そのように思ったままを告げただけなのに、今、とんでもないことを問われなかった?


「好いているのか、と聞いている」
「話が唐突過ぎません!?」
「そうか?」


きょとんとした、錆兎さんの顔に、私はさらに狼狽る。そんな何も間違ったことは言ってないが、みたいな自信に溢れた顔をされても、私も困る。


「好きとかそういうのでは、なくてですね。この食堂に来てくれる皆さん、任務をまっとうしようと頑張っている方たちばかりなので。という意味ですよ」
「そうか」


私の返答に納得したのか、うなずく錆兎さん。何を思っての発言だったんだ今のは。びっくりした。


「じゃあ単刀直入に聞くが名前、」
「…なんでしょう」
「好いてるやつはいないのか?」


むせた。思わず味見していた手を止めてむせた。さっきからどうした錆兎さん。


「ごほっ、錆兎さんさっきから、どうしたんですか」
「流れ的にいい頃合いだと」
「頃合いとは…それ、一応お聞きしますが、聞いてどうするつもりなんですかね?」
「おい、質問を質問で返すな」
「私個人の事なので、返答の権利は私にありますよ」


そう言うと、錆兎さんはぐ、っと顔をしかめた。


「聞いたら、…決闘を申し込む」
「え、なんで!!!?」


想像していた以上の返答に今度こそ大きな声が出た。例えば、す、好いた人がいたとして、どうして!錆兎さんが!その人に決闘を申し込むの!?


「意味がわからないんですが!」
「同じ水の呼吸の、しかも育手が旧知で。もはや親戚のようなものだろう。お前の好いた奴がお前にふさわしいか、見極めなければならん」
「ちょ、ちょ、っと!ちょっと話し合いませんか!?なんか私よくわかんないです!落ち着いて欲しい!」
「俺は落ち着いている」


そうですね!!!と叫ぶと、うるさいと錆兎さんが言う。うるさくしているの錆兎さんなんですけど!?


「もう!突拍子の無い事錆兎さんが言うからです!」
「そうは言うが、どこの馬の骨かわからんやつにお前はやれん」
「錆兎さんは私の父ですか」
「どちらかと言うと兄のつもりだが」
「ぐ、」


さらっと言われた言葉に照れてしまい言葉に詰まる。く、いや、それは嬉しい。こんな私を妹なりと可愛がってくださっている事はとても。でも


「でも、それと私が誰が好きかは関係ないです!構わないでください!」
「その言い方だといるのか!」
「話を聞いてほしい!!」


だめだこの状態の錆兎さん、お酒を飲んだ時ぐらいめんどくさい!


「誰だ、義勇か」
「え!?違います、義勇さんも兄みたいなものです」
「まさか音柱ではないだろう、あいつは奥方が三人いるんだぞ、許さん」
「ちーがーいまーす!」
「だったら誰だ!」
「言いません!もー今の錆兎さんすごく面倒くさいです!」


自分よりも大きい男性に肩を掴まれ問い詰められる私の身にもなって欲しい。普段はあんなに冷静なのに、どうしてこの人こう、一点集中しがちなんだ。


「そう言われても、ここまで聞いたら後にはひけん!」
「やだーーもーー助けて!!」
「分かった!炎柱か!」
「!!!」


その言葉に、は、とした顔をしてしまう。その私の表情を見て、錆兎さんが目を見開く。


「…そうか、煉獄か」
「いいいいや、違います、ち、ちが、わなくもないですけど!あの、私が勝手に!なので、本当、こんな環境ですし、伝える気持ちもありませんので、」


ああ、もう、嘘が苦手な性分なのはあるが、余分な事を言ってしまってないか私!というか!


「ちょ、錆兎さんやめてください、出口に無言で向かわないで!」
「止めるな、お前のためだ名前」
「果たして本当にそうでしょうか?!」


鋭い眼差しで出口に向かおうとする錆兎さんの止めるべく逆方向へ押す。が、私など意に返さず、ずんずんを進む錆兎さん。く、力強い…!


「おい、」
「え…?!あ!」


押し問答をしばらく続けて、あと少しで出口、と言ったところで、後ろから掛かる聞き覚えのある声。暖簾を潜って現れたのは、先程そのうち来ると宣言されていた義勇さんだった。

義勇さんは私と錆兎さんの様子に目を見開く。


「錆兎、名前…何をしているんだ?」
「義勇さん!!」


助け舟とはまさにこの事かもしれない。と名を叫ぶ。助けてください義勇さん、錆兎さんのよく分からない暴走を止めて!


「義勇…」


錆兎さんは義勇さんを見据えるとスッと己の愛刀を掴み、義勇さんの肩を掴む。


「煉獄に決闘を申し込んでくる」
「錆兎さん!?」
「何故」
「名前が好いた相手がふさわしいか確かめる」
「分かった」
「分かった、じゃないですよ!?何義勇さんも一緒に行こうとしてるんですか!そ、それに刀を使用した隊士同士の争いはご法度です!!」


今度は錆兎さんの羽織の袖を掴み止めようと試みるが、この、力、強…っ何これさっきからどうなってるんですか水柱の体幹は!!


「安心しろ名前、刀は使わん。男なら拳だよな」
「俺はどうすればいいんだ」
「審判」
「請負っ「請け負わないでください!!!!」


錆兎さんは一度決めたら止まらないし、義勇さんは錆兎さんの言うことにはハイしか言わないし!

どうしよう、どうしようこれでは煉獄さんに迷惑が!かかる!私が勝手に、勝手に素敵な人だな、って思っているだけ、なのに!そもそも、私の気持ちに錆兎さんたちが、関わってくるの!おかしくないですか!?もう、もうこんなの、


「…です」
「?名前、どうした」
「二人とも!!勝手に!もう、もう嫌い!です!!!」


大きな声が食堂外まで響いた。
その場をたまたま通った蟲柱の話によると、珍しく怒った名前と、珍しく落ち込んだ錆兎と、ショックを受けて停止している義勇がいたとか。

隊士食堂の厨房係である、苗字名前には、水の加護が、ついている。並みの者では浮ついた気持ちでは近づくこともできないらしい。


という、あくまで噂話。



食堂係の受難



「苗字!」
「煉獄さん、こんにちは!ご飯すぐにご用意しますね」
「ああ、頼む!あと、確か君は水柱達とは旧知だったろうか?」
「は、はい、そうですがなにか、」
「いや何、最近…特に鱗滝から睨まれているようでな。何もした覚えもないし、君なら何か聞いているやもと…ん、苗字、どこにいくんだ?」
「すみません、煉獄さん、すぐにご飯はご用意しますので、今しばらくここでお待ちいただけますか?私ちょっと野暮用をすませますので」











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