「君はどの季節が好きだ?」

そう唐突に目の前の人に問われ、目を瞬いた。
今は秋。今日は綺麗な秋晴れ、散歩していた私たちの眼前には赤や黄色の美しい落ち葉が舞っている。それをみていた煉獄さんの、何気ない会話の一つなのだろうか。


「そうですね」


季節、季節か。うーん正直あまり意識したことがなかった。どの季節も好きだもの。ああ、けれど、そうだなぁ、


「敢えて言うならば‥秋でしょうか」
「秋か!」
「はい。煉獄さんはどの季節がお好きですか?」
「俺か?俺も秋が好きだ」


ぱぁと嬉しそうに笑う煉獄さん。色付く落ち葉を背にしたその様はとても綺麗だ。そのまま彼は、サツマイモが美味しい季節だからな!と付け足した。なるほど、とその言葉についと笑ってしまう。とても彼らしいと思ったのだ。


「む、おかしいか」
「ごめんなさい、あなたらしいと思って」
「そう言う君は、どうしてなんだ?」
「私ですか?私は‥」


色鮮やかに葉っぱが舞う、煉獄さんの色だ。その中に佇むあなたを今美しいと思ったから。なんて、


「‥内緒‥です!」


何を恥ずかしいことを。とても言えない。ごまかすように、そのまま煉獄さんより一歩二歩と先を進む。


「そう言われると気になる」


しかし物事はそううまくはいかない。
先を進もうとした私を、気になると言って追いかけてくる煉獄さん。あ、これ捕まったら問い質されるかもしれない、と思わずさらに先に進む私。察してさらに追いかける煉獄さん、と繰り返すうちに、結構ちゃんとした追いかけっこになってしまった。


「煉獄さん!怖いです!追い掛けないでください!」
「君が逃げるからだろう!」
「煉獄さんが追いかけるからですよ!?」


二人して年甲斐もなく何をやってるんだ。だけど、人間追いかけられると逃げたくなるというもの。ここで引き下がる性格でもない私は、本気で走る態勢に入る。


「懐かしい、追いかけっこは千寿郎とよくやった!追いつけたら理由を教えてくれ、名前!」
「いつからそのような事に!!」


そうして赤と黄色の絨毯を全速力で走る。絶対におかしい、私たちはただ落ち葉の中を散歩していただけだったのに!

その後、底なしの体力とありえない速さを誇る炎柱の脚力に案の定追いつかれてしまったが、私は頑なに黙秘権を行使したのだった。諦めた煉獄さんが珍しく拗ねたような顔をしていたのが印象深い。貴重なものをみれたなぁ、と思った。







それが
昨年の秋の事。

ヒラヒラと舞う赤と黄色の葉っぱ。季節が巡り変わる事なく行われる自然現象。その落ち葉に染まる道を一人私は進んでいた。


あのね、杏寿郎さん。


「秋はあなたの色が、沢山あって好きでした」


あの時言えなかった事を秋道にそっと白状する。秋が好きなのは貴方の色に世界が染まるからでした。


「でもね、どんな季節でもよかったんです」


春の桜も、
夏の青い空も、
秋の落ち葉も、
冬の雪も。


「貴方と見れるなら、どれもが美しかった」


だって、私の世界には常に貴方が真ん中にいた。どんな季節でも、貴方がいっとう美しかった。そんな事を言えば杏寿郎さんは照れたのかな、それとも笑ってくれたでしょうか。今はもうそれを知る術はないけれど。


けれど私が、貴方がいないこの道を、あの時以上に美しいと思える事は、決してないのだと思います。



めぐる



竈門君が貴方の最後の言付けを、私に伝えてくれた。


「『秋道にて君を待つ』、そう、煉獄さんは伝えて欲しいと」
「‥そっか、竈門君、ありがとう」
「いいえ、…!名前さん、大丈夫ですか」
「…ふふ、ごめんね、大丈夫、大丈夫だよ」









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -