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落ち着かない


「ねぇ本当に大丈夫? 私、で、出来てませんかね?」
「……症状が出ていないのなら大丈夫だと思われますよ」
「でも今月月のものが来てないんです。ねぇアオイさん、アオイさ、」
「ああもう! 柱になってもあなたは落ち着きがないですね、全く!」

おろおろとアオイさんの周りをうろつく私に、アオイさんは苛立ちが頂点に達したのか、そう怒鳴り付けた。ひっと縮こまる私を見て、アオイさんは深い深いため息をつくと、「いいですか」と私を指差した。

「そもそもそんなに焦るなら、なぜ抵抗しなかったのですか! あの人ならあなたの嫌がることはほとんどしないでしょう」
「そ、それは……」
「心当たりがあるんですか」
「……わ、私が、浮気しようとした、から」
「…………。は?」

後半につれて徐々に声が小さくなっていく。そんな私の言葉を聞いたアオイさんは、何とも言葉には形容しにくい表情で私を凝視した。

「だから炭治郎、怒っちゃって、私が悪いんだけど、でも炭治郎『ずっと前からこうしたかった』っていうから、強く嫌って言えなくなって……」
「いや、その前に、浮気とは?」
「た、炭治郎他の女の子にも優しいでしょう? カナヲとか、他にも隠の子とか。それにヤキモチ妬いちゃって、カッとなって、善逸とお茶して」
「よりにもよって善逸さん……」

そりゃ怒りますよ、と端的に発したアオイさんに、そうだよね、と私は顔を俯かせる。でも、話せる相手が善逸くらいしかいなかったのだ。他のひとには、『浮気しよう』だなんて言えないし。伊之助は古い言葉は変に覚えているけれど、浮気のうの字も知らなそうだし。

「言われたんです。「柱なんてやめてしまおう」「子が出来れば前線からおろされるだろう?」って」

それってまるで、そのためだけに子を作ろうとしているみたいで、怖くなった。彼にそんなつもりはなかったかもしれないけれど、まるでそう言われているような気がして嫌だったのだ。

「それなのに、流されるだけ流されて、結果こんな心配をするはめになりました」

馬鹿みたいですよね、と苦笑を漏らした私に、アオイさんはまたため息をついて、本当に馬鹿みたいですね、と一言返してきた。

「そんなに悩むのであれば、私に相談するより、ご本人に直接お話しした方が早そうですよ?」
「こ、こんなの言えないよ炭治郎に……」
「何が俺に言えないんだ?」

アオイさん側からは見えていたのだろう。炭治郎の姿が。
ひどい! 言ってくれればいいのに! とアオイさんに視線で訴えるけれど、彼女は素知らぬ顔をしている。

「ここじゃあ何だし外に行こうか。うんそうしよう、アオイさん、失礼しました」
「いえ、気にしなくて大丈夫です」
「あ、アオイさ〜ん……!」

助けを求めようとしたが、彼女はもうこの件に関わりたくないと思ったのか、それとも本人同士で話をつけろと言いたいのか、机に向き直ってしまった。その姿を見て、私はズルズルと炭治郎に引きずられながら廊下へと出ていく。
そうして暫く歩き、人気のない廊下で彼は私を壁へと押しやって、ドンと傍らに手をついた。

「何か悩みがあるのか?」
「そ、それは……」
「…俺には言えないことか?」
「…………」

黙りこんでしまった私を見て、炭治郎は困ったように眉を下げた。その顔したら私が何でも話すと思っているんでしょ。分かってるんだからね。そう簡単には、話さないんだからね。

「言っておくが、別に俺は柱から下ろしたいから子を作ろうとしたんじゃないぞ」
「!? 聞いてたの……」
「勘違いしているようだから、言ってしまうが」

こほん、と咳払いをして、彼は周囲に誰もいないことを確認すると、私に向き直る。そうして私の顎をすくいとると、唇を親指で押し上げた後に、優しく口づけをした。すぐに離れていった唇は、弧を描いてこう告げる。

「小夜莉が好きだから。小夜莉を愛してるから、君との子がほしいんだ」

決して、柱から下ろしたいからとか、単純に子が欲しいのではなく。私との子が欲しかったから、先日強行したのだと、炭治郎は言った。

「無理矢理はひどい」
「…うん、ごめんな」
「……許す」
「いいのか?」
「…次は、優しくしてね」

せめて同じ気持ちのときに、子はもうけたいものだ。そんな私の気持ちを察したのか、炭治郎は嬉しそうに笑って見せた。そろそろ自分の家に戻ろう、と歩き出すと、炭治郎は私の体を引き寄せる。

「それで、アオイさんに何か言われた?」

炭治郎のその言葉に、私は恐る恐る振り返る。その瞳は期待を孕んだような熱を帯びていて、私はその視線に心臓を跳ねさせながら、首をゆっくり横に振った。

「そうか。……残念だなぁ」

そういって、私の体を背後から包み込むと、優しく私のお腹を撫でる。その手つきは、彼の欲望が滲み出ていて、私はごくりと生唾を飲み込んで、その手に自分の手を重ねた。どっどっと心臓が高鳴るのがよく分かる。

「……こんな守り方しか出来なくて、ごめんな」

悲しみの浮かんだ声色に、私の瞳に涙が滲んだ。謝らないで、わかってるよ。炭治郎は危ないから、私を前線から引き下げたいんだよね。

「私、炭治郎との子なら、後悔しないよ…むしろうれしいよ…?」

私の肩に顔を埋めていた炭治郎を励ますようにそう言うと、炭治郎は顔をあげて私の唇を奪った。ぐぐっ、と押し付けるように責めてくる彼に、背中が反れる。体勢を崩しかけた私の体を抱き止めて、私の唇を食む。

「は…っ…たんじろ…」
「小夜莉はそういうことを言うから、油断ならない」

俺をどうするつもりだ、とからかうように笑った炭治郎に、顔が赤くなっていく。そういう炭治郎こそ、こういうことをやるんだから、本当に油断できないひとだ。