「…えっと…」
「っ見るな!」
「あ、ごめん…?」


(…最悪だ…)


確かに相手をうけるだと思いこもうとした、それは認める。でもまさかこんなことになるなんて思ってもみなかったんだ。

力の抜けていた足はなんとか閉じたものの、それでも下半身に何もまとっていないのは変わらない。


「くそ…」


最悪だと思っているのは、むしろうけるのほうだろう。突然こんなところに呼ばれて、しかもこんな俺の姿を見せられてー…

不甲斐なさに俯いていると、ぎしりと音をたててベッドがきしんだ。視界に影が差す。
見上げればうけるが近づいていた。いつかのように、俺を静かに見下ろすその顔。
何か言わなければ。そう思って開いた口だったが、結局何も言うことができずに閉じて終わってしまう。
高ぶったせいで熱い頬を、冷たい手の平で撫でられた。ひんやりとした冷たさが気持ちよくて、うっかりすり寄ってしまいそうになる。
いつの間にやら頬を伝っていたらしい涙をぬぐわれた。


「自分でしてた…ってわけじゃなさそうだね。しかも手錠まで…、誰かにされたの?」
「っ…」
「…で、さっきまで触られてたんだ」


あの赤髪、今度会ったらどうしてやろうか。体中べたべた触りやがって、と唇を噛み締めていると、不意打ちのように太ももをするりと撫でられ思考が引き戻される。


「…ここまで濡れてるね」
「え、は…?」


先走りでぬるつく肌を滑っていく指が、後腔のまわりをくるりと撫でる。予期せぬその動きに体が強張った。


「ちょっ…待てうける…っうぁ」


制止の声も虚しく、つぷんと入れられた指先。節だった男のそれがなかに入ってくる。そしてそのまま浅いところで指を抜き差しされた。指の動きにあわせてちゅぽちゅぽと水音が鳴る。


「こっちも触られてるのかと思ったけど…」
「んなとこ触る奴がいるかよ…っやめ、」


押し返そうと手を動かしても、手首の手錠が嫌な金属音をたてるだけだった。振り上げた足が空をきる。


「抵抗する力も残ってないじゃん。ほんと何されたの…」
「抵抗してん、だろっ…も、抜け…あああぁぁっ!!」


ぐ、と深くまで入れられた指がある一点をかすめた瞬間、強烈な刺激が背骨を走った。脳までしびれるかのような、抗いようのない快感に混乱が止まらない。
指でそこを押し上げられるたびに腰が跳ねる。声が抑えられなかった。


「な、なん…こんなの変だっあ、ふっンン…!」
「大丈夫、こんなに感じてるんだから」
「っは、だからっそれが変だって、」
「変じゃないよ、俺の指だけに集中して」


その言葉に、指をきゅうと締め付けてしまう。なかの指の動きをリアルに感じて、もううけるの顔を見ることができなくなった。

一度抜かれたものの、呼吸を落ち着ける前に再び入れられてしまう。しかも今度は本数が増えていた。
なかを広げられる感覚に、おのずと呼吸が浅くなる。入れられた二本の指の隙間から漏れる水音が信じられなかった。足がシーツに皺を刻む。


「うぁっあ、やめ、そこ触んなぁ…ッ!」


なかからの刺激で勃ちあがったそれを扱かれる。さきほどまでの想像なんかではなくて、本人に触られているのかと思うと体がカッと熱をもった。
与えられるすべてに感じている自分の声なんて聞きたくもない。口をおさえようにも耳をふさごうにも、そのための手はやっぱり拘束されたままで。

じわじわと腰から広がる快感と、ふわつく思考。体がどんどん快感に支配されていく。


「…気持ちいい?」
「ん、きもち…」


俺を覆う体。耳元に寄せられた口がつむいだ言葉に反射的にそう答えれば、ふっと笑われた。


「そっか」
「っ、あ、ちが…!はぁっは、待っ…ッん!」


耳にキスをされて、それが合図だったかのように指の動きが激しくなった。前なのか後ろなのか、どちらで感じてしまっているのかもうわからない。
なかのあの場所を擦る指も、前を扱く手も、気まぐれに落とされるキスでさえ優しくて、まるで恋人どうしかのような錯覚に陥ってしまう。
そして、のぼりつめる、という瞬間に亀頭をひっかかれて、俺は目を見開いた。


「…っひ、ぁ、イクっも、イク…んぅっン、ンンーーー〜…っ!!」


声を抑えようと引き結んだはずの唇をこじ開けるようにして入り込んできた舌。喘ぎも吐息もすべてふさがれる。
びくびくと体が跳ねて、無意識のままなかの指も締め付けていた。あの赤髪にさんざん焦らされていたせいで、まともに触られたらひとたまりもなくて。


「…あ、ァ……ひ…」


整わない呼吸とぴくぴく震える腹筋の動きにつられて、腹を汚した精液が伝い落ちていく。
やっと引き抜かれた指に、ひくりと喉が鳴った。

荒い呼吸を繰り返していた俺をなんとも言えない顔で見る男を睨みつける。は、は、と熱い吐息が漏れた。


「…なんだよ」
「いやなんか…エロいなって…」
「ッ、誰のせいだ…!!」


片足を振り上げてもひょいと避けられ、受け止められてしまう。
そういえば、と思い出したかのようにうけるは口を開いた。こいつさては話逸らしたな。


「こんなベッドとか手錠とか…今までなかったのになんでかな…?」
「…あー…いやそれがな」


あの赤髪のことは言わずに、この部屋の特性を説明する。うけるはしばし考えこんだかと思うと、じっと俺を見つめた。


「じゃあ俺を呼んだのはせめるくんなわけ?」
「…は、……知らね」
「そっかそっかぁ」
「ッその顔やめろ…!」


ぎゃーぎゃー騒いでいると、解錠の音とともに手錠がはずれた。ハッとしてそちらを見るも、はずれたはずの手錠はどこにもない。
うけると顔を見合わせる。もしかしたら下に落ちたのかもしれないとベッドを降りて振り返ってみれば、手錠と同じくベッドも跡形もなく消え失せていた。


(なんなんだこの部屋は…)


結局、部屋はいつもの何もない空間に戻ってしまった。


「…せめるくん、早くここから出よう」


どうにも気味が悪くて、うけるの言葉に頷くと服を整えてすぐに部屋を出た。

これはあとあと思い出すことなのだが、そのときの俺はこの部屋の不思議な現象ばかりに気をとられて、うけるにとんでもないことをされた事実をすっかり忘れていたのである。

【Mission complete】


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