いい加減見飽きた景色に、もはやため息すら出なかった。


『イかせないと出られない部屋』


しかもとんでもない条件付きだ。今回もどうせうけるなのだろうと、そう思っていた俺は、聞き覚えのない声を耳にして体を強張らせた。


「え、なーにこの部屋」


緩い口調。赤い髪の男がそこにいた。


「……てめー誰だよ…」
「きみ、せめるくんだよね?ね?そうでしょ?」


嬉々として近づいて来る男から距離をとる。俺はこんな男、知らない。


「…だったらなんだ」
「うわー本物…!俺はたべるっていうの、よろしくー」


にこにこと上機嫌なそいつ。気味の悪い男だ。


「…せめるくんはこの部屋初めてじゃないみたいだね」
「は…?」
「だって最初慌ててなかったし。もう何度かあったの?こういうこと」


図星だった。黙ったままの俺を見て肯定と受け取った男は続ける。


「そんで相手はうけるくん?いつも一緒だもんねー」


まともに相手にするのはやめて、俺は無視を決め込んだ。どうせこの男も俺に答えは求めていないのだろう。
そのまま、沈黙が部屋を包んだ。条件が条件なだけに気が乗らない。

ちらりと男の様子を窺えば目が合った。その目が弧を描く。なんとなく嫌な予感がして、距離をとろうとした瞬間だった。
ぽん、という謎の音がしたかと思うと、すぐ横に真っ白なデカいベッドが出てきた。部屋の色と同じそれに目を点にしていると、肩を押され、そこに押し倒される。


「ざけんな、どけ…っ!?」


起き上がろうと手を動かせば、頭上からジャラリという金属音がした。ハッして見上げると、ベッド上部の柵へと続く鎖が俺の両手首の手錠へとつながっている。


「なん、だ……これ…?」
「ははっ!この部屋すごいね…!望んだ通りになるんだぁ」


望んだ通りに…?
つまり、こいつがベッドを望んだからベッドが出てきて、俺を拘束したいと思ったから現に拘束されている。そういうことか?
この部屋にそんな特性があるなんて知らなかった。今まで何も起きなかったのは、俺とうけるが何も望まなかったから…ということなのだろうか。


「ね、うけるくんとは付き合ってるの?もうヤった?」
「っ…俺とあいつはそういう関係じゃねぇ…!」
「ふぅん、友達なんだ…こんな条件出してくる部屋に何度も閉じ込められたのに…?」
「そっ…れは…」


何もしていない、とは言い切れない。ただの友達ではしないことをした、そんな自覚はある。
何度となくうけると重ねた唇を噛み締めて、目を逸らした。


「ま、今日は俺とやらしいことしよーね、せめるくん」
「さわ、ンな…!っぐ、放せ!」


服のなかに入ってくる冷たい手に、びくりと肩が揺れる。本能的に、この男はやばいと思った。顔の横につかれた手に、ベッドが軋んだ音をあげる。


「さァて、楽しもうね…?」


俺を見下ろす男は楽しそうに口角を上げた。


「っあ、あ、……も、やめッ」
「やめたら部屋から出られないよ、出たくないの?」
「くそ、…っふ、ふぁ…ッ…死ね」
「はー…たまんないねほんと」


最悪だ。ジャラジャラと音をたてる手錠は、完全に俺の手の自由を奪っていた。こいつの体があるせいで足を閉じることもかなわない。
着ていたものは上以外全て脱がされ、片足にかろうじて下着がひっかかっている。

一度イかせてしまえば解放されることを理解しているらしいこの男は、その一回を長く楽しむつもりのようだ。決定的な刺激は与えられないまま、俺は随分長い間ペニスを嬲られ続けていた。
ぬちゃ、と濡れた音をわざとたてられて、しかし耳をふさごうにも手は拘束されている。そんな現実に舌打ちをした。


「それで…?うけるくんともこんなことしたの?」
「…して、ねぇよッ」
「へぇ…じゃーキスは?した?」


顔を背ければ、正直だねと笑われた。
顎を掴まれ正面を向かされる。嫌な笑みを浮かべるその顔を睨むと、ますます楽しそうな顔をしたそいつの唇が俺の唇と重なった。タイミングよく限界ギリギリなペニスを上下に扱かれる。その刺激に我慢ならずに声をあげた瞬間、舌の侵入を許してしまった。


「っ!?や、めッ…んんー…!」


暴れすぎたせいか、体が疲れ果てて力が入らない。嫌だ嫌だと思うのに触られたらどうしても体が反応してしまう。
なんでこんな男に…最悪だ。悔しさと嫌悪と情けなさで視界が滲み始める。そこに快感が追い打ちをかけて、もうなにがなんだかわからなくなった。
口内を動き回る舌。頭がおかしくなりそうで、それならばいっそ…気持ち良いことだと思い込んでしまおうと思った。

きつく目を閉じる。視界をシャットアウトしてしまえば、混乱していた脳は簡単に騙すことができた。この体に触れる手も口もすべて別人のそれに変換される。
そう思ってしまった方がずっと気が楽で、俺は現実から逃げたのだ。
途端に快感が増して、わけもわからず声をあげる。


「ああぁっ…、は、…っうけ、るッ、」


その瞬間、ぽん、という音と共に俺の体を覆っていた影が消えた。
何事かと目を開ければ、あの男の姿はどこにもなかった。その代わりにー…


「…うける…」
「えっあれ…せめるくん?なんで?」


信じられなくて、呆然と名前を呼んだ。なんで、なんて俺が聞きたい。
あのふざけた男が消えたかと思えば、ベッドの上にうけるがいた。なにが起きたんだ、と目を瞬かせる。

そんなとき思い出したのは、あの赤髪の男の言葉。

『この部屋すごいね…!望んだ通りになるんだぁ』


(望んだ…通りに…?)


いまだに状況を把握できていない様子のうける。
一方の俺は、この現象の意味を理解して、あまりの恥ずかしさに叫び出したい気持ちでいっぱいだった。


【To be continued…?】


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