「せめる君ってほんと寒がりだよね」
「…別に…普通だろ」
「へぇ…?」


俺の服装を見て、うけるは笑った。


「な、んだよ…」
「いやぁ…あったかそうだなと思って」


コートに始まり、マフラーに手袋。加えて耳元ギリギリまで被ったニット帽。
冬は憂鬱だ。12月にさしかかる頃には、防寒グッズが手放せなくなる。

見慣れた下校風景も、最近はもの寂しくなった。緑から茶へ、ほとんどの植物が季節の移り変わりとともに色を変えている。
ため息をつけば、それは白く、しかしすぐに宙に溶けて消えてしまう。

うけるは、学ランの首元を上に引き上げた。いくらそうしたところで、所詮制服だ。防寒具にはなりはしない。
びゅう、と吹いた風に、二人して首をすくめる。


「おまえも寒いんじゃねぇか」
「せめる君ほどじゃないけどね」


そう言って、そろそろマフラーしなきゃかな、と首元に手をやる。おまえはコートも着るべきだ。
なんで同じところに住んでるのにこんなにも格好が違うのか、と呆れてしまう。子どもは風の子と言うが、まさかまだそんな…と自分よりも断然薄着な姿を目に収めた。


「せめる君、耳…真っ赤だね」
「おまえもだろ」


言い返せば、俺はいいの、と笑う。おまえはよくて、俺がだめなのはなんでだ。
ときどき、こいつの判断基準がわからなくなる。


「…耳当てもすればいいのに。確か持ってなかったっけ?」
「…え、あ…ある、けど」
「けど、なに?」


(…してたら、話せねーし…)


口が裂けても言えない。冬が来るたび、冷えた風に耳が痛んでも、これだけは絶対に。
耳当てのおかげで暖かさを得たところで、結局は会話のために外すはめになるのだ。ならば、最初からしない方が諦めがつく。
耳当てをしない代わりに、ニット帽を深く被ることで今は落ち着いている。


「……弟にやった」
「じゃあ今度買いに行こ、見てて寒そうだし」
「…ッいや、いい」
「そう?」


ぽろりと出た嘘を拾われる。
買ってしまっては、しないわけにはいかなくなる。そうなると、もう言い訳はできない。


太陽が雲に隠されてしまったせいで、唯一の暖かさを失った。感じる寒さは、先ほどの比にならない。

うけるは俺の返答に残念そうにしたと思えば、すぐに正面を向いて声を弾ませた。


「でも良かった、耳当てしてると俺の声聞こえないもんね」
「…うぬぼれんなアホ」


短くはないこの通学路を共に歩く時間を、無言で過ごしたくはない。そこに特に深い意味はないのだが、こいつも同じことを考えていたのかと思うと、冷えきったはずの体が、ぽかりと温かくなった。気がした。


(悪くないな…)


それにしても…
12月頭でこんなにも寒いのだ。1月2月にはもう凍えてしまうんじゃないだろうか。

教室の暖房も効きが悪いし、もうできることなら家から出ることなく過ごしたいくらいだ。


(…こたつ…)


冬と言えばこたつだというのに、うちの家族は俺以外揃いも揃って暑がりだ。こたつなんて、我が家に存在しない。
床暖房があるおかげで、さらにそれは俺の家では必要性を失って、きっともう我が家にこたつがやってくることはない。

俯いて、道端の小石を蹴った。ころころと転がったそれは、草むらへと姿を消す。
少し前を歩いていたうけるが、その音に気づいて振り向いた。俯いたままの俺を呼ぶ。
顔を上げれば、奴はなんでもないように、しかし、俺にとってはとんでもない爆弾を落とした。


「あ、そうそう。俺ん家昨日こたつ出したよ」
「え、」


目を見開く。
そして、数歩先のうけるは、首をゆるりと傾けて言った。癖のある髪が揺らぐ。


「うち、来る?」


俺が断ることはないとでも思っていそうなその言葉。それに頷いてしまうのは癪だが、こうなってはもう仕方がない。


「……行く…」


小さく首を縦に振って、そのままマフラーに顔をうずめた。
どこがとは言わずに、真っ赤だねと笑ったうける。返事はせずに、黙って足を蹴ってやった。


いつもの曲がり角で別れることなく、今日は最後まで一緒だった。
明日から、こうなる回数が増えそうだと、こたつに囚われた頭で考えた。


冬は憂鬱だ。きっと何もかも、この男にはお見通しなのだろう。


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(こたつで何しよっか)
(…なに、って何すんだよ…)
(昼寝とか)
(……する)


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