味噌汁から始まる恋もある |
世間で話題の圧迫面接のようだと、この空間にいる誰もが思った。そんな空気を作り上げているひとりを除いて。 「結論から言う、採用だ」 「あ…ありがとうございます!」 「よかったねぇ、君の作るご飯、楽しみにしてるよ」 「っはい!」 「…よく聞け、俺は和食派だ」 「なるほど、」 「なーに言ってんの、いっつもパスタだのステーキだの食べてるくせに」 「お、まえは黙ってろ…」 「こいつはねー、朝はフレンチトーストとかスクランブルエッグとか食べるから覚えといてねー、あと、俺が好きなのはオムライスとシチューとハンバーグと…」 「え、あ、メモしていいですか…?」 「ふふ、この子真面目だねぇ?」 「だから、おまえは、黙って、ろ!」 「むぐ!?」 「(ひぃぃい)」 長机の上に無造作に置かれていた書類らしきもの。それがぐしゃりと音をたてて丸められたかと思うと、先ほどまで陽気な言葉をつむいでいた口につっこまれた。なんという瞬間技だ。 あまりの衝撃に、そんな仕打ちを受けた彼は部屋を出て行ってしまった。 「あいつの言ったことは忘れていい、つーか忘れろ、お前が覚えるのは俺のことだけだ」 「は、はい(この人やばい人だ…)」 「俺は朝昼夜一日3食必ず食べる、特に好き嫌いはない」 「えっ、と…(メモメモ…)」 「それで、だ…ここからが重要だ」 ごくり。喉が鳴る。 「食事のなかでも一番大事にしているのが朝飯だ、一日の良し悪しはこれで決まると言っても過言ではない、そうだろう?」 「そ…です、ね、?」 「俺は日本人として和食に誇りをもっている、お前も俺の料理人として誇りを持て」 「…わかりました(一体なんの話だろう)」 「さて、日本の朝飯に欠かせないものと言えば何だ」 「えっあっ、白ご飯とお味噌汁、ですかね…あとはお漬物とか…」 「そう、味噌汁」 「(え、味噌汁だけ???)」 「おい、そこのお前。今すぐ日本で一番美味い味噌を取り寄せろ、期限は明日の朝までだ」 「しょっ承知しました!」 とんでもない命令を受けた使用人が、部屋から駆け出て行く。 残された者の気持ちは同じだった。自分も早くここから出ていきたい。 「(な、なんだか大変なことになってしまった…)」 「おい、聞いているか?」 「はっはいぃッ!」 「その、なんだ…一番伝えておきたい、ことは、だな…」 「……?」 「つ、つまり、は…その…」 「……??」 「お前は、毎朝俺に味噌汁を作れ!」 「?…はい(よかった…危ないことじゃない…)」 やりきった、と言わんばかりの主人の顔に、そこに居合わせた使用人は皆頭を抱えた。 とうの本人には何も伝わっていないのに、何をやりきったというのか。 こんな主に仕えている自分って…と真剣に転職を考え始める者もいたりいなかったり… 毎朝俺に味噌汁を作ってください ((それは、不器用なプロポーズ)) -------------------- (お味噌汁だけでいいんですか?あの、よければ白ご飯や焼き魚なども…) (魚は骨が…いやなんでもない、出せ) お屋敷専属の料理人の採用試験にて一目惚れしたが、あまりにもありきたりなプロポーズをしたためにまったく相手にされず、しかしめげることなく嫁♂にしようとする金持ちの話 (2014/11/22→いい夫婦の日) 〜プロポーズは計画的に〜 |