「「…ん?」」


こんなこと、前にもあった。思い出したくもないが。


「またおまえか」
「また俺だね」


気づけば白い部屋。そんな気味の悪いことが二度もあってたまるか。
しかし、現実にそれは起きている。


「今回は何すれば出られるのかわかんないね」
「…どうすんだよ」
「手当たり次第なんでもしてみる?」
「ばッ、するわけねーだろ!!」


そっか、と笑ううける。ふわりとした髪が揺れた。
触り心地が良さそうだと、純粋にそう思った。


そんな余韻は、すぐに消え失せることになる。ゴゴゴという、何か大きなものが動き始める音によって。


「なに、…なんだよ…これ…」
「…わからない。けど、大丈夫だから落ち着いて」
「なにが大丈夫だよ!?」


地鳴りのような音は鳴りやまない。
何が起きているんだ、と白い壁をぐるりと見渡した。


「これ…、」
「あ…?」
「…壁が、動いてる」
「あァ!?」


部屋の角に目をやりながら、うけるが呟いた。
すべてが白いせいで気づけなかったが、確かに奥の壁が近くなって部屋が狭くなっている。
向こう側から音がしているということから考えても、動いているのはあちらの壁だけ。
なんにせよ、こちら側の壁が動いていないことだけが救いだった。


だんだんと広さを失っていく部屋。
おそらく最初は正方形に近かったであろうこの空間は、今はもう縦長の箱へと形を変えていた。
もともとそれほど広くもなかった部屋だけに、圧迫感がひどい。


「今回は時間無制限じゃないみたいだ」
「…わかってる」
「何しようか…ハグとかどう?」
「やってみて違ったら殺すぞ」


互いに向き合う。睨むように瞳を見つめ返せば、うけるのたれ目が甘さを増した。


「まあとりあえず…」
「、ぅお」
「はい、ぎゅー」


なんとなく雰囲気に耐えられずに体を強張らせていると、腕を引かれた。そして気づけば、うけるの腕のなか。
俺を受け止めた衝撃で揺らぐこともなかったその体は、服の上からではわからないものの、もしかしたら相当鍛えてあるのかもしれない。ぼんやりと、頭の片隅でそんなことを考えた。

壁が止まってここから解放されるなら何でもいい。これくらいのことはどうってことないと、冷静な思考とは裏腹にはやる鼓動に言い聞かせる。


(……ぬくい、…)


そろそろとうけるの背中に腕をまわしてみたが、腕の置き場所がわからずに、結局は服を掴んだ。
そんな俺の様子に、うけるは肩を揺らす。ムカつくから笑うな。


「「………」」


しかし、俺たちの譲歩も虚しく、音は止まない。迫り来る壁も止まることなくこちらへ向かってきていた。あと4、5メートルといったところか。


「……死ね」
「まあまあ。ものは試しでしょ」


(…ほんと…どうすんだよ…)


ぽんぽんと頭を撫でられて、そのまま腕を解かれる。まだ策はあるよと、奴は笑った。


じりじりと壁際に追い込まれていく。
一刻も早く、何か行動を起こさなければならないというのに。一体何をすれば正解なのか。

ちらりとうけるを見れば複雑そうな顔をしていて、うける、と名前を呼べばその眉間の皺を深くした。


「キスっていっても前回したし…また同じお題だとは考えにくいよね」


そう言って、壁を見ることなく俺を見つめる。

なおも動き続ける壁が、向かい合う俺たちの距離を縮めていく。少しでも距離をとろうと後ろに足を動かせば、それはすぐに壁にぶつかって、もう逃げ場はないのだと思い知った。


1メートルほどまで迫った壁。
ほどなくして、うけるの背にそれが触れた。


「本格的にやばいかも…」


そんな言葉と共に、とん、と顔の両側に伸ばされた腕。拳から肘まで壁についたせいで、うけると俺の距離は信じられないくらい近くなった。

こんな体勢では、遅かれ早かれ必然的にキスしてしまう。
とにかくこの距離をどうにかしようと、顔を逸らした。


「……動かないで。唇、当たっちゃうよ」
「ッみ、みもとで喋んな…クソ、」


逸らしたせいで差し出してしまった耳に、吐息まじりの言葉。悪態をついてやり過ごそうとしても、そこは熱い。
物理的に耳までの距離が近いせいで、すぐそばにいるのだと無理やりにでも理解させられる、それが嫌だった。


我慢ならずに、正面に向き直る。偶然視界に入ったその様子に目を見開いた。
うけるの肩から腕までが微かに震えている。壁からの圧力をじかに受けているのだから、それも当然か。


(…守られてる、のか…)


どうにもむずかゆい気持ちになって、俯く。その矢先、うけるが短く息を吐き出した。


「…ごめん、もう、踏ん張れない、」


鼻先が触れる。静かにこぼされた最後の言葉に、俺はぎゅっと目を閉じた。


(もう、心臓やば…)


口を引き結んだ。思わず作った拳が震える。

そして、唇がゼロ距離に。
…なる寸前、壁の移動音が止んだ。

停止した壁は、今度は遠ざかっていくように、ゆっくりと移動し始める。
揃いも揃って、俺とうけるはアホ面になった。


やっと状況を把握する。
俺たちは何かに正解したようだ。だが、それは何だったのかー…


『壁ドンしないと出られない部屋』


「はぁあああああ!?」
「…なるほど」
「なるほどじゃねーよ」


離れろ、と睨めば、俺を囲っていた腕が下ろされる。障害物がなくなったのをいいことに、うけると距離をとれば、一瞬目を見開いた後くすりと笑われた。

よかった、と小さく呟かれた一言は、俺に聞こえることはなく。


待ち望んだ解錠の音がした。
【Misson complete】

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(残念だった?)
(なにが)
(キス、)
(…ッ)
(しそこねちゃったね?)


新感覚の出られない部屋
吊り橋効果的な


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