STEP.1

嫌われている、わけではないと思う。

妙にきゃぴきゃぴした男子達しかり、ガタイのいい野郎共しかり、皆どこかしらの集団に属し、なんらかの関係をもっているものだ。それが、俺にはない、ただ、それだけ。


ただ、それだけの事実が、苦しい。


生徒会長になって、多くの生徒に認められて、生徒会役員とともにいることが多くなっても、それは"生徒会"だからであって、形式的なものに過ぎない。
きっと、任期を終えれば壊れてしまうんだろう。


いつまでも変わらないままの関係。
友人、それはいったいどんな関係をいうのか。どうすれば、得ることができるのか。


いくら完全無欠と褒められようと、俺には遠くて、眩しくて、そして―


(一生手に入ることのない、そんな本物の関係)


目はパソコンの画面の文字を追い、指はキーボードをたたく。
いつもと変わらない仕事。しかし、しなければならない仕事。


「生徒会長さんよォ」


生徒会役員とも、決して険悪なわけではない。皆優秀で、いつも助けられている。
だが、友人か?と聞かれると、それもまた違うような、なんというか、良い仕事仲間のようなそんな感じで。


「テメェ、さっきからシカトしてんじゃねーよ。その立派な耳は飾りか?」
「……、柴崎…」
「んだよ、聞こえてんなら返事しろ」


俺を見下ろすこの男は、柴崎。我が校の風紀委員長だ。少し前から生徒会室が騒がしくなったと思っていたが、この男が来たせいだったのか。


柴崎は、喧嘩がめっぽう強い、ただその理由だけでこの職に就いた。が、髪色・装飾品・服装、そのどれをとっても役職にそぐわない。
風紀を取り締まる立場にいながら、その姿はまさしく不良だった。


パソコンの画面に向いていた目線を、上に。今日も相変わらず柴崎は不良だ。
会長席の椅子にゆっくりと座り直し、口を開いた。


「この耳は飾りではない。」
「…誰がそっちの返事くれって言ったよ、馬鹿か」
「それよりも、柴崎」
「あァ?」
「寮の改修工事の件だ。そのことで来たのだろう?」


先ほどから適当に聞き流していた柴崎の話だが、ようは改修工事の話だ。

この学園には学生寮が2棟存在する。
生徒会が監督する香花寮、風紀委員会が監督する香葉寮。
その老朽化にともない、片方ずつ修繕を行うことが理事会で決定された。

理事会からこちらに連絡が来ていたが、同様に風紀委員会にも連絡があったのだろう。


「そのことで来たのだろう?じゃねーよ!テメェのせいで余計な時間くってんだろーが、四ノ宮ァ…」
「まぁ落ち着け。部屋割りならもう作ってある」


目線を左に向け、峰と呼べば、印刷済みの書類が柴崎に差し出される。峰は副会長だ。
ふん、と不服そうにその紙を受け取って、中身に目を通す柴崎。眉間の皺は寄ったままだった。


柴崎に渡されたものと同じ書類が、俺の手元に置かれる。目で追えば、峰が小さく微笑んだ。
よくできた男だ、と思う。しかし、それと同時に、残念にも思うのだ。
彼は常にこうして親切にしてくれるのだが、俺に対してだけ敬語が抜けない。
つまり、わかりやすく距離を置かれているのだ。

高校生にもなって、友人になろうと言葉にすることは少し、いやかなり気恥しい俺は、いまだに峰とは仕事仲間のままだった。


(きっとそれは、これからも変わることはないな…)


小さな溜息をつきながら、手元の書類を見る。

片方が工事をしている間、その寮を使っている生徒は別棟の部屋に移り生活をする。簡単に言えば、すでに使われている部屋に居候する、ということになる。
向き合いように建てられたこの2つの寮の構造は全く同じで、それは、今回のような際に別棟の部屋に移動しても不自由なく生活できるように、という配慮からだった。


妙に静かだと思っていたその矢先。


「…おい、四ノ宮」
「なんだ、何か問題でもあるのか?」
「問題ありまくりだろうが!なんで俺とお前が同室なんだよ!?」


やはり、か。柴崎の鋭い眼光が俺を射抜く。


理事会の決定により、最初に着工されるのは、香花寮。したがって、俺たち生徒会役員をはじめとする香花寮の生徒は香葉寮に移ることになる。

移動することになった生徒は同じクラスの生徒の部屋に割り振ったりと、それなりに考慮はした。が、この男が言いたいのはそういうことではない。


「仕方がないだろう、役付の俺たちが一般生徒と同室になると面倒なことが多い」
「そ、れは…だが待て。よく考えろ、俺とお前だぞ…一緒に生活できるわけねーだろ」


同じ生徒会でも峰とかなら、とぶつぶつ呟く柴崎。


(…峰なら、か…)


確かにこいつとは顔を合わせる度に言い合いになる。生活が成り立たない、確かにそうかもしれない。だが、と柴崎を見上げた。


「俺と同じ部屋なのは嫌か?」
「嫌かって、テメェも嫌だろうがよ。俺と同じ部屋なんざ」
「…、別に嫌ではない」
「……は?」
「嫌ではないと言った。その耳は飾りか?柴崎」


数分前に使われた言葉を、今度は俺から。
冗談めかして笑えば、柴崎は豆鉄砲をくらった鳩のような顔をして固まった。


こいつが静かなうちに生徒会室から追い出してしまおう。峰に目配せすれば、峰と書記の川上が柴崎を連れて行った。


すっかり静寂を取り戻した生徒会室で、俺は一仕事終えたように椅子の背もたれにもたれる。この数分でものすごく疲れた気がする。


柴崎のことは嫌いではない。騒がしい男ではあるが、風紀の仕事をきちんとこなしていることは知っている。
それに、嫌だ、と言われてしまっても部屋割りはこのままでいくつもりだった。


(さぁ、忙しくなるぞ)


部屋の移動は来週にせまっていた。


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四ノ宮…会長
柴崎…風紀委員長
峰…副会長
川上…書記
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