20

場所は変わって、俺たちは今…えっと…今…


「…今、どこにいるんですかね…?」
「、」


隣で紙パックのジュースを飲んでいたあっきーが、思い切りストローをズズッと鳴らした。あ、むせてる。


はい、皆さんこんにちは。久々の外出にテンションがどうにもおかしいおかしいと巷で噂な俺です。嘘です、噂なんてないです。

とりあえず不良さんと平凡君を追おうと学園の外に出て早1時間。
街中を歩いている俺達。その前方には、俺達の追う二人の姿。

ちら、と前方を窺うと―…
平凡君が少し後ろを歩こうとするのを、不良さんが腕を引っ張って横に並ばせて。そんな不良さんの行動にきょとん顔の平凡君。

これが見れたからもう何だっていい。萌え。激しく萌え…!
街最高!街未知数!
こんなの絶対校内じゃ見られない。みたいな感じで満ち足りた時間を過ごしている。


やっと落ち着いたらしいあっきーから、信じられないものでも見るかのような視線に晒されつつ、休日で賑わう街中を行く。


「…学園から一番近い街だっつーのに、知らねぇのかよ」
「何て言うか、うーん…こういう都会には慣れてなくて。っえ、ありがとうございます」
「はっ、とんだ田舎者じゃねえか」
「そもそも、街ってこんなに人多いとは思わな、あ。ありがとうございます、」
「―…てめえはさっきから誰に感謝して、ん、だ……」


あっきーが俺の手元を凝視。本人は一瞬で済ますつもりだったようだが、あまりの光景に目をぱちくりと瞬かせる。

そんな彼に見えやすいようにと、両手を動かせば、手の中いっぱいの戦利品がこぼれ落ちかけて内心慌てた。


「歩くだけでこんなにティッシュ貰える俺って才能あるよね。いくつか分けてあげようか?」
「いらねえよ、アホが」
「…あっきーってば、自分が1個も貰えなかったからって強がらなくても、」
「うぜぇ」
「まあ、ちょっと貰い過ぎた感は否めないけど。…でもさ、何か嬉しいね」


俺は何だかよくわからない達成感を感じながら、両手いっぱいのポケットティッシュを見つめた。
これ鞄に全部入りきらないんじゃ…、なんて心配が一瞬だけ頭を過るも、あっきーの鞄にあとでこっそり入れちゃおうという悪知恵を働かせて解決。


「…、…バカじゃねえの」


呆れたように俺から目線を逸らして、一言呟いたあっきーの声は、俺の耳に届く前に街の喧騒に掻き消された。


そして今。
映画館に入ってしまった2人を追って、仕方なく俺達も映画をみることになりました。

平凡君がポスターを指さして、あれ見たかったんですよね、と笑う。そんな平凡君に微笑む不良さん。

何、何なの!?そのほわほわ何なの!?お兄さんは嬉しいです!


「げ、…あれ見るのかよ…」


そんな俺をよそに、隣のあっきーは何とも嫌そうな声をだす。
そういえばどんな映画なんだろう、と俺も平凡君が指さしたポスターに目を向けた。

恋愛系とかかなぁ?…って、え…ええええええ…


「…ホラー…ですか…」
「絶叫シリーズ第3弾、逃れられない恐怖、前作を上回るリアリティー…だとさ。」
「ま、まじですか…」


ポスターの煽り文句を読み上げるあっきー。
前作を上回るってどの程度ですか。リアリティーってどの程度ですか。

平凡君のチョイスにびっくりだよ、本当。実は非凡なの?中身非凡なの?何それ美味しい。
そして不良さんもそのチョイスに驚かずに微笑むっていうね。


「なんだお前、怖がってんのかよ。だっせ」
「そんな馬鹿な。俺、腐男子だよ?」
「…どんな根拠だよ…」


そんなこんなしながら映画のチケットを買って、後ろの方の座席に座った。
平凡君と不良さんを探せば、一番いい場所に場所とってて何かもう、うん。お互いホラー好きなのね、うん。


上映まで少し時間があるものの、ホラーということもあってか観客は少ない。
その時間を使ってどうやら飲み物を買いに行くらしいあっきーに、俺オレンジジュースね、と言えば頭を叩かれた。暴力、よくない。

それにしても、うーん…なんだかなぁ…と鬼(あっきー)のいない間に考える。


「…おい、」
「あ。おかえり」
「お前はこっちな」


上映前に無事帰還したあっきーから手渡された紙コップを見れば、


「なんだ、やっぱり買ってきてくれ……、いやあの、これ、水だよね?」
「ふん、」
「…で、そっちは炭酸ですか…格差社会ですね…」


隣の座席に腰を下ろした金髪のいじめっ子に、さっき考えていたことを尋ねてみようと気持ちを切り替えた。
手元の紙コップの中の水が揺らぐ。


「ちょっと思ったんだけどさ、どういう風の吹き回しなわけ?」
「あ?飲み物買ってきてやったことなら別に、」
「違う違う。そっちじゃなくて。俺と一緒に出かけるなんてさ、あっきーは死んでも嫌がりそうなのにな、って思って」


目を合わせれば、あっきーはまるで嫌なことでも思い出したみたいに顔を強張らせる。泳ぎ始めたその目に、これは訳ありだな、と悟った。

そう。不思議で仕方がないのだ。
あっきーは俺のことが嫌い。というより、関わり合いたくないんだろう。

つまり、こんな風に自主的に俺と外出するなんて有り得ない。
勘ぐるように先を促せば、あっきーは顔を歪めて目を逸らした。しぶしぶ、といった風に話し出す。この子わかりやす過ぎ。

そんなに露骨に嫌がられると俺も傷つくというか何というか。まあ、悲しいことにそんな扱いにも慣れたけど。


「…満さんが行けって言うから…それで、仕方なくだ」
「おやまあ…」
「んだよ、変人」
「本当、あっきーは本庄先輩のこと好きだね。今回のことは惚れた弱みってやつか、なるほどなるほど…」


だから今日のことは不本意だ、と。彼はそう言いたいんだろう。

そんな彼を横目に、こんないじめっ子不良でも恋すると色々変わるんだということを身に染みて体感する。いいね、年下×年上。うふふだね、うふふ。


会話のきりがいいところで、タイミングよく上映のブザーが鳴る。
そして、ホラー映画耐久2時間の旅が始まったのだった。


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(別にいいんだけどね、別に)
(何がだよ)
(水って健康的だもんね、あっきーは俺の健康を考えて水を、)
(……根に持つなよ)
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