19

「つまんねー…」


その言葉は聞き飽きた。もっと他の、何かないのかね。そう、ボキャブラリー。


俺たちの居る木陰は、日が昇るにつれて少しずつ陰の形を変えていく。
ちなみに、垣根もあるから隠れるには最適の場所なんだよね、ここ。

そんな中、ちらりとあっきーを見れば、かなりご立腹な様子。
しゃがみこむという不良にはうってつけ(?)の体勢も、もう限界のようだ。

そして何よりも、あっきーの眉間の皺が大変なことになりすぎてて、俺は思わず2度見した。眉間ってあんなに皺寄るもんなの?え、大丈夫?


「うん、わかってる。そろそろだと思うから、もうちょっと、」
「てめえ…そう言い続けて、かれこれ2時間以上経ってんだよ!いい加減に、っぐ、」
「しっ―俺達今隠れてるんだよ。それを自覚しようか、あっきー」


そうです。俺達は、相変わらず木陰に隠れて不良さんと平凡君を待っているのです。
既に時計は10時をまわりました。はい。萌えのためには、根気が必要なのです。


突然俺に手で口元を押さえつけられたあっきーは、唸りながら睨んでくる。その様子をちらっと横目で見……るべきじゃなかったよー何あの怖い顔ー。
だけど、目さえ合わせなかったら怖くないもん、俺の勝ち。
と安心してたら、一瞬で手を払われて、体が後ろに傾く。え、あれ?
影が俺を覆って…で、頭と背中を強打。


ああ、油断した俺が悪かったんだ。それは認める。けど。
頭と背中が痛い!この一言に尽きる!激痛!骨が心配!

声を大にして、この痛みを叫びたい。
叫びたいが、その前に、目の前の金髪に言わなければならないことが。


「…あっきー…ちょっと、あの。馬鹿なの?大馬鹿なの?」
「うっせ、不可抗力だろ。ぎゃーぎゃー騒ぐなカス」
「え、何。逆ギレ…?最近の若者怖い…」


では、説明しよう。俺たちの今の状況を。

木陰でしゃがみこむ不安定な俺達。
   ↓
俺があっきーの口を手でふさぐ。
   ↓
あっきーが俺の手を振り払う。
   ↓
その反動で、あっきーが俺の方に倒れてくる。(意味不明)
   ↓
あっきーが俺を押し倒す。(表現に問題あり)
   ↓
そして、今。


倒れた拍子に、なす術もなく地面で後頭部と背中を強打した俺。それに比べて。
あっきーは、衝突を避けるために俺の顔の横に両手をついて、自分だけ助かっていた。なんて奴だ。
被害受けたのは俺だけ。許してなるものか、こんな理不尽。でも、さすがに挫けそう。


「…いたた…今日は厄日だ…」
「……おまえ、目…」


一言小さく呟いて、顔を近づけるあっきー。
ええ、涙目ですけど何か?という気持ちでいっぱいの俺は、確かに感じる圧迫感に混乱し始めた。

…ん?顔を近づけるあっきー?何それちょっと待って。
って、おぉい…顔ちっか!目ぇこっわ!


「え、え、ほんと、何事…」
「うっせえ、馬鹿野郎」


この状況で、よく俺に馬鹿とか言えるな貴様。
俺が涙目になるはめになったのは、あっきーのせいだと言っても過言はないだろうと信じたい俺としては、その言葉はまことに遺憾で認めざるを得ない…あ、最後間違えた。

認めざるを得ない=認める…だから、この場合、最後は『認め難い』が適切ですね。日本語は正しく丁寧に使いましょう。

いや、こんな茶番はどうでもいい。俺の日本語講座などという全く需要のないものに費やす時間はないんだ。
…なんでだろう、言ってて悲しいこの言葉。(五七五)


さて、本題。
寄るより、むしろ退いてほしいです秋吉君…

未だ俺は地面と平行を保ち、残る痛みに耐え、あっきーに顔を近づけられている。にも関わらず、顔の両側につかれた手のせいで動けない、この現状。

とりあえず、何かアクションをおこそう。
そう意気込んで、面白くもないだろう俺の顔を凝視する金髪野郎から目を逸らすと、頭をがしっと掴まれた。あんたは何がしたいんだ。
俺の知らない間に睨めっこでも始まってたんだろうか。いや、そんな馬鹿な。


ちなみに、だけど。
あっきーの顔が近づいたせいで、その髪がさわさわと俺の顔をくすぐっている。笑いそう。
重力的にこうなるのは仕方のないことで、甘んじて受け入れる俺。は器の大きい男だと思いませんか、皆さん。


この前も思ったけど、染めてる割に髪の毛柔らかいよな。
そんなことを考えている合間にも、金の髪が顔をくすぐって。俺は耐えきれずに声をだした。


「っふは…くすぐったいな、もう」
「……おまえさ、」
「はは、あー、おお?どうしたの、あっきー」
「…何つーか…、危機感とか持ち合わせてねえんだな」


はい?どんな流れでそんな話に?
やっと喋ったと思ったら、今度は謎発言?
と、俺が呆けていると、視界が明るくなって。あっきーが俺の上から退いたのだと理解する。

そして、ぐいと腕を引き上げられる。そのおかげで、無事に立ち上がることができた。


「あ、りがとう…?」
「…ふん」


あれ、なんでお礼言うのが当然みたいになってるんだい…?
そもそも、あっきーが俺を押し倒した(っていう表現はすごく嫌)のが元凶だと思うのだよ、俺は。

少しの反抗心を持って見上げれば、あっきーはいつもの仏頂面。ご機嫌斜めだ。ははは、仕方ないか。俺が悪かったってことだね。

半ば諦めの境地の俺は、ふいと目線を逸らす。と。お…おおおおお!


たまたま俺の視界に、不良さんと平凡君の姿が!仲良さげに歩きながら、二人で門の方に向かっていく。

それにつられて、目で二人を追う俺。その姿をもっとよく見ようと、正面に立つあっきーを押しのけた。


ついに来たよ、2時間越しの俺(+あっきー)の想いが成就する時が。ついに。


「…不良さんと平凡君…」
「あ?」
「し、しまった…どっちが先に来てたのか見てなかった…なんという失態…!」
「おいおいおい」
「ああ、そんなこと気にしてる場合じゃない。よし。追おうか!」


俺の目線の先と俺を何回も見比べているあっきー。まだ混乱中のようだ。あっきーってば、鈍い。

そんな彼を置き去りにして、がさがさと垣根から飛び出した俺に、後ろから怒号が。


「何が、よし、だ!状況を説明しやがれクソ野郎!」
「こらこら、大きな声出さない」
「てっめ…、一発殴らねえと気が済ま―」
「あ、見失っちゃう」
「話聞け…!」


と。まあ、こんな風に、ささやかな追跡が始まったのである。
前途多難なのは、言うまでもない。


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(…あ、…おはようございますっ)
(おう。待ったか?)
(いえ!今来たばかりなので!)
(そうか。じゃあ、行くぞ)
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