16

放課後の寮の廊下を歩く。
いくら通い慣れた学校だからって、学校から寮の自室までのこの道のりを隣の金髪君と共にするのは、まだ慣れない。


「いつもいつもすみませんね」
「そう思ってんなら態度で示せよ」
「態度、…例えば?」
「…呼び方変える、とか」
「ああ、なるほど。却下です」
「ちっ、」


なんだこのカップルみたいな会話は。


『いいじゃねーか、名前で呼べよ』
『そんな…まだ恥ずかしいから無理です』


これだと萌えるんだけど、全然シチュエーション違うし、そもそも俺とあっきーじゃ萌えないし。

ところで、さっきすれ違った二人組だけど、隠す気無いくらいの勢いで好奇の視線ガンガン飛ばしてきたのは…あれはなんなんですかね?まさかとは思うけど、俺とあっきーがうふふな関係だなんて思ってませんよね?


「…あのさ、面倒なら毎日部屋まで送ってくれなくていいんだからね。俺から先輩に言っとくし…」
「面倒だし、てめぇはむかつくけどな、やめるつもりはねえ。以上」
「また意地張っちゃって…」


俺のことが嫌いで嫌いで仕方ないあっきーが、どうして俺と一緒に下校しているのか。それはある種のツンデレ、ではなく。

ただ単に、本庄先輩にそうするよう命じられたからだ。


王道君がこの学園にやってきて、その事実に浮かれている間に俺は王道君に親友認定されて。
それで、必然的に学園の有名人達と関わるようになった俺を心配した本庄先輩が、あっきーを俺の護衛にしてしまった。らしい。

本庄先輩はあっきーの憧れの人で、尚且つ所属する親衛隊の隊長。
まあ、結局はあっきーが折れるしかなかったようで。とりあえず、どんまい。

とにかく最初はひどかった。
俺のそばにいるよう言われたあっきーは、そんなに関わったことないはずの俺に敵意むき出しだったから。最近は割と落ち着いてるけど。

いっそのこと王道君に手なずけられて、一匹狼ポジションになっちゃえばいいのに。とか思ってることは秘密だ。


今日も今日とて変わることのない405号室の表札を見て、お互い足を止める。
ドアを開けようとあっきーに背を向ければ、肩を掴まれ、振り向かされる。あれ、これ昼と一緒のパターン。

昼休みの惨劇を思い出す。
次に飛んでくるかもしれない頭突きに備えて、ぎゅっと目を瞑れば…


「……頭冷やせよ」
「…え?」


頭突きの代わりに聞こえた一言。
反射的に目を開く。俺がきょとんとしてるように見えたのか、あっきーは苛立っていた。


「だからっ、…お前も額、冷やせっつってんだよ!今更かもしれねえけど」
「ああ、そっち…って、お前"も"?」
「…なんだよ…」
「もしかして、昼に俺が言ったの聞こえてたの?狸寝入り?」


"ちゃんと冷やしなよ、おでこ"


「…うっせぇ」
「ぷ、」
「何かすげームカつく」
「ちょっ……痛い、」


俺の額を指で弾いて、あっきーは満足げに鼻を鳴らした。普通に痛いんだけど。本当、不器用だな。

まあ、こういう可愛い一面もあるのです。もうちょっと丸くなってくれた方が嬉しい。俺的には。


もう俺に用はない、とばかりに歩き始めたあっきー。
上機嫌だな。歩き方にでてる。

俺への報復に成功したのがそんなに嬉しかったのかな。良かったね。
俺は痛い思いしたけど。今日だけで2回も。


カードキーでドアを開けて、部屋に入る。
いつものような賑やかさはない。王道君達は、まだ来ていないようだ。


「はァー…」


最近、溜息が多くなった気がする。幸せはどれくらい逃げたんだろう。
考えながら、また溜息。

制服のまま、ぼふりとソファに倒れ込んだ。
ああ、おでこ冷やさないと。ほとんど意味ないだろうけどね。


"……頭冷やせよ"


何気ない言葉が頭に響く。あっきーにこう言われた時、どきりとした。

まるで、何もかも見透かされているようで。
そんなはずない、冷静に考えればわかるのに。


焦りを感じてしまったのは。
その言葉の持つ、もう一つの意味。それを先に頭に浮かべてしまったから。


「…反省しろ、って?」


なんて皮肉な。今反省しなきゃいけないことなんて、一つしかないじゃないか。

嘘のように静かなこの部屋で、俺の独り言は行き場をなくして消えていく。


今日だけで、もう何度思い出しただろう。目を閉じても、耳に残る電話越しの声は消えない。


<はは、そこは…嘘でも会いに行くって言うところだろバカ宮野>
「すみません。でも俺、」
<もういい…切るぞ>
「会、」


ツーツーツー、と聞こえる電子音は虚しく響いて。そして、途切れた。
沈んだあの声を、覚えている。


中途半端な気持ちで距離を置いたわけじゃない。簡単には「会いに行く」なんて言えない。
だからって、俺のあの発言はあまりにも情けなかった。きっと、すごく傷つけた。

でも、"嘘でも"なんて、そんな器用なことはまだ出来そうにないから。
言い訳のようだけど、最後まで聞いてほしかったんだ。


"すみません。でも俺、(会長には正直でいたいんです)"


この言葉を。


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(あっきーって王道君には興味ないの?)
(あいつは視覚的に受け付けねぇから無理。)
(そっか…残念)
(…どうせまた腐ったこと考えてたんだろ)
(え、なんでわかったの。あっきー天才)
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