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会長side まさかの風邪から完全回復。横山が過保護なせいで、なかなか学校に来られなかった。 そういえば宮野のバカは、看病初日以外来なかったな。職務怠慢だ。 文句でも言ってやろうと意気込んで生徒会室に顔を出せば、目に飛び込んできたのは、もさもさの空の髪。 「あー!一馬、風邪もうよくなったのか!?」 「ああ、もう平気だ」 空の対応をしながら、あの無表情を探す。が、いない。逃げたか? (勘のいい奴だな…) その日はそれくらいにしか思っていなかった。 違和感を感じ始めたのは、それから3日目の今日。生徒会室には、あいつ以外のいつものメンバーがいた。 「さすがに、おかしいだろ…」 俺の突然の呟きに、どうしたんだとでも言いたげに俺を凝視する生徒会の面々+空。 そんな視線を気にしてる場合じゃない。おかしい。おかしいんだ。 宮野が生徒会室に来ない。前に一度だけ来ない日はあったが、こんなに連続して来ないなんてことは今までなかった。 食堂を見渡しても、空を教室に送るふりしてSクラスを覗いても、あいつはどこにもいなかった。 まるで、空がこの学園に来る前のように。俺があいつの存在を知る前のように。 姿を見つけることすらできなくて。 「なあ、どうしたんだよ。一馬!」 でも、空はここにいて。 どうして。どうして、あいつだけいないんだ。 そして昼休み。空達を先に食堂に行かせて、俺は一人で生徒会室にいた。 手に握った自慢のスマホとにらめっこ中だ。 自分からっていうのが癪だが、仕方がない。そう思って宮野の携帯にメールを送るも返信はなくて。 意地になって何通も送り付ければ、数分後に宮野から電話の着信が。 本当、あいつどういうつもりだ。 <もしもし、会長?> 「…宮野っ、おまえ、」 <さっきからメールがすごいんですけど、どうかしましたか?> 「どうかしたも何も……おまえ、どこにいるんだ」 <何か急ぎの用事ですか?> 「いや…用事とかそういうのじゃねえ、けど…」 ただ、顔が見たかったから。なんて俺が言えるはずもない。 用事がなければ、俺からの連絡なんてありえないとでも思っているのだろうか。 穏やかすぎる宮野の声に、何となく落ち着いてきた。そういえば、声を聞くのも久しぶりだったと、スマホに耳を寄せる。 「最近…生徒会室来ねーな、って思って、」 <……俺がいないと寂しいですか?> 「ばッ、馬鹿言うな!気にかけてやっただけ有難く思え…!」 <はいはい、耳元で大声出さないでくださいよ> 相変わらず俺を馬鹿にしているような声音。 間近で聞こえる声に、緊張するようなしないような、変な感じだ。 「…なあ、宮野…」 <どうしたんですか、改まって> 「その、仮に、の話なんだが…」 <はい> 「もし俺が…寂しいって言ったら…、会いに来てくれるのか?」 <……> 「どうなんだ、宮野」 こんなことに期待するなんて馬鹿馬鹿しい。でも、期待せずにはいられないんだ。 宮野が好きだと自覚したから。 "会長と過ごす時間も会長自身のことも、結構大事に思ってるんですよ" だったら、と。そう思っていた。 <…どう、ですかね…わかりません> 静かに耳に届いたその声に、心臓が震えた。 (来ないかもしれない、そういうことか…) 期待して期待して。それが裏切られた衝撃は、絶望に近い。 「はは、そこは…嘘でも会いに行くって言うところだろバカ宮野」 <すみません。でも俺、> 「もういい…切るぞ」 <会、> 声まで震えてしまいそうで、無理矢理に通話を終えた。 途切れた宮野の声は、どこまでも穏やかで。 何か言いたげだったけど、俺は最後まで聞く勇気は無かった。 本当に、嘘でもいいから"会いに行く"と、一言だけでも。聞かせてほしかったんだ。 上手にはぐらかされて、どこにいるのかも、なぜ生徒会室に来ないのかもわからないままで。 大事に思ってくれてるのなら、なんで。 「俺には、もうおまえが…わからない…」 たった一人の呟きは、誰もいない部屋で溶けて消えた。 ----------------------------------- (今日こそ学校行くからな) (まだ用心が必要です、お休みを) (もう熱はないんだ、行かせろ) (だめです) |