13

会長side


まさかの風邪から完全回復。横山が過保護なせいで、なかなか学校に来られなかった。
そういえば宮野のバカは、看病初日以外来なかったな。職務怠慢だ。

文句でも言ってやろうと意気込んで生徒会室に顔を出せば、目に飛び込んできたのは、もさもさの空の髪。


「あー!一馬、風邪もうよくなったのか!?」
「ああ、もう平気だ」


空の対応をしながら、あの無表情を探す。が、いない。逃げたか?


(勘のいい奴だな…)


その日はそれくらいにしか思っていなかった。
違和感を感じ始めたのは、それから3日目の今日。生徒会室には、あいつ以外のいつものメンバーがいた。


「さすがに、おかしいだろ…」


俺の突然の呟きに、どうしたんだとでも言いたげに俺を凝視する生徒会の面々+空。
そんな視線を気にしてる場合じゃない。おかしい。おかしいんだ。

宮野が生徒会室に来ない。前に一度だけ来ない日はあったが、こんなに連続して来ないなんてことは今までなかった。
食堂を見渡しても、空を教室に送るふりしてSクラスを覗いても、あいつはどこにもいなかった。


まるで、空がこの学園に来る前のように。俺があいつの存在を知る前のように。
姿を見つけることすらできなくて。


「なあ、どうしたんだよ。一馬!」


でも、空はここにいて。
どうして。どうして、あいつだけいないんだ。


そして昼休み。空達を先に食堂に行かせて、俺は一人で生徒会室にいた。
手に握った自慢のスマホとにらめっこ中だ。

自分からっていうのが癪だが、仕方がない。そう思って宮野の携帯にメールを送るも返信はなくて。
意地になって何通も送り付ければ、数分後に宮野から電話の着信が。

本当、あいつどういうつもりだ。


<もしもし、会長?>
「…宮野っ、おまえ、」
<さっきからメールがすごいんですけど、どうかしましたか?>
「どうかしたも何も……おまえ、どこにいるんだ」
<何か急ぎの用事ですか?>
「いや…用事とかそういうのじゃねえ、けど…」


ただ、顔が見たかったから。なんて俺が言えるはずもない。
用事がなければ、俺からの連絡なんてありえないとでも思っているのだろうか。

穏やかすぎる宮野の声に、何となく落ち着いてきた。そういえば、声を聞くのも久しぶりだったと、スマホに耳を寄せる。


「最近…生徒会室来ねーな、って思って、」
<……俺がいないと寂しいですか?>
「ばッ、馬鹿言うな!気にかけてやっただけ有難く思え…!」
<はいはい、耳元で大声出さないでくださいよ>


相変わらず俺を馬鹿にしているような声音。
間近で聞こえる声に、緊張するようなしないような、変な感じだ。


「…なあ、宮野…」
<どうしたんですか、改まって>
「その、仮に、の話なんだが…」
<はい>
「もし俺が…寂しいって言ったら…、会いに来てくれるのか?」
<……>
「どうなんだ、宮野」


こんなことに期待するなんて馬鹿馬鹿しい。でも、期待せずにはいられないんだ。
宮野が好きだと自覚したから。


"会長と過ごす時間も会長自身のことも、結構大事に思ってるんですよ"


だったら、と。そう思っていた。


<…どう、ですかね…わかりません>


静かに耳に届いたその声に、心臓が震えた。


(来ないかもしれない、そういうことか…)


期待して期待して。それが裏切られた衝撃は、絶望に近い。


「はは、そこは…嘘でも会いに行くって言うところだろバカ宮野」
<すみません。でも俺、>
「もういい…切るぞ」
<会、>


声まで震えてしまいそうで、無理矢理に通話を終えた。
途切れた宮野の声は、どこまでも穏やかで。
何か言いたげだったけど、俺は最後まで聞く勇気は無かった。


本当に、嘘でもいいから"会いに行く"と、一言だけでも。聞かせてほしかったんだ。

上手にはぐらかされて、どこにいるのかも、なぜ生徒会室に来ないのかもわからないままで。

大事に思ってくれてるのなら、なんで。


「俺には、もうおまえが…わからない…」


たった一人の呟きは、誰もいない部屋で溶けて消えた。


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(今日こそ学校行くからな)
(まだ用心が必要です、お休みを)
(もう熱はないんだ、行かせろ)
(だめです)
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