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「……!」 「…!…!」 (うるさ……) 何だろう。人がいっぱいいる気がする。 目を開けてみれば、見たこともないようなたくさん医療機器に、数名の看護師。ああ、横山さんが来たのか… 伸びをすると、手が何かに触れた。横を見る。 …あれ。寝返り打ったはずなのに、また会長とご対面状態になってるじゃないか…!俺、寝相悪くなったのかな。 会長はまだ瞼を閉じたまま、静かに眠っていた。 「一馬様!」 「ああ、お労しい!」 「熱でうなされるお姿も素敵です!抱いて!」 ていうか、いちいち大げさだな。主治医呼んだだけなのに、看護師まで来るってほんともう…テンプレか。 しかも、最後の台詞…いや、聞き間違いだな、うん。 げんなりしながら上半身を起こせば、年配の男性に声をかけられた。 「あなたですか、ご連絡をくださったのは」 「あ、はい。えっと、俺…」 「…もしや、宮野様ですか?」 「いやそんな…様とか付けられるようなあれでは…」 きっと、この人が主治医の横山さんだろう。 俺の返答に楽しげに目元を緩ませ、横山さんは笑っている。 会長が横山さんに俺のこと教えてた、ってことでいいのかな。なんだかよくわからないけど。 「…宮野様…ちょっとこちらへ」 「だから様とかやめ、」 「リビングでお待ちしております」 (聞いて……!) 様付けをやめてもらおうとしたのにガン無視されたぞ…!? 俺は泣く泣く布団から出て、横山さんの待つリビングへ向かった。すでにソファに腰をかけていた横山さんに促されて、俺もふかふかのソファへと身を沈ませる。 横山さんの目が、静かに俺を射抜く。沈黙が流れた。 出てきて早々、布団が恋しくなった。 …空気が重い… 「なん…ですか。もしかして会長…深刻な病気なんですか。余命はどの位で、」「風邪です」 「ですよね」 (く、くえない…この爺ちゃん先生強いぞ…!) 俺よりも一枚上手の横山さんだったが、それでも真剣そうな顔を変えなかった。普通の風邪だというのに、そんなに心配なのだろうか。 「普通の風邪です。が…少々気になることが」 「と言いますと…」 「一馬様の健康管理は、常に万全の状態です。こんな高熱を出されるほど体調を崩す要因は、一つもないはずなんですが…」 要因、ねー… 考えて思い浮かぶのは、一つ。非王道系の話によくあること。 溜まった仕事をたった一人で片付けて倒れる嫌われ会長。その後総受け。いいね、すごくいい。 間違えた…今はそういう話じゃない。それに、会長は嫌われ会長じゃないし。 でも、過労で倒れるっていうのはあながち間違っていないかもしれない。 横山さんを残して、寝室に戻る。すでに起きていた会長は看護師に囲まれていた。 「一馬様、りんごお食べになりませんか?」 「体、お拭きしますね」 「私がお薬を飲ませてさしあげます!」 (ハーレムができてる、だと…?) ついていけない事態に立ちすくんでいると、もう体を起こしても大丈夫らしい会長と目が合う。いつか見たように、会長の形のいい眉が下がった。 「…宮野…どうした」 「いえ、特には…それよりも、会長。一人でお仕事してたんですか」 「な、んだよ…突然…」 「どうなんですか」 「あ、いや、まあ……でも、一人でやってたわけじゃねぇよ。副会長もやってたし…あいつ、完璧主義だからな…」 でも、それって書記とか会計とか庶務とかはしてない、ってことでしょ。そう訊けば、会長はぷいと顔を背けた。 「……会長」 「なんだよ…」 (…頑張り屋さん萌え〜) 「なんでもないです」 「…おまえ今…いやいい。聞くのが怖い」 そう言って、会長眉をしかめた。なんでバレたんだ… ベッドサイドに近づいて、いつもより低い場所にある会長の頭を撫でる。 「悪い人に食われちゃいますよ。会長、ただでさえ可愛い性格してるんですから」 「うるせーよバカ」 「お仕事、ちゃんとしてたんですね。さすがです」 「っ、んだよ…褒めたって何も出ねえからな…!」 「別にいりませんよ」 お互いにふざけ合っているこの瞬間も、俺は会長のあの言葉が気になって仕方がない。 "会いたく、ないんだよ" そろそろ潮時か… そう考えていることを悟られないよう、いつもの無表情のままで会長を見つめた。 ----------------------------------- (会長…俺、寝てる間に蹴ったり殴ったりしませんでした?) (なんだおまえ…そんなに寝相悪いのか?) (いえ、寝相いい方だと思ってたんですけどねー…さっき起きたら体がかなり動いてて) (…寝相悪くなったんじゃねえの、今日から) |