11

「……!」
「…!…!」


(うるさ……)


何だろう。人がいっぱいいる気がする。

目を開けてみれば、見たこともないようなたくさん医療機器に、数名の看護師。ああ、横山さんが来たのか…

伸びをすると、手が何かに触れた。横を見る。
…あれ。寝返り打ったはずなのに、また会長とご対面状態になってるじゃないか…!俺、寝相悪くなったのかな。
会長はまだ瞼を閉じたまま、静かに眠っていた。


「一馬様!」
「ああ、お労しい!」
「熱でうなされるお姿も素敵です!抱いて!」


ていうか、いちいち大げさだな。主治医呼んだだけなのに、看護師まで来るってほんともう…テンプレか。
しかも、最後の台詞…いや、聞き間違いだな、うん。

げんなりしながら上半身を起こせば、年配の男性に声をかけられた。


「あなたですか、ご連絡をくださったのは」
「あ、はい。えっと、俺…」
「…もしや、宮野様ですか?」
「いやそんな…様とか付けられるようなあれでは…」


きっと、この人が主治医の横山さんだろう。
俺の返答に楽しげに目元を緩ませ、横山さんは笑っている。
会長が横山さんに俺のこと教えてた、ってことでいいのかな。なんだかよくわからないけど。


「…宮野様…ちょっとこちらへ」
「だから様とかやめ、」
「リビングでお待ちしております」


(聞いて……!)


様付けをやめてもらおうとしたのにガン無視されたぞ…!?
俺は泣く泣く布団から出て、横山さんの待つリビングへ向かった。すでにソファに腰をかけていた横山さんに促されて、俺もふかふかのソファへと身を沈ませる。

横山さんの目が、静かに俺を射抜く。沈黙が流れた。
出てきて早々、布団が恋しくなった。
…空気が重い…


「なん…ですか。もしかして会長…深刻な病気なんですか。余命はどの位で、」「風邪です」
「ですよね」


(く、くえない…この爺ちゃん先生強いぞ…!)


俺よりも一枚上手の横山さんだったが、それでも真剣そうな顔を変えなかった。普通の風邪だというのに、そんなに心配なのだろうか。


「普通の風邪です。が…少々気になることが」
「と言いますと…」
「一馬様の健康管理は、常に万全の状態です。こんな高熱を出されるほど体調を崩す要因は、一つもないはずなんですが…」


要因、ねー…
考えて思い浮かぶのは、一つ。非王道系の話によくあること。
溜まった仕事をたった一人で片付けて倒れる嫌われ会長。その後総受け。いいね、すごくいい。

間違えた…今はそういう話じゃない。それに、会長は嫌われ会長じゃないし。
でも、過労で倒れるっていうのはあながち間違っていないかもしれない。


横山さんを残して、寝室に戻る。すでに起きていた会長は看護師に囲まれていた。


「一馬様、りんごお食べになりませんか?」
「体、お拭きしますね」
「私がお薬を飲ませてさしあげます!」


(ハーレムができてる、だと…?)


ついていけない事態に立ちすくんでいると、もう体を起こしても大丈夫らしい会長と目が合う。いつか見たように、会長の形のいい眉が下がった。


「…宮野…どうした」
「いえ、特には…それよりも、会長。一人でお仕事してたんですか」
「な、んだよ…突然…」
「どうなんですか」
「あ、いや、まあ……でも、一人でやってたわけじゃねぇよ。副会長もやってたし…あいつ、完璧主義だからな…」


でも、それって書記とか会計とか庶務とかはしてない、ってことでしょ。そう訊けば、会長はぷいと顔を背けた。


「……会長」
「なんだよ…」


(…頑張り屋さん萌え〜)


「なんでもないです」
「…おまえ今…いやいい。聞くのが怖い」


そう言って、会長眉をしかめた。なんでバレたんだ…
ベッドサイドに近づいて、いつもより低い場所にある会長の頭を撫でる。


「悪い人に食われちゃいますよ。会長、ただでさえ可愛い性格してるんですから」
「うるせーよバカ」
「お仕事、ちゃんとしてたんですね。さすがです」
「っ、んだよ…褒めたって何も出ねえからな…!」
「別にいりませんよ」


お互いにふざけ合っているこの瞬間も、俺は会長のあの言葉が気になって仕方がない。


"会いたく、ないんだよ"


そろそろ潮時か…
そう考えていることを悟られないよう、いつもの無表情のままで会長を見つめた。


-----------------------------------
(会長…俺、寝てる間に蹴ったり殴ったりしませんでした?)
(なんだおまえ…そんなに寝相悪いのか?)
(いえ、寝相いい方だと思ってたんですけどねー…さっき起きたら体がかなり動いてて)
(…寝相悪くなったんじゃねえの、今日から)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -