09

ずるりと崩れ落ちた会長の体。反応できてよかった。


「…みや、の…」
「かい、…一馬…先輩」


受け止めた体は熱い。熱が出ているようだ。


とにかく、会長を寝かさないと。一番近いのは俺の部屋だけど、王道君がいるからな…騒ぐ可能性を考えると、やっぱり会長の部屋がいいか。あ。でも、俺会長の部屋どこか知らない。

会長の胸ポケットを探る。見つけたのは、あの幻のアイテム。ゴールドカード。


会長を背負って歩き出す。まあ、生徒会役員なら特別フロアだろうから、行けばわかるだろう。

エレベーターも特別フロアに行くには役持ちの人が持つカードが必要で、一般生徒は役持ちの人の同伴かスペアのカードがなければ行くことができない。

ちなみに、特別フロアはこの寮の最上階だ。見晴らし最高…らしい。


ゴールドカードをエレベーターの階数ボタンの横のカードリーダーに通す。ぐん、と上昇していくそれは、すぐに停止した。特別フロアに着いたようだ。

チン、という音の後、エレベーターの扉が開く。そして、赤絨毯。


(テンプレすぎてもう……)


やりすぎじゃないですかね、ここ一応寮ですけど。
視覚的にうんざりしながら、何とか会長の部屋を探し出して、会長を室内に運び込む。
一々つっこむのも疲れてきたけど、このフロアの部屋のドアはすべて金縁加工されていました。テンプレか。


「よい、しょ…と、」


自分とそう大差ない体格の男運ぶのって、超きつい。てか、部屋広ッ!
きっと奥の部屋にあるであろうキングサイズのベッドを見たってもう驚いたりはしな…、いや、ベッド超でかいな。何だこれ。

背負ったままの会長をベッドに下そうとして、よろける。そのまま一緒にふかふかのベッドに転がった。


「はぁ、…も、会長…首絞めないでください」
「…ぅ、重…」
「あ、すみません」


しまった。背中から落ちたせいで、会長を下敷きにしてしまった。

首にまわされていた会長の腕を外す。そのまま、布団をかけて寝室を出ようとしたら、手首を掴まれた。
熱い手。相手は、言わずもがな会長だ。どうやら意識が戻ったようだ。


「…そばに…居ろ…」
「いいんですか。会いたくないって、」
「俺が居ろって言ってんだ、黙ってここに居ろ…馬鹿宮野…」
「…わかりました。でも、ちょっとむこうで電話してきますね」


布団をかけ直し、寝室を出る。

いつだったか会長が自慢げに教えてくれた、横山さんという主治医のこと。会長の体のことならその人に連絡をとったほうがいいらしい。

もう規模が違いすぎる。主治医って、高校生には普通いないよ。

事情が事情なので、会長ご自慢のスマホを借りて主治医さんに電話をかける。
間もなく、横山です、というご年配の男性の声がした。


「あ、の…えっと、」
<一馬様…ではありませんね。どなたですか?>
「いえ、あの…俺は、会ちょ…一馬先輩の…」


一馬先輩の、何だ。
俺は、自分が会長の中でどんな位置にいるのか、それがわからない。友達…でもないし、知り合いっていうのは、何か…ちょっと違うし…

俺がうんうん唸っていたら、横山さんの声がした。


<とにかく、一馬様に何かあったのですね>
「は、はい。熱が、ひどくて…今、寝かせてるんですけど…」
<わかりました。今から行きます。一馬様の部屋ですか?>


はい、と答えた瞬間、電話を切られた。心なしか、横山さんが焦っていたような気がする。
とにかく、主治医が来てくれるようなら、もう大丈夫だ。

電話を終え、会長のスマホをテーブルに置く。そのまま、寝室へと足を運んだ。あ、水もっていこう。


(あ、寝てる…)


寝室に戻ると、小さな寝息が聞こえてきた。ベッドサイドのテーブルに水の入ったグラスを置く。


最初は椅子に座ってたけど、会長の寝顔見てたら、俺まで眠くなってきた。
もそもそと会長の隣にもぐりこむ。

うっわ、この布団超肌触りいいんですけど。俺が普段使ってる布団は何なんだ、って思うくらい。絶対高級品だ、この布団。あったかい。


ふと布団から顔を出してみた。ら、会長の顔が目の前に。
ええええええ!ちょっ、いや、何…とにかく会長はイケメン!
…落ち着こうか、自分。深呼吸だ。


そして、何となく会長の前髪を梳く。ねぇ会長、そう呟いても反応はない。それもそのはずだ。会長は寝ている。
熱のせいで熱い頬を撫でる。本人には直接聞きたくないけど、今なら。


「…俺のこと、嫌になりましたか。顔も見たくないくらい、迷惑でしたか」


浅い呼吸を繰り返す会長。
聞こえていなくていい。これは独り言なんだから、返事なんて期待してない。

会長の長い睫毛が、ふるりと震えた。やっぱり受けでもいけそうだよなぁ…とかこんな時に思った俺は一回バンジージャンプした方がいい。空気読め俺。


「会長専属のお医者さん、横山さんでしたっけ。さっき連絡しときました。その人が来たら帰りますから…それまでは居ますね」


言い終えて、すっきりした。


さて、俺も少し寝るか。と思って状況を整理する。
なんで俺と会長が向かい合って寝るんだ。おかしい、おかしいぞこの構図は。

こういう場合は、健気隊長とか平凡君とかが隣にいないとおかしい。
そう思って寝返りを打つ。これでよし。


(少し寝て、会長が起きる前に帰ろう…)


俺はそのまま眠りに落ちる。
だから、会長の小さな呟きは衣擦れの音で掻き消されて、俺の耳には届かなかった。


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Q.ゴールドカードの使い道と言えば?
富永「主に見回りだ」
会長「主にサボるときに」
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