08

会長side


校内をぶらついたが、もう飽きた。日も傾いてきたし、何より今は癒しが欲しい。

そうだ、空の部屋に行こう。あいつのことをうだうだ考えるのはやめだ。


(…俺が好きなのは空で…あいつじゃねえんだ)


そんな奴のためにこの俺の貴重な時間を割いてたまるか。時は金なり、だ。
考えても答えがでないのなら、考えなければいいだけのこと。


寮の方へと方向転換する。
ブレザーの内ポケットに手を伸ばして指で触れたのは、生徒会長と風紀委員長の二人だけが持つゴールドカード。
どの部屋でも開錠できる優れものだ。羨ましいだろう。
まあ、これは今回使わない。空に出迎えてもらうのも一興だ。


呼び鈴を鳴らす。なんだかんだ、今まで部屋に行ったことはなかったからな。いきなり俺が来て驚くだろう。突然来た俺に空が騒ぐのを想像して、口角が上がった。


がちゃり。ドアが開いて、出てきたのは空。ではなかった。空よりも頭の位置が高い。


(は…?)


「あ、会長じゃないですか。王道君に会いに来たんですか?」


なんで、いる…?ここは空の部屋のはずだ。405号室だと言っていた。
横目で部屋番号を確認する。そして見つけた。

部屋番号の下。空の名前と


「…宮野、環…」
「そう、ですけど俺が何か?」
「……」
「会長、とりあえず上がってください。目立つので」


空と同室だったのか。うかつだった。そういえば前に王道君の同室者が俺で残念、みたいなことを言っていたようないなかったような…とにかく、俺は完全に失敗した。

何も言わず動きもしない俺を、宮野が不思議そうに見る。
正直言って、会いたくはなかった。会ってしまったら、戻れない気がしたから。

足が一歩、また一歩と後ろへ下がる。
俺を見つめる二つの目。吸い込まれそうで、目を逸らした。
相変わらず感情は読めないまま。態度で示してくれれば、俺が苦労する必要もないのに。


「え、ちょっ…会長!」


走り出す足。宮野から離れられれば、もうそれでいいと思った。
近づきすぎたんだ。知りすぎたんだ。このままじゃ、俺は駄目になってしまう。


急に動き出したせいなのか、視界がやけに揺らぐ。足はちゃんと動いているんだろうか。


(ッや、べ……)


ふらついて、壁で背中を打つ。そのままズルズルと壁に沿って下に落ちようとする体。
なんとか両足でふんばった。

苦しい。気を抜けば泣いてしまうかもしれない。宮野と初めて話した日のように。
簡単に心を許してしまったら、駄目だ。


まもなく、影が俺の足元を覆う。顔を上げれば、息を切らせた宮野が立っていた。
なんで追ってきたんだ。やめてくれ。


「はぁ…会長、どうしたんですか。昼から様子がおかしいですよ」
「おまえには…関係ねーだろ…」
「…顔見て逃げられるなんて傷つきますよ、いくら俺でも」


顔を見ることができずに、俯く。
その声音でわかった。宮野は少し怒ってる。そりゃそうだ。菩薩のような俺でもこんな態度とられたら怒る。


「…別に、逃げたわけじゃねぇ……会いたく、ないんだよ」
「それ、俺に、ってことですよね。嫌いになりましたか、俺のこと」
「ちがっ、…そうじゃねぇ、けど…もう、わからねぇんだ、俺は…ただ…」


俺は何を口走っているんだ。頭が働かない。口が言うことを聞かない。もっと遠くへ離れないと。足を動かせ。

しかし、そんな考えは砕け散る。今もきっと無表情なんだろうと、期待もせずに見た宮野の顔は、困惑しきっていた。


「…会長…?」
「宮野、おまえが…俺を…、俺を、っ」


ぐらりと視界が歪んで、体が壁伝いに横に流れる。
しまった。そう思うよりも早く誰かに体を支えられた。温かい。

誰か、なんてわかりきってる。


「…みや、の…」


瞼が下りていく。強く抱きしめられて、安心した。そこで、ぷつりと意識が途切れる。

だから、きっとあれは俺の記憶違いだ。
薄れゆく意識のなかで、優しく紡がれた言葉。


一馬先輩、と呼ばれたなんて。都合のいい勘違いなんだろう。


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Q.癒しと言えば?
会長「動物だ、特にもふもふしたやつ」
宮野「食べ物かな、甘いと最高」
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