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会長side 校内をぶらついたが、もう飽きた。日も傾いてきたし、何より今は癒しが欲しい。 そうだ、空の部屋に行こう。あいつのことをうだうだ考えるのはやめだ。 (…俺が好きなのは空で…あいつじゃねえんだ) そんな奴のためにこの俺の貴重な時間を割いてたまるか。時は金なり、だ。 考えても答えがでないのなら、考えなければいいだけのこと。 寮の方へと方向転換する。 ブレザーの内ポケットに手を伸ばして指で触れたのは、生徒会長と風紀委員長の二人だけが持つゴールドカード。 どの部屋でも開錠できる優れものだ。羨ましいだろう。 まあ、これは今回使わない。空に出迎えてもらうのも一興だ。 呼び鈴を鳴らす。なんだかんだ、今まで部屋に行ったことはなかったからな。いきなり俺が来て驚くだろう。突然来た俺に空が騒ぐのを想像して、口角が上がった。 がちゃり。ドアが開いて、出てきたのは空。ではなかった。空よりも頭の位置が高い。 (は…?) 「あ、会長じゃないですか。王道君に会いに来たんですか?」 なんで、いる…?ここは空の部屋のはずだ。405号室だと言っていた。 横目で部屋番号を確認する。そして見つけた。 部屋番号の下。空の名前と 「…宮野、環…」 「そう、ですけど俺が何か?」 「……」 「会長、とりあえず上がってください。目立つので」 空と同室だったのか。うかつだった。そういえば前に王道君の同室者が俺で残念、みたいなことを言っていたようないなかったような…とにかく、俺は完全に失敗した。 何も言わず動きもしない俺を、宮野が不思議そうに見る。 正直言って、会いたくはなかった。会ってしまったら、戻れない気がしたから。 足が一歩、また一歩と後ろへ下がる。 俺を見つめる二つの目。吸い込まれそうで、目を逸らした。 相変わらず感情は読めないまま。態度で示してくれれば、俺が苦労する必要もないのに。 「え、ちょっ…会長!」 走り出す足。宮野から離れられれば、もうそれでいいと思った。 近づきすぎたんだ。知りすぎたんだ。このままじゃ、俺は駄目になってしまう。 急に動き出したせいなのか、視界がやけに揺らぐ。足はちゃんと動いているんだろうか。 (ッや、べ……) ふらついて、壁で背中を打つ。そのままズルズルと壁に沿って下に落ちようとする体。 なんとか両足でふんばった。 苦しい。気を抜けば泣いてしまうかもしれない。宮野と初めて話した日のように。 簡単に心を許してしまったら、駄目だ。 まもなく、影が俺の足元を覆う。顔を上げれば、息を切らせた宮野が立っていた。 なんで追ってきたんだ。やめてくれ。 「はぁ…会長、どうしたんですか。昼から様子がおかしいですよ」 「おまえには…関係ねーだろ…」 「…顔見て逃げられるなんて傷つきますよ、いくら俺でも」 顔を見ることができずに、俯く。 その声音でわかった。宮野は少し怒ってる。そりゃそうだ。菩薩のような俺でもこんな態度とられたら怒る。 「…別に、逃げたわけじゃねぇ……会いたく、ないんだよ」 「それ、俺に、ってことですよね。嫌いになりましたか、俺のこと」 「ちがっ、…そうじゃねぇ、けど…もう、わからねぇんだ、俺は…ただ…」 俺は何を口走っているんだ。頭が働かない。口が言うことを聞かない。もっと遠くへ離れないと。足を動かせ。 しかし、そんな考えは砕け散る。今もきっと無表情なんだろうと、期待もせずに見た宮野の顔は、困惑しきっていた。 「…会長…?」 「宮野、おまえが…俺を…、俺を、っ」 ぐらりと視界が歪んで、体が壁伝いに横に流れる。 しまった。そう思うよりも早く誰かに体を支えられた。温かい。 誰か、なんてわかりきってる。 「…みや、の…」 瞼が下りていく。強く抱きしめられて、安心した。そこで、ぷつりと意識が途切れる。 だから、きっとあれは俺の記憶違いだ。 薄れゆく意識のなかで、優しく紡がれた言葉。 一馬先輩、と呼ばれたなんて。都合のいい勘違いなんだろう。 ----------------------------------- Q.癒しと言えば? 会長「動物だ、特にもふもふしたやつ」 宮野「食べ物かな、甘いと最高」 |