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突然俺の視界に会長がログインしました。 「どうしたんですか会長。とりあえず、こんにちは」 「……おう。そのハンバーグよこせ」 しかも、出会いざまに食べ物をたかられました。どんだけ飢えてんだよ。って、うっかり言っちゃったらどうなるかな。当然俺の明日はないな、わかってる。会長の親衛隊なんて超過激だし。命大事に。 (…こうまでしてハンバーグを…?) 会長が見つめるのは、俺が本庄先輩に差し出して結局食べてもらえなかった可哀想な一切れのハンバーグ。 「会長にあーん、なんて恥ずかしくて死にそうなんで無理です」 「演技するならそれらしく表情作れバカ。あと棒読みもどうにかしろ」 「まあこんな言いがかりは置いといて、本庄先輩」 「…言いがかり、だと…おいこら平凡。表に出、」 「何ですか、環様」 本庄先輩強い…! 会長の言葉に割り込むなんて怖いもの知らずだな。いや話ふったのは俺だけども。 あれ…会長、黙っちゃったよ。もしかして打たれ弱い…?え、どうすんの、これ… とりあえず先にこのハンバーグをどうにかせねば。 「…本庄先輩、改めて食べてみますか?このハンバーグ」 「しつこい人は嫌われますよ、環様」 「とか言いつつも、口開けてくれるんですね」 手首は未だに掴まれたままだったが、この際放っておいていいだろう。会長、自分の殻に閉じこもってるみたいだし。 と思って身をのりだしたら、自分の腕が勝手に動いた。なんだ、超常現象か。 「あ、ちょっ、」 掴まれたままだった手首を引っ張られ、フォークに刺さっていたハンバーグが会長の口の中に消える。急に動かれたせいで、抵抗することができなかった。 こっちに顔を寄せた会長は、この席からは伏し目がちに見えて、長い睫毛が印象的だった。この人がタチにも人気があるのも頷ける。だから今こそ受けに転向を。会長受け流行ってるよ、会長受け。 満足したのか、ようやく放された手首。顔を上げる会長。飢えは解決したんですか。 しかし、その目を見つめ返した瞬間、手首の熱が逃げた。失敗した、そう思った。 完全にこれは死亡フラグだ。この何様俺様会長様(ヘタレ要素あり)に一般生徒の俺があーん、だなんて…! 会長の親衛隊に呼び出される ↓ 体格のいい男達にぼこぼこにされる ↓ もう婿にいけない ああ、目に浮かぶ。想像できすぎて笑えない。 そういう場合って俺の親衛隊は動いてくれないんですか、って本庄先輩に訊こうとしたら、俺の知らない間に先輩は会長にロックオンされていました。 「ところでおまえ誰だ。このバカの友達か?」 「環様の親衛隊隊長、本庄満です。うちの環様がいつもご迷惑をおかけしているようですね、会長様。代わりに謝罪を…」 ちょっとちょっと本庄先輩。何ですか、そのいかにも俺が悪いみたいな言い方は…! 割り込みたい気持ちをぶちまけようとしたら、会長が口を開く。 俺別に迷惑かけてませんよね?仲良くやってますよね? 会長のことだ、きっと本庄先輩の勘違いを正してくれるはずー… 「…親衛隊、だと?そんなもの、こいつにあるのか?」 と思っていたのに、違う。違うよ会長。俺的に食いついてほしいのはそこじゃない。 否定しないってことは、会長は俺が迷惑だって暗に言いたいのか…いい度胸だな!なんて思ったりしてないさ…俺は強い子だもの…だからつらくないよ… 「ご存じないのですか。環様は今年の抱かれたいランキング9位の有名人ですよ。親衛隊が無い方がおかしいでしょう」 「…それ、本当か」 「ええ。確か抱きたいランキングの方も20位以内でしたよ。微妙すぎて順位は忘れましたが」 えっえっ、あの夢のモテ男ランキング(正しくは"抱かれたいランキング")に俺が入ってんの!?しかも、抱きたいランキングにも入ってるって何それ。20位以内とか中途半端すぎやしませんか… あと、うっかり流してしまうところだったけど、本庄先輩酷くないですか。微妙すぎて忘れるなんて。あなた一応俺の親衛隊隊長でしょうが。 だいたい話がまとまったらしい。なんかもういろいろつらいから、話も聞かずに食事に集中していた。 こちらを見た会長は、ハンバーグを食べていた俺の頭を叩く。だから暴力反対。 「おいバカ。役員専用の席に来い。ここじゃ目立つ」 「…それ本当に今更ですね会長。もう料理運んでもらったんで、こっちで食べます。ほら、本庄先輩も食べてる途中ですし、」 「僕はもう食べ終えましたよ、環様。お先に失礼します。お話はまた今度」 「え、いつの間に。って、帰るの早!」 本庄先輩は料理を綺麗にたいらげ、席を立っていた。そして流れるように俺に挨拶し、足早に歩き出す。 そんな先輩の背中を見送る俺。先輩、渋いよな。っていう空気をぶち壊す会長。 「…デザートつけてやるから来い」 「別に物で釣らなくても行きますよ。会長の中での俺の認識を改めてください」 俺ってそんなに食い意地はってるキャラなのかね… でもデザートには心が踊るから、大人しく会長についていく俺なのであった。 ----------------------------------- (抹茶アイスにしようかな、いや、杏仁豆腐でも…) (何個でも好きなの頼めばいいだろ) (じゃあ、どっちも頼んで二人で半分こしましょうか。ごちになります) (…え、あ、しょうがねえな!一緒に食ってやる) |