05

会長side


今日も繰り返される空の争奪戦。を好き好んで見るあいつはいない。珍しいこともあるもんだな、と特に気にはしなかった。

授業に出ているんだろう。あんな脳内が花畑みたいな奴はそろそろ授業に出ないとやばいんだ、きっと。
まあ俺はあいつと違って出来がいいから、授業に出なくても支障はない。そもそも、生徒会役員や風紀委員には授業免除の特権っていうのがあって、成績さえキープすれば出席は問題ではないのだ。


生徒会室に空がいるのも、もう日常化していた。時計をちらりと盗み見る。そろそろ昼休みだ。


「なあ!聞いてんのかよ、一馬!」
「…あ?ああ…どうした、空」
「べ、別に用はねえけど!今日は横に座れとかこっち来いとか言わねえんだな…って」


(それは……)


なんだか今日は妙にやる気がでない。
俺が空に絡んだところで、あいつはいないんだ。だから、あの無表情を崩す楽しみがない。
黙った俺に、空は不思議そうに首を傾げた。


もさもさ揺れる空の髪を見つめながら思い出す。あの髪は実はカツラで本当は金髪、素顔は超可愛いんですよ、そう言っていたあいつ。嘘を言っているようには見えなかったが、どうにも信じ難い。

しかも、そうやってカツラを被ることによって、族潰しをやっていた頃に知り合った敵対する族(あいつ曰く俺ら生徒会メンバーのこと)から逃げているとか。

まず先に言っておくが、俺は族になんか入っていない。たぶん他の生徒会メンバーも然りだ。あいつの頭はどうなってるんだ。小人でも住んでんじゃねーの?


あいつは空の攻略について色々と教えてくれる。少し興奮気味なあいつを見るのも、最近はもう慣れた。

会長は最終的に王道君とゴールインする人物らしい。そのためには強引さと優しさが必要なんだとか。改めてよく考えてみたら、強引さと優しさって矛盾してるような気がしないでもないが、本当にそれでいいのか。方向性はいいのか。


昼休みを知らせるチャイムの音に一番に反応したのは空。今日も皆揃って食堂に行くことに。ああ、違った。皆じゃなかった。あいつはいないんだった。


食堂の両扉が開く。とたんに起こる歓声の嵐。俺ら生徒会が来るとこうなるのはいつものことだ。なんせ、この俺がいるんだからな。当然の結果だ。
しかし、うおーだの、きゃーだの、毎回よく飽きないものだと、呆れを通り越してむしろ感心してしまう。

いつものように、役員専用席に座る。そこは一般生徒の席とは完全に隔離され、食堂の階段をのぼったところにある。いわばVIP席だ。下を見下ろせるのは気分がいい。


そこで偶然目に入ってきたのは、食堂の隅。二人用のテーブル。
俺の視界に入ったその場所には、相手と向かい合って座る宮野の姿があった。ここからは相手の顔は見えないが、周りで食べている奴らもあの二人に気を使っているらしい。あちらだけ比較的静かだ。

あいつが俺ら以外の人間といるのを見るのは初めてだ。不思議な感じだった。
いや、あいつにだって、友達くらいいるのはわかる。あのよくわからない趣味はさておき、普通に良いやつだと思うし。

料理が運ばれてくるのを待っているのか、どことなく気分のよさそうなあいつの表情。自分があの二人を見つめているのは、本当に無意識の行動だった。


そして思った。認めたくはないが、一番に頭に浮かんで来たのは。


(…恋人どうしに見える…)


馬鹿らしい、と頭を振る。それでも、そこから目を逸らすことはできなかった。これ以上見るべきじゃない。そう頭ではわかっていた。


料理が運ばれて来るや否や、相手にフォークを差し出すあいつ。所謂、あーんってやつだ。相手も相手で、どうやら食べる気でいるらしい。

ますます恋人にしか見えなくなった。知らず知らずのうちに眉間に皺が寄る。


その時だった。あいつが表情を変えて、周囲の生徒はざわついた。


「…っ、」


ふわり、この表現が一番しっくりする笑い方だった。しまった、油断した。心臓がまた鼓動を速める。


俺はやっぱり、あいつのああいう顔は嫌いじゃないらしい。普段の徹底した無表情を知ってるから、なおさら貴重な気がしていた。のに。

どうしてだ。少し変だ。思っていたよりも簡単にあいつの無表情は崩れる。
そんな事実に、苦しくなった。

なんだ、あいつは誰にでもああやって笑うんじゃないか。嬉しいことがあったら笑うんだ。きっと、俺じゃなくたって、誰にだって公平に。


特別なんかじゃないのだと、突きつけられたような気がした。
つい先日、あれほど近くで俺に向けられた笑顔が、いまは遠いものに感じて。でもあいつは同じように笑っている、それが…


(いやだ、なんて…)


考えれば考えるほど答えが出ない気がして、もう考えるのはやめたいのに。気になって気になってしかたがない。何が、と訊かれてもわからない。


「…え?」
「…は?」


気が付いたら、あいつの手首を掴んでいた。俺が立っていてこいつが座っているせいか、軽く上目使いになる目と視線が合う。その両目が、静かに瞬いた。

二人して固まる。ちなみに前者が宮野、後者が俺だ。


やっと自分がなにをやらかしたのか理解した。
まさか、そんな…嫌だとは思ったが、行動にでてしまうなんて。この空気は一体どうすればいいのか。そんなことを考えて、途方に暮れた。


無意識って恐ろしい。


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(もう一度訊くが、俺の方向性はこれでいいのかよ?)
(強引さと優しさですよ会長。あ、でも、)
(何だよ?)
(最近の会長の様子なら、受けに転向という手も…)
(…訊いた俺が馬鹿だった)
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