03 |
会長side 最近ではお馴染みになった生徒会室の光景。空を中心に、今日も賑やかだ。 「ほら、こっち来い空」 「うわ、一馬!は、恥ずかしいだろ!」 空は、あいつ風に言えば王道君だ。俺のお気に入りでもある。初対面でキスしたら殴られたが、そういう根性も気に入っている。 あいつ…つまり宮野環のことだが、俺はあの変人を自分の友達だと認める気はない。さらさらない。連絡先の交換もしたが友達じゃないはずだし、弱ってた時に助けられたけど決して心を開いたわけじゃないんだ。 だってあいつは、腐男子?とかいう男どうしのあれこれを観察するのが生き甲斐な人間だ。別に人の趣味をとやかく言うわけではないが、俺にはあまり理解できない世界で…というのも、ついこの間も宮野がよく口にする「萌え」について聞いてみたらー… 『…会長は知らないままでいてください、そのほうが萌えます』 『いやだから俺はその萌えを、』 『そのほうが、萌えます』 まったく会話が成り立たなかった。なんなんだあいつは…! 認めない、認めないぞ。あんなのが俺の友達だなんて! あともうひとつ。 友達として認めたくない理由がある。 「おまえは俺の横に座ってろ」 「なッ…一馬に決められたくねーよ!」 こうやって俺が空に絡むと、あいつは普段の無表情を崩して柔らかく笑うのだ。 その顔をうっかり、もう一度言うが本当にうっかり見てしまった時、俺は。 なぜか、胸のあたりがきゅんとしてしまうのだ。そう、俺が言いたいのはこれだ。友達の笑った顔を見たからって、こんなことにはならないだろう? まあ、笑ったあいつの顔は俺様には劣るが綺麗だ。 俺は便宜上平凡と呼んでいるものの、あいつのことを平凡だなんて思ったことはない。空の周りにいる人間は基本的に全員美形なのだ。もちろん一番は俺だがな! そんな集団の中にいるあいつも、例にもれず整った顔をしている。無表情なのが玉に瑕だと思う。 しかし、あいつは自分のことに頓着がないらしく、俺が平凡と呼ぼうがバカと呼ぼうが気にしない。興味がないのか、優しいのかわからないやつだ。 今は空に夢中で他には目もくれない奴等が、あんな風に笑う宮野に気づいてしまったら、とか。今は俺だけが知っているそれに、誰かが興味をもってしまったら、とか。 始めは好奇心と優越感しかなかったはずなのに、ここ最近ではそれらはよくわからない焦りに変わった。 その点空はいい。表情も豊かだし、考えていることを読み取るのは簡単だ。俺が悩まされることもない。 単純明快なところが可愛いと、空の頭を撫でながら思った。しかし。 (笑わせてみたい…) この頃は、どうにかあの無表情を崩してみたくて、あいつに言われた通り空にちょっかいをかけるようになってしまっていた。 まあ、そんなある日のことだ。空の一言でかくれんぼをすることになった。 俺は勝負事ならいつだって本気だ。俺様が負けるなんてありえねぇ。 と俺はやる気満々で空き教室に隠れているというのに、なんとあいつは廊下をぶらぶら歩いてやがる。 (あいつかくれんぼの意味わかってんのかよ) だかは、問答無用で俺のいる空き教室に引き込んでやった。突然のことにさぞ驚いただろう。と勝ち誇った顔で宮野の様子をうかがったものの、そのマイペースは崩れなかった。 相手が俺でも特に気にする様子でもなく、宮野は俺を見つめる。 …なんだよ、何か文句あんのか。 「………何か言えよ、たっ…た、た、た、た…たまっ」 「会長、口が痙攣してますよ。何が言いたいんですか」 「うっるせーよ!大きな声出すなよ環!」 「言ってるあなたの方が大きな声ですよ。って、あれ。今…環って、」 「い、言ってねえよバカ!」 このとき初めて、その名前を呼んでみようと思った。 そして愕然とした。空の名前は普通に呼べるのに、宮野の名前を口にすると、だめだったことに。 なぜ呼んでみようなんて思ってしまったのか。別に今まで通りでもいいじゃないか。頭のなかをかけめぐる問いに、答えることができなかった。 どうあっても主導権はあちらにあって、それが癪で。行動を起こせど、またペースを乱される。 そして、なんだかんだあって、あいつは言いやがった。俺の名前を知らない、と。 (こいつ…信じらんねぇ…) おまえは俺の協力者だろう?連絡先の交換だってしたんだ、まったく関係ないわけじゃないだろう? おまえは俺の空の絡みが見たいと言った。俺はそれに応えているつもりだ。興味の対象はそれだけか?俺単体には、俺自身には、 (…おまえは…俺にはとことん興味がないんだな) この学園の生徒で俺の名前を知らない奴がいるだなんて。それが宮野だなんて。 そんなの、認めたくはない。 馬鹿馬鹿しいが、自分の名前を言う。妙な怒りのせいで拳が震えた。 何で俺がこんな思いをしないといけないんだ。イライラする。もしかしてカルシウムが足りてねぇのか。 怒りに任せ、名前で呼ぶことを強制させる。緩んだあいつの目尻に、直感的にやばい、と思った。 俺に向けられるあの柔らかな笑顔。その口からつむがれた、俺の、名前ー… 「はい、一馬先輩」 その声が耳に届いた瞬間、顔が熱くなっていくのが自分でもわかった。また心臓が、きゅんとした。 おかしい。さっきまであんなに、イラついて、許せなくて、でも今は狼狽えている。こんなバカ相手に、この俺が。 いつも遠かった笑顔は今、俺だけのためにあって。そう実感すると、ますますおかしくなる。 どんどん心拍数があがって、このままいったら心臓が壊れてしまうんじゃないかと思った。今日は主治医を呼ぼう。一大事だ。 落ち着きを取り戻した頃には、俺と宮野は鬼(副会長)に見つかってしまっていて、まもなくかくれんぼはお開きになった。 はっ…見つかったってことは俺の負けか!なんてことだ…それもこれも、あのバカが悪い。 その日の夜だった。寮の自室で寛いでいるとメールの受信を知らせる音楽が聞こえた。 なんとはなしに、スマホを手にとる。そして、俺は目を見開いた。 <明日も王道君との絡み、楽しみにしてます。一馬先輩はやればできる子ですからね> 送られてきた内容に、思わず自慢のスマホを落としてしまったのは、俺だけの秘密だ。 ----------------------------------- (副会長すごく楽しそうでしたね) (…あいつ策士だからな) (えっ、それはつまり腹黒!?) (いや腹黒かどうかは、) (腹黒副会長キター!) |