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今日も今日とて、王道君は生徒会室でキラキラしたとりまき達に囲まれている。わかっているとは思うが、俺もいる。 「なあ、環!」 おっと、王道君が俺を呼んでいる。もしかして、副会長が出してくれたクッキー(俺のためにではなく、もちろん王道君のために)をこっそり食べたのがばれたのか? あ、そうそう。 言ってなかったけど、俺の名前は宮野環(みやの たまき)ね。 「今から皆でかくれんぼしようぜ!」 マジか。なぜ今から?高校生になってまでかくれんぼ?という疑問は、声にならないまま頭をかけめぐる。 王道君は俺の無言を肯定と受け取ったのか、じゃんけんしようぜ、と意気込んだ。 そんな彼を見つつ思うのは、この王道君は非王道小説でよく見るタイプのそれなんじゃないだろうかということ。そうなると主人公は彼ではない。 (もしかして……) 俺が把握していないだけでどこかに本当の王道君がいるのか!?転校してきたわけでもなくずっとこの学園に通っていたけど、普段は変装してて…みたいな萌えの塊がどこかに!?!? 握った拳がまだ見ぬ萌えを求めて震えた。 「せーの、じゃーんけーん…」 俺はぐーを出す。人間って考え事をしていても反応できるんだな、素晴らしいよな。 じゃんけんの結果、鬼は副会長に決定した。うっわ、おっそろしいぜ。 というわけで、俺も含め副会長以外の人間は只今絶賛逃亡中だ。 うーん、どこに隠れようか。ぶらぶら廊下を歩く。ちなみに今は授業中だ。成績大丈夫かな、俺。 とか考えていたら、突然開いた空き教室の扉から伸びてきた手に腕を掴まれ、引き込まれた。 「えええっ、何だ何だ、」 「おいこら平凡」 驚いたことに、相手は会長様でした。 ぐるりと室内を見渡しても、机とイスのセットが数脚壁際に置かれているだけで、普段使われている様子はない。こういうところで密会が行われるんですね、わかります。 と脳内で妄想を爆発させていると、そんな俺を会長が眉間に皺をよせて見つめてきた。どうしたんですか、という意味をこめて、その目を見つめ返す。 彼が口を開いて言うにはー… 「かくれんぼをなめんじゃねぇ…見つかったらどうすんだよ」 うーん…こんなこと考えるのは恐縮だけど、アホな会長可愛いな!!!いっそのこと溺愛堅物風紀委員長×アホ生徒会長でもいい。ライバルだと思っていた男に愛されてしまえばいいじゃないか!俺得!ただの俺得! 何も言わない俺に痺れを切らしたのか、会長は責めるように俺を見る。 「………何か言えよ、たっ…た、た、た、た…たまっ」 「…会長、口が痙攣してますよ。何が言いたいんですか」 「うっるせーよ!大きな声出すなよ環!」 「言ってるあなたの方が大きな声ですよ。って、あれ。今…環って、」 「い、言ってねえよバカ!」 (バカ……) そうですか。どうでもいいですけど、声大きいですよ。ちょっと疲れてしまって、ため息。 特にすることのない俺は空き教室を物色する。お、あの掃除用具入れ、いい隠れ場所になりそう。 掃除用具入れの扉に手で触れる。あれ、開かない。 「…おい平凡、」 「ちょっと待っててください。んー、おかしいな。さびてんのかな」 「そんなのどうでもいいだろ」 突然後ろから両肩を掴まれ、回される。勢い余って、背中を掃除道具入れに打ち付けた。地味に痛いよね、こういうの。 「…俺の話を聞け」 「いいですね、今の台詞。王道会長みたいです。合格」 「……お前な…」 呆れ顔の会長は俺の肩を解放する。俺は少し埃のついた手のひらを叩いた。 なんだったんだ一体。 (俺様復活か…?) 「…そういえば、会長。最近王道君との絡み、頑張ってますね」 「当然だ。俺を誰だと思ってる」 「生徒会長様ですね」 「……名前を言え、名前を」 そう言われて、はっとする。 俺は王道メンバーの名前を知らない。最重要人物である王道君の名前さえも。もともと人の名前を覚えるのは苦手だ。 だってほら、役職名でだいたいの見分けつくからね。だてに腐男子やってませんよ。 心底困った雰囲気をかもしだす俺を見た会長が、まさか、とこぼす。そのまさかです。 「…知らねえとか言うんじゃねえよな、この俺の名前を」 「………知らないです」 「……」 「悪気はないです。すみません」 (あ、これ今度こそ俺死ぬわ…) すべてを諦めつつ、謝罪する。 それで本当に俺が名前を知らないのだと理解した会長は、目を見開いた。そんな顔してもイケメンだなんて、この世の中は理不尽しかないな! 予想通り、会長様はかなり怒っているらしく、拳をぷるぷる震わせて、俯いたまま絞り出すように声を出した。 「…東条一馬(とうじょう かずま)だ。覚えろ、即刻覚えろ」 「はい会長、ほんとすみませんでした」 「…もういいから、名前で呼べ」 しつこいくらい名前にこだわる会長に、思わず笑ってしまう。何だこの可愛い生き物は。誰がはやくここに溺愛堅物風紀委員長を連れてきてくれ、はやく。 居心地が悪そうに視線をさまよわせている会長に向け、口を開く。 「はい、一馬先輩」 俺の言葉にバッと顔をあげたかと思うと、会長の顔が一気に赤く染まった。なんて初々しい。 これはもう腹黒副会長×ヘタレ俺様会長でもご飯3杯はいけるかもしれない。俺ってば雑食にも程がある。 結局、俺と会長は二人揃って鬼に見つかってしまった。 あのときの副会長は本物の鬼もびっくりなほど(悪い意味で)生き生きしていて、これは絶対腹黒だと俺は確信したのだった。 そういう意味で、収穫の多いかくれんぼだったと思う。 ----------------------------------- (連絡先交換したのに、俺の名前知らねぇってどういうことだよ) (原因の検討はついてますけどね) (…ついてんのかよ…で、なんでだ) (名前覚えられそうになかったんで、「会長」で登録し直したせいだと) (……) |