01

それは生徒会室での密会。
ではない。断じて。
すんすんとすすり泣く長身の男と、彼とそれほど身長差のない男がもう一人。


「いいですか、会長。会長が王道君を落とすには強引さと優しさが必要です。いくら副会長が怖いからって泣かないでくださいよ。めんどく…いえなんでもないです」
「お前……俺様がめんどくさいだと…?失礼極まりねーやつだな。つーか泣いてねえし…っ」
「ほーお、あなた自分が誰のワイシャツで涙と鼻水拭ってると思ってるんですか、ほら誰のですか」
「……お前の、だ…」


情けない返事に、はぁ、とため息をつくのは俺。
そんな俺にぎゅうぎゅう抱きついてくるのはこの学園の生徒の中で最高の地位を持つ生徒会長。

あたかもハンカチかティッシュのような扱いを受けているこのワイシャツのクリーニング代、あとで請求してあげますからね。


それにしてもー…


(…どうしてこうなった…)


数十分前の記憶をたどりながら、俺はまた小さく溜息をついた。


この辺りで俺と会長がこんな関係になった経緯を説明しよう。
高校からこの学園に外部入学した俺を待っていたのは、王道を地で行く学園だった。
生徒会に始まり、風紀、親衛隊。
外装、内装ともにやたらキラキラしていたりピカピカしていたりと、金をかけられるだけかけて建てたみたいな建物。
抱きたい、抱かれたいランキングの存在。


これを王道と言わずして何という!?!?


そして、俺が高2になったこの春、待ち望んだ王道転校生がこの学園にやってきた。
ええ、待ちましたとも。高校生活の俺の青春は彼あってこそだよ、それくらい待ち望んでたんだ。

歓喜した俺は、ただでさえ無表情なこの顔に拍車をかけて無表情になった。もう意味がわからないね???いいんだ、転校生が来たせいで脳内がお祭り状態なんだから。どうか察して。
あ、もうわかっているかもしれないが俺は腐男子である。


だが、予想外のことが起きた。俺は王道君に親友認定されてしまったのだ。
王道君はさすが王道なだけあってイケメンホイホイだった。生徒会メンバーに始まり、クラスの一匹狼君やら爽やか君やらをあっという間にそのとりまきとしたのである。

王道君争奪戦を間近で見ることができるのは嬉しいものの、人気者であるとりまき達からの冷たい視線は耐えきれない。

と思っていたが、案外俺の精神面は強いらしい。結構平気だ。


図太い神経で日々を過ごしながら、その日も食堂で繰り広げられる王道君の争奪戦を、すぐ横で内心にやつきながら見ていた。はずだった。


俺があんな些細なことにさえ気づかなければ、もっと違う未来が待っていたのだと、今なら思う。


俺はあることに気付いた。


会長が王道君の争奪戦に参加していないのである。そんな馬鹿な。
もう信じられなさすぎて二度見したさ俺は。だけど何度見たって参加してないものは参加してないんだ、ほんとどういうことなんだ。
王道君の転校初日なんて、王道君にキスぶちかまして殴られてたのに。


会長は王道君のとりまき達から少し離れて座っていた。俺は彼を凝視する。
会長に一体どんな心境の変化があったというんだ…


(こんな重要なことを見過ごしていたなんて、腐男子の名が廃る…って、)


「あ、」


あまりにも熱心に見つめすぎていたせいか、うっかり会長と目があってしまった。観察対象に気配をさとられるとは…腐男子、何たる不覚!一生の恥!
焦った俺はものすごい勢いで目を逸らす。危なかった、というか、今のアウト?

心を落ち着けてもう一度会長を観察。なるべく自然に、本当に一瞬だけ。


(え…?)


黒の瞳。またも会長と目があう。ていうか、あれからずっと見られてた…のか?

あれ、どことなく会長の目が潤んで…いやいやいや、そんなはずは…だってあの会長が…俺様が…いやいやいや…


(ってやっぱりどう見ても泣きそうなんですけど!?!?)


無表情で狼狽える俺。会長の形のいい眉が下がる。
俺はそんな会長を放っておけなかった。だって仕方ないじゃないか、腐男子レーダーが作動してまったんだもの。ごめん、伝わらないね。

とにかく俺は、王道君達に気付かれないよう静かに、なおかつ素早く動いた。俺に興味がある人なんて、王道君の周りにはいないからそれはそれは簡単だった。

そっと会長の側に行く。やはりずっと見られていたらしく、声をかけても驚かれることはなかった。
会長に目配せをして、共に食堂をあとにする。もちろん俺の存在感は消した。


やっぱり話せるような場所っていったら生徒会室しかないか。
あそこ、無駄に高級感漂ってて落ち着かないから好きじゃないんだけど。と思いながら生徒会室へ向かう。


「おま、」
「あとでゆっくり話ききますから」


生徒会室への道すがら、会長が何かを言いかけたが、遮った。あ、やべ、これ死ぬんじゃ…と思ったものの、冷静を装ってその場はとりあえず黙らせる。
そんな俺の対応に不服そうにしながらも、会長は俺の言いつけを守った。なんだ、素直じゃないか。
会長の俺様要素は一体どこに行っちゃったんだ?家出かな?


そういう流れで俺たち二人は生徒会室で抱き合っていた。…いや待とうか。この表現は非常に誤解を生む。
正確には、生徒会室に入るや否や、会長が俺に抱きついてきたのだ。


(は……?)


何がどうなってる。王道の会長は俺様でプライドが高くて18禁で少し馬鹿な設定のはずで、あとは、あとはー…

急な展開に頭がついていかず、されるがままの俺をよそに、会長はひときわ強く俺を抱きしめると、ぽつりぽつりと話し始めた。
まあ、要するに争奪戦のメンバーに気迫負けしたらしい。特に副会長に。

確かに副会長のあの口調と冷たい視線は怖いけどね、俺様会長ともあろう人がそれくらいで戦線離脱だなんて情けない。
俺としては俺様会長×王道君が見たいから非常に残念だ。


という感じで冒頭のやりとりに戻る。
やっぱり俺は選択を間違えたのか?これ明らかに王道君の親友ポジションがする仕事じゃないよね?


まあ今はそんなことを気にしても仕方がない。腐男子は萌えに貪欲なのだ。
会長が戦線離脱しそうだからって、俺はまだ俺様会長×王道君を諦めていない。俺が会長の恋の成就をサポートすればいいのだ。俺ってば天才。

ということで、俺は会長に協力することにした。勝手に、と言うと聞こえが悪いから、自主的に、ってことにしとこう。
理由はよくわからないが、会長も懐いてくれたようだし大丈夫大丈夫、うまくいく。


そうと決まれば早速連絡先の交換だと、会長を急かした。なんだかあわあわしている会長が微笑ましい。が。これじゃあ俺様会長にはまだ遠い…
そんなことを頭の片隅で考えながら、無事連絡先を交換し終えた。俺の携帯に会長の個人情報が入ってるなんて不思議だ。なりゆきって怖い。


「じゃあ、これからよろしくお願いしますね、会長」


と、まあこういうわけで、俺と会長のおかしな関係が始まったのである。


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(あ、会長。それってあの台数限定のスマホですよね?)
(フフン…これのために俺は早起きして店前に並んで、)
(…意外と地味な性格してますよね、会長って)
(っ、いや違う。俺が並んだんじゃくて、あれだ。ええと、そう!執事が、)
(はいはい)
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