見送り


蜜璃さんが弟子入りして、早くも半年。いよいよ、最終選別の日が来た。
この半年間、蜜璃さんは毎日ヘロヘロになりながらも本当に頑張っていた。杏寿郎さんも、任務と並行して蜜璃さんや千寿郎くんにも厳しく稽古をつけていた。
最終選別では命を落とす人もいるという。どうか息災で。そう願わずにはいられなかった。


早朝、蜜璃さんを三人で見送る。蜜璃さんは涙を見せながらも、力強く手を振って最終選別へと向かっていった。



「行ってしまわれましたね…」

「この半年間の成長は目覚ましかった!甘露寺ならきっと最終選別を突破するだろう!」

「無事を祈る他ありませんね、きっと蜜璃さんなら大丈夫です。兄上も、半年間お疲れ様でした」

「うむ!ありがとう千寿郎!」



そうだ。杏寿郎さんだって、起きている間ずっと刀や木刀を振っていたのではというくらい動きっ放しだったのだ。その疲労たるや、想像しただけでもしんどくなる。



「杏寿郎さん、今日くらいゆっくり休んでください。ずっと休み無しでしたから」

「そうしたいところだが、今日はまた呉服屋に行こうと思っているんだ!桜、一緒に行ってくれないか!」

「呉服屋、ですか?」

「うむ!甘露寺は必ず最終選別を突破する!そのお祝いを事前に用意したいんだ!」

「もう…呉服屋に行ったらその後はゆっくり寝てくださいね」

「分かっている!準備を済ませたら行こう!」



杏寿郎さんは、周りの人のためによく動く人だ。それにしても、体力が凄まじい。私達はそれぞれの準備をするために部屋へと戻った。






「杏寿郎さん、呉服屋では何を仕立ててもらうんですか?」

「うむ!鬼殺隊は隊服が支給されるからな、その上から着られる羽織りにしようと思う!」

「それは良いですね、きっと喜ばれます」



杏寿郎さんに贈ってもらった着物を着て、街へと肩を並べて歩く。
いつ振りだろう。少なくとも、蜜璃さんが弟子入りしてからの半年はこんな風に二人きりになることはおろか、会話すらめっきり減っていた。今日くらい休んでほしい、と杏寿郎さんには言ったものの、内心とても嬉しい。相変わらず稽古のことや任務のことを話す杏寿郎さんは、どう思っているんだろう。同じように、嬉しいと思ってくれているだろうか。


呉服屋に着き、反物を選んでいく。色んな反物を見て回ったが、結局は杏寿郎さんの羽織りとお揃いの白地の反物を選んだ。



「蜜璃さんそのものが華やかなお方ですし、無地の羽織りでも十分だと思いますよ。それに、無地であれば本人の好みを選びませんし」

「そうか!やはり女子の意見があると安心だな!女将殿!これで羽織りを一着頼みたい!」

「かしこまりました。採寸はどうしましょうか?」

「女性で背は五尺五寸ほどだ!桜が五尺ほどだから、彼女より少し大きめくらいで見立ててもらえるだろうか!」

「かしこまりました」



テキパキと答える杏寿郎さんに、よく見ているんだな、と思った。そのまま袖や丈の簡単な採寸をしてもらい、杏寿郎さんと女将さんは納期や支払いの話をしていた。
蜜璃さん、無事に帰ってきて羽織り姿を見せてほしいな。そう思いながら、選んだ真っ白な反物を眺めた。



「桜、ちょっと来てくれないか!」

「え?はい、何でしょう」

「これは君にだ!この半年間、家のことも大変だっただろう。そのお礼だ!」



そう言う杏寿郎さんの手には、桐箱があった。
開けてみると、木槿色と御所染が淡く流れるような、明るい着物。その色合いを邪魔しないように、あえて白の刺繍で描かれた藤の花が何とも粋な着物だ。帯は、着物の控えめな刺繍とは打って変わって金や青柳、紅葉色などの華やかな刺繍が施されている。



「杏寿郎さん、」

「なかなか時間も取れず、君にはすまないと思っていた。何かしようにも、君とはまだここくらいしか一緒に来ていなくて他に何も思いつかなかったんだ。良かったら貰ってほしい」

「…ありがとうございます…」



杏寿郎さんが、忙しい合間を縫って用意してくれていた。それだけで十分に嬉しい。涙が溢れそうになる。



「私、杏寿郎さんに貰ってばかりですね。ずっと、何かできることがないか考えていたのですが、何もできなくて…」

「何を言う!君は俺達を支えてくれて、煉獄家を守ってくれている!十分だ!感謝しても足りないくらいだ!」



杏寿郎さんは、釣り上がった眉をほんの少し下げて笑った。
優しい笑顔。私はこの笑顔が、とても、とても好きだ。



「良かったら、着て見せてくれないか。それから少し散策して、千寿郎に土産を買って帰ろう」



はい、と返事をして、奥の部屋で女将さんに着付けてもらう。女将さんのご厚意で薄く紅も引いてもらい、杏寿郎さんの元へと戻る。
とても似合っている。
杏寿郎さんはそう言ってまた笑い、私も笑った。
女将さんにお礼を言い、千寿郎くんのお土産について話しながら呉服屋を後にした。


私は、幸せ者だ。







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