同居人


同い年。

同い年…


思っても仕方のないことばかりが頭の中を駆け巡っていた。

それは数時間前の話。





杏寿郎さんは十七、私は十六になった。
杏寿郎さんは鬼殺隊での階級をどんどん上げていって、今ではもう柱の一歩前まで上り詰めたとのこと。
初めて会った頃より縦も横も大きくなって、以前より逞しくなった杏寿郎さんは、変わらず快活な笑顔を向けてくれる。
杏寿郎さんの男らしさが増してきていて、正直、意識している自分がいる。
ああ、はしたない。こんな心の内を見られたくない。


杏寿郎さんと部屋を同じにしてからというもの、お互いに睡眠の質が向上した。もちろん私が杏寿郎さんより早く寝るのだが、物音で目が覚めなくなったし、何なら朝少し寝過ごしてしまいそうになる。杏寿郎さんも、私が起きても気付かずに昼前までぐっすり寝ている。
それに、睡眠時間に関わらず目が覚めた時にすっきりしているのだ。目覚めがとても良い。
襖を取り払うだけで、これ程までに効果があるとは思わなかった。

相変わらず日中は忙しそうですれ違いの生活だが、寝ている間に同じ空間にいると思うだけで満たされた気分だった。




そんなある日、杏寿郎さんが私より早く布団から居なくなっていた。
目が覚めると隣の布団は畳まれていて、広い部屋に私一人だった。何か用事でもあったのかもしれない。深く考えずに私も布団を畳んで身支度をした。

厨で朝餉の用意をしていると、おはようございます、と千寿郎くんが顔を出した。



「今日からまた人が増えますね、少し米を多く用意しないと」

「…人が増えるって?」

「あれ?兄上から聞いていませんか?今日からお弟子さんが住み込みで来られるんです」

「お弟子さん…?」

「今朝はそのお弟子さんを迎えに行っているはずです。朝餉前には帰ってくると思うので、一応その方の分も用意しましょう」

「…そうなんだ。教えてくれてありがとう。杏寿郎さんみたいにいっぱい食べる人かもしれないし、多めに作っておくね」



お弟子さん。杏寿郎さんから何も聞いていなかったな。どんな人なんだろう。私はまだ見ぬお弟子さんを思い浮かべて、お味噌汁の具材を切った。






「本日からお世話になります!甘露寺蜜璃です!よろしくお願いします!」

「甘露寺だ!今日から最終選別まで、俺が育手となり面倒を見ることになった!よろしく頼む!」



思わず、食器を落としかけた。
想像していたお弟子さん像と、あまりにもかけ離れた女性がそこにいたからだ。

桃色の髪は三つ編みに結われ、その毛先と大きな瞳は新緑を思わせるような柔らかい緑色。白い肌に、髪と同じ桃色の頬と唇。華やかな着物に負けず劣らずの可憐な人。
一言で言うならば、美少女。



「弟の千寿郎です。よろしくお願いします」

「きゃーっ!師範にそっくり!よろしくね!千寿郎くん!」

「わっ!」



千寿郎くんに抱きつくその美少女に、千寿郎くんも頬を染めて動揺している。
か、可愛い…それしか出てこないくらいに、可愛い人だ。
私は食器を置いて、千寿郎くんに倣って挨拶をした。



「御嶽桜と申します。よろしくお願いします。甘露寺様」

「よろしくお願いします!」



甘露寺様は私の両手を握って距離を詰めた。近くで見るとより可愛い。そして、思っていたよりも握力が強くて握られた手が痛い。



「桜には甘露寺のことを言い忘れていた!すまない!二人は同性な上に同い年だ、これから仲良くしてもらえると嬉しい限りだ!」

「…えっ、えぇ!?同い年、ですか?」

「はい!桜ちゃんって呼んでもいい?私のことも蜜璃って呼んで!」



思わず素っ頓狂な声が出た。同い年?こんなに可憐で可愛い人が、同い年…?


この後、朝餉を一緒にとり、その食事量に驚かされ、稽古のための着替えの部屋を案内する時に見た豊満な胸に落ち込んだ。


そして、冒頭に戻る。





同じ年数を生きているのに、これ程の差が出るのか…
甘露寺様、もとい、蜜璃さんと自分との違いに多少なりと衝撃を受けた。
私よりも上背があり、出るところは出て引き締まるところは引き締まっている。

差し入れを持って道場へと足を運ぶと、杏寿郎さんの打ち込みに蜜璃さんはしっかり付いていっており、素人目に見ても身体能力が高いようだった。

天は二物を与えず、なんて嘘だ…

それに、杏寿郎さんと並んだ時に、二人がとても釣り合いが良いように見えた。
杏寿郎さんは普通の男性よりだいぶ上背がある。二人が並ぶととても絵になる。すごくお似合いで…

考えれば考えるほど、自分を卑下してしまう。いけない。蜜璃さんは鬼殺隊に入るために弟子入りされたんだ。杏寿郎さんだって、蜜璃さんを育てるために空き時間を稽古に充てている。私は二人を支えないと。
頭を振って余計な考えを振り落とし、私は目の前の洗濯物を干した。



その後、杏寿郎さんは任務へと行き、千寿郎くん、蜜璃さんと夕餉をとり、湯浴みを済ませた。
蜜璃さんの部屋を案内して、私は布団を用意し、蜜璃さんは自身の着物類を整理する。その最中、蜜璃さんが私に声をかけた。



「桜ちゃんって、師範の許嫁なんでしょう?」

「あ…はい、一応…」

「将来を約束している二人が同じ屋根の下…ときめくわ〜!」

「あはは…実際には、結構すれ違いの生活ですよ。杏寿郎さんもお忙しいですし、何かもっとできることがあれば良いのですが…」

「できること?」

「はい。もっとこう…うまく言えないのですが、杏寿郎さんのお力になりたいんです。私ばかりが良くしてもらっていて…」

「…それならきっと大丈夫よ!」



顔を上げると、蜜璃さんが大きな瞳を真っ直ぐ私に向けていた。
花が開くような笑顔で、にこっと笑った。



「師範がね、俺の弟と許嫁は俺には勿体無いくらいだって言っていたわよ!それに、最近の女子の流行りは何か、とか、どんな着物が人気なのか、とかも聞かれたわ。きっと、桜ちゃんが師範の側にいるだけで十分なのよ」



ああ、やっぱり天は二物を与えずなんて嘘だ。
蜜璃さんの優しさは、私の心にじんわりと温もりを落とした。

ありがとう、蜜璃さん。

そう言うと蜜璃さんは、笑った顔が一番素敵、と言って私を抱きしめてくれた。
蜜璃さんこそ。そう言って、私も抱きしめ返した。少しばかり苦しい腕の中は、とても居心地が良かった。



翌朝、隣の布団で寝ている杏寿郎さんの顔を見て、嬉しさが込み上げたことは、誰にも言わずに胸の内に大切に仕舞った。






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