つよい風が桜といっしょに吹きとばそうとするスカートをおもわずちょんと指でつまんで抑えたら、曲がり角からしましまの猫耳帽子が顔をのぞかせた。待ち合わせの時間ちょうど。スカートを抑えるわたしと、きょとんとしてこっちを見ている猫耳帽子の男の子。…なんだかものすごくはずかしくなって口をぎゅっとつぐんだ。

「パンツ見えた」
「み、みっともないものをお見せしました…!」
「うそだよ、見えてないから」
「マックス!!!」
「なあに?」
「なあにじゃ、ない!」

きっとにらむとくすくすわらって(かわいいところがずるい)歩きだすから、あわててとなりに並んだ。むくれるわたしをよそにマックスは鼻歌まで歌いだす。なんでこんなにごきげんなんだろう。朝の星座占いでいちばんだったとか?きょうの夕ご飯はだいすきなものが出るだとか?そんなことを言ったらまたマックスはわらうんだろうから、ぜったいに言わないけれど。

「そういえばふたりで歩くの久しぶりだね」
「きょうは半田いないもんね」
「いっつも3人いっしょなんて相当なかよしじゃん、僕たち」

それでもきょうもきょうとて、半田のお家におじゃまするからと商店街でケーキでもなんてぶらぶら歩きをはじめたんだからなんとも言えない。ちらりととなりのマックスを見てみたら、「ん?」「なんでもない」…そんな視線にも器用に気づくしなんでもできる、このとなりを歩く男の子は案外あなどれないかもしれない。なんてったって猫耳帽子が似合う男の子なんてきっとマックスだけだもの。

「なんのケーキがいいかな」
「えーコンビニでお菓子買ってけばいいんじゃない」
「えーお母さんにケーキでも買っていけばってお金渡されたのに?」
「母さんもそう言ってお金渡してきた。半田ん家行くこと言ってないのに」
「きっとわたしのお母さんが言ったんだよ」
「まあ妥当だね」

そんなことを言ってわたしが漂ってくるおいしいにおいで胸をふくらませてるあいだにマックスはおいしそうなケーキ屋さんを見つけてしまっていた。…やっぱりあなどれない。猫耳帽子も似合うとなんでもわかるのかな。ほら、と手をひっぱられてケーキ屋さんに入ればかわいい店員さんがいておもわず見つめてしまった。こんなひとに、わたしはなりたい。

「梭鞠、そんな間抜け面さらしてないではやくケーキ選んで」
「間抜け面!??」
「ぴったりだと思ったけど」
「…お姉さんおすすめのケーキを5つください!」

にっこりとほほえんだ店員のお姉さんのスプーン1杯ぶんでもマックスにやさしさがあればなあ!「どうせお姉さんがかわいいなあとか考えてたんでしょ」「うっ…」まさにその通りです なんて言えない。代わりに猫耳帽子についてる紐を片方ひっぱってやると手をひっぱたかれた。それからでこぴん。

「いたい…」
「ひっぱんないで」
「ドメスティックバイオレンスだ!」
「いじめられるのすきなんでしょ?」
「そんなこと言ったことないし!」

わあわあと騒いでいる(ちゃんとちいさい声)あいだにお姉さんはケーキをちゃんとケースに入れて用意してくれていた。おまけに爆弾をひとつ投下。

「ふふ、かわいいカップルだからおまけしてシュークリームひとつあげる」
「!!?」
「ありがとうございますお姉さん」
「でもあんまり彼女に意地悪しちゃだめよ?」
「はーい」
「(えっどういうこと)」

ハテナが飛び交うわたしをよそにてきぱきお金を払ったマックスにまた手をひっぱられてお店から出た。
カップル イコール わたしとマックス
彼女 イコール わたし ?
…あつくなったほっぺたはどうしよう。こんなのマックスに見られたらぜったいわらわれる。うつむいた先に見えたつながれた手と手にまたほっぺたがぐんとあつくなった気がした。ちゃんと、男の子の手してる。手をつないだってこんなこと考えたことなかったのに。

「あ マックス、お金…」
「あとでいいよ」

口から出たのは考えてたのとちぐはぐなことばだった。なんとなく顔をあげたらわたしの手を引いて1歩ぶんだけ先をあるくマックスのうしろ姿。

「(あれ?)」

手だって骨っぽくなって、それからおまけに背も高くなった?知らないうちにぐんと"男の子"になってくんだ。ともだちより近くって幼なじみよりほんのちょっぴり遠いマックスの、帽子の猫耳がたのしげにひょこんと揺れた。






「はーんーだーくーん!」
「あっそびっましょー!」
「お前ら頼むから普通にインターホン鳴らして」

march 13 ▼ 2012

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