年のわりにはとても背が高くて大人びていて、ほっぺたが赤くなるようなことがあるとぷいとそっぽ向いてしまう そんな男の子。ちょっと前まで彼に関する天秤は苦手のお皿の方にだいぶ傾いていたのだけど、いつの間にやらいまではすきのお皿にアルプス山脈みたいにななめになっている。おそろしきことかな。 「あの、先輩」 「?」 剣城くんはずいぶんとやさしい子なんだって気づいた。なんてったってぶっきらぼうだけど、前にシャワールームに補充するためのタオルを山ほど抱えて歩いていたらぽつんとひとこと、「持つ」と言ってタオルのほとんど持ってくれた。あのツンととがった目がだれかを睨むときにするどく細まったり、いちばんはじめに剣城くんがしたことがあたまのなじっこにあって話しかけられなかったわたしを情けなく思った。あのときはまだ俺に近づくなみたいなとげとげとしたオーラを出していた気がする。そんな彼はいったいどこへやら、すっかりかっこよくてわりと無口な男の子になっている。そのことを神童くんや霧野くんに話したらふたりして同時に頷いていたっけ。 「なあに?」 「この前の、」 「……?」 「だから、…バレンタインの!」 「あっはい!」 見上げた彼の目はめずらしく右へ左へと泳いでいて、ちらりと見える耳とほっぺたは赤くなっていた。…なんとかまっすぐにリボンを結わえようとがんばって、箱のなかのフォンダンショコラは無事だろうかと心配になってみたりしたあの日のわたしもこんな顔だったかも。だんだんとあつくなってくほっぺたを知らんぷりして、また剣城くんを見上げると眉と眉のあいだにしわを寄せてなんだか怒ったような顔をしながらさっきよりもほっぺたは赤くなっていた。 「これ」 ぐいっと押しつけられた赤いリボンつきの箱がぱちんとウィンクした気がした。「あ、あの」「っ失礼します」剣城くんはいきおいよくくるりと背を向けて、いつものようにポケットに手を入れて歩いていってしまった。夜とおんなじ色した髪のあいだからちらちら顔をのぞかせるふたつの耳は、わたしのほっぺたとおそろいに染まっている。 三・一四事件 そのいち 剣城京介 march 14 ▼ 2012 |