「ばかじゃないの」

アイス屋さんでちょうどふたつ目のアイスクリームを待っていたとき。いきおいよく左手をひっぱられてすっとんきょうな声が出そうになった。あたまの真横あたりから飛びこんできたとげとげのことばはまさしく、「風介!?」ツンと宝石みたいにきれいな目を三角形につりあげて、口は意志のつよさをあらわすようにまっすぐにぎゅうっと結ばれている。パウダーブルーのふわふわの髪の毛もいつもよりすこしぼさぼさで、前髪がぴょんと跳ねていてまあるいおでこがちらりと顔をのぞかせていた。風介が着ているおしゃれなアウターも彼自身も ほんのちょっぴりくたびれているご様子。…これはいけない。たいへん怒ってらっしゃる。

「勝手にどこか行くなって言ったろう」
「えっ(言ってないような…)」
「横見たらいなかったなんて、やめてくれないかい」
「アイス買ってくるから待っててって言ったよ?」
「…聞いてない」
「…ごめん?」
「いや、わたしも聞いてなかったから、」

ごにょごにょ。店員さんからのふたつ目のアイスクリームはそんな風介が受けとって、しかもお支払いまで済ませてしまう器用さ。こういうときにかっこよさをふと見せる。そんなの、ずるいよ。「いこう」手をつかまれて歩きだした速度はおそろい。こっそり見つめた横顔はちょっと怒りぎみ?クルミとキャラメルとがたんと入ったアイスクリームをたべてわらってほしいよ。…あのとき風介はずんずん前に歩いていって そんなとき歌いながらつめたい鉄板の上で銀のヘラを使ってなにやらカンカンと音をさせてアイスクリームをつくっているアイス屋さんを発見したのである。店員さんみんなで陽気な歌を歌ってつくるアイスクリーム そんなのおいしくないわけがない!わくわく気ぶんで風介に声をかけたはずだけど聞こえてなかったらしい。…すきよ、すきだよ。こいびとつなぎで手をつないで歩いてみたいのよ。まっすぐに前向いて歩いてばっかいないで、耳くらいはこっちに向けていてよ?そんなこと言えてたら風介はびっくりして目をまあるくさせて、聞いていてくれたの?それから仕方ないなあっていつも見せるようにほほえんでくれる?つながれた手に、力がこもった。

「…頼むから、急にいなくならないでくれ」
「ごめん」
「心配する、けど」
「!、??」
「もしもまた君がいなくなっても、かならずわたしが見つける から」

…目をまあるくしたのはわたしの方だった。しんぞうがあついミルクティーを飲んだときみたいにきゅうとして、ほっぺたはうれしさだとか恥ずかしさとかいろんなものに染まってふやけそうになる。アイスクリームをたべたらちょうどよくなるかしら。風介のほうと吐かれたたため息も じんわり赤くなったほっぺたもちらりと見えるまあるいおでこもすべて、ぐんといとしく思った。

「それじゃあいっぱい勝手にどこか行く」
「はあ?」
「ふ、風介に、見つけてもらいたい、から」
「!!けほっ な…ば、あほ!」

アイスクリームをたべてた横の男の子はむせて、みるみるうちにふわふわの髪からのぞかせる耳までも林檎に負けないくらい赤くしてた。となり合わせのわたしのほっぺたもおそろいの色してるんだろう。すきよもぜんぶ詰めこんで、せいいっぱい言ったことばはきっとこれからも言うつもり。あしたはきっと君のだいすきなケーキを焼こう。わたしよりあたまひとつぶん背のたかい風介を見上げればやっぱり口をぎゅうとつぐむ、どこか外国のみずうみに似たどこまでもまっすぐな瞳を見つめた。

「…ばかじゃないの」
「また言った」
「何度でも見つけてあげるよ」
「!」

ほっぺたは赤いままにそうっと手はこいびとつなぎに変わった。しあわせにたまらずほころぶわたしのほっぺた。ぷいとそっぽを向いて見えた君の横顔に、わたしはどうしようもなく焦がれている。





ふんわりと抱きしめてくれる、しろいホイップのなかであたしは甘くなってく


march 12 ▼ 2012
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