あの魔法でできたような砂糖とスパイスとがすこしずつ混じった夜はいまでもまだ、わたしのなかでぐるぐると冷めないでいた。高校をついこのあいだ卒業してもうすぐ大学生になるというのに。中学3年生のとき高校2年生のとき わたしなんかに告白してくれた男の子を目の前にしてなぜだか泣きたくなったのは、いつでもあのやさしくてつよい男の子を思いだしたからだった。吹雪くんがすきで あのうしろ姿がどうしようもなくいとしくて仕方なかった。

「(…ケーキを買っていこう)」

おうちでみんなを集めてホームパーティをするのだという鬼道くんにお呼ばれして(主催者は円堂くんらしい)、中学生のときは気恥ずかしくて履けなかったような8cmのヒールのブーティに足をいれた。いまではもうこんな靴も惜しげもなく履けるし、お化粧だってちょこっとした。それでもあのときの呪文にはかかったまま。

「つぐみちゃん…?」
「!!」

変わらないふわふわの髪の毛とやわらかな視線、うんと高くなった身長とかっこよさで目の前に立つ吹雪くんはほほ笑んだ。

「ひさしぶり」
「ふ、ふぶきくん…」
「うん」
「吹雪くんがいる…!」
「鬼道くんにお呼ばれしてね 待ってればつぐみちゃん来ると思ったんだけど、でも、はやく会いたくて探しにきたんだ」
「!!」

そんなこと言われたら、うぬぼれてしまいそうだよ。わたしのなかでぐるぐるしてた気もちを飲みほしてなみだにしてしまえたなら。そうしたら君はそんなことまでわらい飛ばして、いっしょに歩いていってくれるかしら?魔法の呪文だって知らないし、オオカミのようなつよさだって持ってないけど 君に言うべきことがあるのは知ってる。

「…あのとき言ったこと、ちゃんと守ってる?」
「わたし油断もすきもない女になったよ」
「風丸くんが、つぐみはもっと危機感を持った方がいい、って呆れてたよ」
「面目ない…」
「…だから、これからは僕が守るよ」
「…!」
「遅くなったけど…君がすきだ」

あの夜に魔法の呪文をとなえた男の子は、もっとすてきな男の人になってわたしの目の前に立っていた。つなぐべきはふたりの手?言うべきことは、ひとつ。

「わ、わたし!わたしも!吹雪くんを守るよ!」
「…うん」
「えっと…だから、つまり…吹雪くんのことが す、すす、す」
「す?(じれったい!)」
「だいすき!!」

わたしのほっぺたはあのときとおなじようにミルクティーをまるごと飲みこんだようにあつく、魔法はとけないまま。ぎうと抱きしめられておでこには小鳥のように口づけ。視線を上げればいちばんいとしい人と、溶かしたバターの色したまあるい月が星とかがやく世界。いったいなにに危機感を持つ必要がありましょう?とろけそうにゆるむ目もとから、星がこぼれていった。







倒れたモンスターは魔法のステッキによって粉々になります

february 23

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