鮮やかな珊瑚みたいな色の髪の毛で目はぱっちり。まつ毛も花のように白い肌も女の子がうらやむかわいらしさ。見た目と反対に性格はとっても凛々しくて男らしい。生まれたときからずっといっしょの幼なじみ。

「蘭ちゃんさー」
「んー…?」

ぽんと小石を蹴って振りむいた蘭ちゃんは、橙色した光のなかでちょっと口をとがらせた。「ていうかその呼び方、やめろって」わたしも口をとがらせて言ってみる。「じゃあなあに?霧野くん?それとも神童くんのシンさまに対抗してキリさまとか」口をとがらせてみたって蘭ちゃんよりかわいくならないのは分かってる。ほんのちょっぴり、こいつが憎たらしい。かわいいのに ふとしたときにこいつはとんでもなくかっこいい。

「なんで怒ってるんだよ」
「べっつにい」

歩いてく道が橙色に染まる夕暮れどき。サッカー部の練習がおやすみの幼なじみとひさしぶりに帰るっていうのに、なんだかすこしさみしくなった。鞄のなかのかわいらしい手紙が針みたいにちくちくわたしに視線を送ってくる。栗色の髪の毛で目がアーモンドのかたちでとってもかわいい子だった。…ぷしゅうと気もちがしぼんでく。まるでベーキングパウダーの足らないケーキのようだよ。おどろくことに学校で 霧野蘭丸の幼なじみ はずいぶんと有名人なのである。わたしも男の子に生まれればよかったかなあ。女の子はときどき、こわい生き物になるんだから。魔女みたいにサーモンピンクの爪をとがらせてきらきらのパウダーをまぶたにのせて?かよわいだけの女の子なんてうそっぱち!つよい女の子にならねばね。意を決して鞄から手紙を取りだして、いきおいよく差しだした。

「…おまえは俺への郵便屋さんじゃないだろ」
「…この子とってもいい子そうだったよ」
「そんなことわからないだろ?」
「でも、受け取るくらい…」
「そりゃあせっかく書いてくれたんだし、受け取らないわけにいかないけどな…」

男の子のくせして細くて白い指が手紙をつかんだ。とたんにひしゃげてしまいそうになる気もち。こうして立ちどまっているのはあとすこし。いっしょにいれないんだ。だんだんすみれ色になって月と星がかがやきだす空は待ってくれない、こいつみたいに。いつの間にかこんなにかっこよくなって背もぐんと高くなって、おまけに神様くらいになんでもお見通し。うそついたってうそついてるだろって言う。エスパーなの?目の前の幼なじみはいつもずるい。

「そんな顔するくらいならもらってくるなよ」
「もとからこんな顔!」
「いつもはもっと、なんかこう…」
「かわいくないって?そんなことわかってるもの」
「じゃなくて…か、わいい、から」
「!!」

すみれ色の空のした、そっぽ向いたあと蘭ちゃんはまた歩きだした。あわててあとを追えば見つけた一番星に背中を押されてとなりへ並んでみる。「蘭丸さん蘭丸さん」「はいはいなんですか」左手に伸びてきた手をそうっと握りかえした。こっちを向いてわらった蘭ちゃんは、いつもゆっくりのんびり歩いているようなこんな幼なじみの手をひいて ほほえむきらきら星のしたを走りだす。こうしてふたりおそろいの方向へつま先を向けて 目指す地点はいずこ?手をつないでくだけたガラスが混じってかがやく道を月の上で飛び跳ねるようにぐんと駆けていく。わたしはこんな幼なじみが、だいすき。まだ知らんぷりしていてねなんでもお見通しの君 だれにも負けやしない!ってむんと胸張ってとなりに並べるようになるまで。君がどんどんどんどん目から鱗のスピードで男の子らしくかっこよく凛々しくなっていくのなら、わたしは女の子らしくかわいくつよくなってやろう。フライパンひとつである日はフリルのように縁が波打つような目玉焼きを作ったり、またあるときは悪いやつを懲らしめたりなんかしたら上出来!そのときまでわたし、こんなすみれの夜空のしたで月を散歩する気もちになって歩いてゆくわ。






わたしのケーキも、丘の花も、地中の宝石も、真夜中の一等星も、神様のハープも、君のものでありますように

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