甘酸っぱいベリーのフローズンドリンクは駅前のカフェの新商品で恋する乙女の気持ちがキャッチフレーズとして書かれていた。何種類もの苺が小さく砕かれて入っているこれが素敵な恋の味なのだろうか。
 飲み進めていれば名前に手を振り駆けつけてくるさつきの姿。恋の味かはさておき、彼女がこれを片手に佇んでいたらそれだけで可愛いのは確かだ。

「ごめんね、遅くなって!」
「私が早く着きすぎただけだから気にしないでいいよー」
「でもそれを買うぐらいは待ったせちゃったよね…」
「ああこれ?新発売って目に入ったからつい。一口飲んでみる?恋の味だって」

 人で賑わう駅前からショッピングモールへ向けて歩きだす二人。白いワンピースにお洒落な柄のスカーフを巻いて、さつきの姿は道行く人の視線を奪いながら名前の渡したフローズンドリンクを飲んでいる。
 黒子くんへの気持ちの味がするかと聞けば顔を赤くして膨れちゃうので黙っていよう。彼女にとっての黒子もまた、特別な存在であることは周知の事実だったのだから。
 対して名前の格好は花柄のキュロットにお洒落な釦が点々と散りばめられた薄手のブラウス、此のブラウスは前回さつきとお出掛けをした際に選んで貰ったもので、どうせならと今日選んでいけば気づいた彼女は嬉しそうに笑っていた。
 いつだってそう、さつきの笑顔は誰かを幸せにしてくれる。

「じゃあ今日も張り切っていこうね」
「さつきの本気は人の本気と違うからね?」
「だって安い時に可愛い服を買わなきゃ損じゃない。任せて、名前に似合う服もちゃんと確保してあげるから」
「期待してまーす」

 道を歩けば風で踊る長い髪を結わいて。バーゲンセールと書かれた垂れ幕の店を次々に回るさつきは誰がみたって普通の女の子で、自身のバスケットチームを中学生の時に王者とした子にはとてもみえない。あの頃は暇なくバスケに明け暮れていてどこか楽しむ気持ちから離れた時期からは彼女も私服をあまり買わなくなっていたようだ。それよりも強い気持ちで挑むものがあったから。
 側にいた名前はプレイヤーのみでなく彼女も心配していたからこそ、女の子として休日を楽しむ姿が嬉しかったのだ。
 ショッピングモールを出る頃には日も沈みかけ、どこかで一休みしようと言うさつきは両手に幾つものショップバックを手にしていた。

「お茶するならほら、此処の裏に個人経営の雑貨屋さんにカフェがついてたからそこにしない?」
「名前ったらよく知ってたね」
「きーちゃんが行きたいって言ってたから」
「なるほどね。相変わらずきーちゃんはテツくんと名前にべったりなの?」
「私はさておき、黒子くんには想像した通りであってるかな」

 思い浮かぶ姿が二人して同じようなものだからつい笑ってしまう。
 そういえば、黄瀬とさつきが並ぶ姿があまりに美男美女だったものだから自分の身体を見て口をすぼめていたのを、青峰にお前の食ったもんは背にも胸にもいかなかったなと大笑いされたことがあった。赤司と黒子が呆れて止めに入るまで取っ組み合いしてたのもよい思い出。
 後に美男美女に名前は女の子なんだからと注意された時はその背と胸と顔で言わないでって見た目を褒めながら紫原に慰めてもらったことでさえ、素敵な記憶。
 目指したカフェに到着するなりラテアートされた珈琲とオルゴールが鳴る店内に二人の穴場だとしようと提案は忘れずに。

「ねえ名前これ可愛いと思わない?」
「皮のブレスレットだね、手作りみたい」
「外国語で何か掘ってあるみたいだけど…」
「ちょっと待って、タグに説明文書いてあるみたいだから」

 雑貨屋さんともあり展示されているいくつもの作品の中に見つけた手作りの皮のブレスレット。文字を追って名前が口にする言葉にさつきはすぐさま反応し、店のマスターに二つ購入させて欲しいと告げる。どうやら店長の手作りだったらしく安くしてもらったブレスレットを二人が手にしてまた来ると告げれば、初老の彼はやさしく微笑んでくれた。

「私達はあの人達のそういう存在でいたいなって」
「さつきは私にとっても太陽だよ?」
「名前だって私にとっては向日葵のような存在なんだから」

 右手に巻かれたブレスレットにはこう掘ってある。
 大切な人が俯くことないよう手を差し伸べられる太陽でありたい。哀しんだその時は共に上を向く向日葵でありたい。
 互いが太陽で向日葵でいよう、そして二人の大切な彼等にもそうあれるように。次の約束をした二人は帰路に着きながら幾度となく右手首に触れながら、変わらぬ願いを希う。