帰宅すればすぐに名前に部屋にいてくださいと走りながら伝えた黄瀬は火神のアイスを階段を駆け上がって届けては、大声で少しの会話をしてから彼女が待つ部屋に行く。此の家に住むようになって始めて許可もとらずに扉を開けて。

「名前っち、そこに座ってください」
「座ったよ?」
「そして買った雑誌を俺に渡してください」

 床に二人して正座、なんとも言い難い雰囲気が流れる。そこ、と言われてわざとベットに腰掛けた名前に黄瀬は違う今は違う!と顔を赤くしていた。

「いいっすか?この雑誌は名前っちに見て欲しくなくてわざと家に持ち帰ってこなかったものです」
「見つけちゃいました」
「まあ載ってる以上は避けられないのは確かで本当に嫌なら断ればいいのは確かだけど、でも…」
「…きーちゃん?」

 俯いて前方に座る名前の手を握る黄瀬の表情が読み取れない。抱いた罪悪感は隠していることを知っていて尚、黙って購入したそのことにあったけれど、でもそんな顔するなんて。
 顔をあげた黄瀬の顔はこどもがするような泣く前の顔そのものだった。

「これみて、その、嫌いになったりとか」
「仕事でしょ?気にならなかったと言えば嘘になるけど、別に嫌いになったりはしないよ」
「でも俺けっこうくっついて写真とって…」
「きーちゃん待って。私彼女じゃないんだから怒ったりしない」
「彼女じゃなくったって、名前っちがそれ見て嫌な気持ちに少しでもなるのなら俺は嫌なんすよ」

 暫しの沈黙。涙が流れないにしろ泣き顔なその目元を涙を拭うように触れれば、泣いてないと言う。

「私はね、女の子と載ってることを気になったんじゃないの。私の知らない表情するきーちゃんがここにいたから、気になっただけ」

 バスケしてたって、家にいたってこんな顔しないもんねってそれは当たり前だよね。
 名前が素直に気持ちを打ち明けてみれば、まさかそう言われるとは思ってもいなかったようで気が抜けたのか黄瀬はそのまま身体を倒して名前の肩に顔をつける。
 離れた二人の両手。黄瀬のものは名前の背中にしがみついているので、名前もまたこどもをあやすように背中を叩いた。

「あーもう、嫌われたと思ったっすよ」
「それぐらいで嫌うはずないじゃん」
「だって名前っちが気にしたとかそんなこと言うから!」
「ごめんごめん、私がいけなかったね」

 よしよしと頭を撫でればさらに肩に顔を擦り寄せてくる。本当に犬のようだ。あまりの力の強さに倒れないことに精一杯になっていた名前と、安堵した黄瀬は火神が部屋に入ってきたことに気づかなかった。
 扉に背を向ける黄瀬とは違い、正面で火神と目があう名前は最早苦笑しか出なかった。

「いや、俺ちゃんと入るって言ったから」
「火神くんそれ入ったよの間違いだよね」

 携帯の写真がとられる音。火神は面白そうに名前にしがみついている黄瀬の写真をとり、黄瀬に声を掛けぬまま階段を駆け上がって部屋でくつろいでいた黒子の部屋に突撃して行った。
 考える必要もなく写真を見せたんだろう。ゆっくりと階段を降りる足音がなんともおそろしい。

「名前っち俺どうしたら…」
「どうもしませんよ。黄瀬くん、まずは名前さんから離れてリビングに来てくれますか?」
「黒子っち…?」
「黄瀬くんに拒否権なんかありませんよ、さあ急いでください。それと、僕だけで済むと思わないことです」
「きーちゃん、ごめん」

 ゆっくりと名前から離れた黄瀬はその後リビングで正座させられて黒子に説教され、火神からは夕食を一品減らされた。食後もまた帰宅した緑間に二時間近い説教と、青峰の鉄拳が顔以外にとんできている。
 まず私が悪かったんだから、なんて名前が事の説明はしたもののそれとこれと話は違う、抱きつき泣きついていいと思うなと返されてしまった。そして確かに名前さんも悪いですね、と黄瀬が青峰の拳から逃げる間は同じように正座させられ緑間と黒子に説教された、そんな日曜日。