やわらかい布団の上に降り注ぐあたたかい陽の光が朝の知らせとなり名前の夢の中で優しく扉を叩く。もう少しだけ、なんて開かない口元で音にならない声を出してみる。せめてあと五分寝かせて欲しい。
 思うは勝手、名前の分もと朝ご飯を準備した人からすれば寝過ごされちゃあたまったもんではないので、そりゃあもう思いっ切り部屋の扉を破る勢いで叩いている。
 現実は妄想程優しくはない。

「さっさと起きろ、飯冷めちまうじゃねーか!」
「火神くんもう少し優しく扉叩かないとまた壊れますよ」
「起きねえ名前が悪いんだろ!誰か此奴の部屋の合い鍵持ってねえのかよ」
「合い鍵があったら鍵つきの部屋を名前さんに渡した意味がなくなりますね」

 扉の向こうから聞こえてくる黒子と火神の会話を左耳から右耳へと流しながらもご飯がさめるのは困るのでやっとのこと上半身を起こす。その間にも何やら会話は繰り広げられていたみたいだが聞いちゃいない。
 きーちゃん達はもう起きたのかな。寝起きが悪い青峰はさておき、緑間くんは彼のことだから既に食卓についてるかもしれない。
 ぼんやりとした頭でも考えながら寝間着から制服に着替え鏡を一見してから会話が聞こえてくる扉の向こうへ行く為に扉を開けた。

「おはよう黒子くん、火神くん」
「…おう。遅い朝だっての」
「おはようございます名前さん。もうご飯準備出来てますよ」

 これを私が黒子くんに向かって発していれば新婚さんみたいだったかもしれないなあ、なんて口元を緩めていれば火神くんに頭を三度叩かれてしまったので逆らわずにいた方がいいだろう。
 居間へ迎えばまだラフな格好のままの黄瀬がご飯をよそっている。対して緑間は新聞を読んでいる。そんな姿はまるで父親のようにさえみえる。
 どうやら同時刻に黄瀬により起こされたらしい青峰が眠たそうに二階の自室から階段を降りる音がしたので名前と二人揃って洗面台へ。
 もう一度居間へと戻った二人が席へついたら朝食のはじまりの合図。

「あーっと、今日俺と黒子帰り遅くなるから」
「部活の後に少し長めのミーティングです」
「そうなのか。今日隣街のスーパー卵が安いと広告が入っていたのだよ」
「なら私が放課後暇だから買ってくるよ、夕飯担当だし。誰か暇な人いる?きーちゃんは?」
「撮影っス…」
「名前、俺暇」
「いや青峰は練習出ないだけじゃん」
「今日は本当にねえんだよ」
「なら名前と青峰で行ってくればよいのだよ」
「名前っち!卵ならオムライス食べたいっス!」

 賑やかな食卓、笑い声の絶えない日々。朝食を済ませれば火神が洗い物を、黒子が戸締まりの確認を。女の子だから朝は時間必要だろうと、夕方や夜の家事に割り振りをしてもらった名前が身支度を整える。
 家を出る時になったら起こせという青峰を誰も視界にいれないままそれぞれがやることを済ませたら今日は全員で玄関へ向かう。置いていっちゃえ、そう考える名前や火神をよそにため息混じりに青峰を起こしに行った黒子と起こされた寝坊助が玄関を出て緑間が鍵をしめたら自然と足はそれぞれの学校へ向かう。
 名前と黒子と火神の誠凛組だけになった通学路を歩く三人の並び方も、歩道側に彼女をおくのが二人なりの気遣いだった。

「そういえばさ、きーちゃんが表紙の雑誌って今日発売だったよね」
「メンズ雑誌ですね、確か」
「コンビニ寄ってくか?」
「うん。昼休みに見て買ったってメールしようよ」
「恥ずかしがるのが目に見えてますね」
「でかい男が顔真っ赤にして膝抱えんのって結構シュールだよな」
「きーちゃん以外は遠慮したいね、青峰がやったら私笑わずにはいられないよ」

 当たり障りない会話をしながら同じ教室に向かい、席につく。名前の買った雑誌に早くきていた女子が群がるのを横目に二人は朝練をする為に体育館へと足を進め、二人の背中を見送ってから会話に花を咲かせる名前。
 嬉しそうに幸せそうな声で黄瀬の名前を呼ぶ友人にくすぐったさを覚えつつ、スカートのポケットの中で動く携帯をとってメールを確認すること三件。自分が話題にされてることもしらない黄瀬からの大凡の帰宅時間の知らせ、放課後の待ち合わせ場所と時間を忘れずに決めてくれた青峰の句読点すらないメール。最後の一通は緑間からのついでに緑茶も買って来て欲しいとのクーポンのURLまで載ったメール。
 律儀だなあ、笑みをこぼして休み時間に返信するかと携帯をとじた。

 そんな毎日を六人は過ごしている。