大勢の人が行きかう道で高尾の隣で歩く名前は本日一度も迷子になったり彼から離れたりすることはなかった。手を繋いでしまえば早かったのだが、お互いの手にはショップバックが幾つも抱えられているのもある。あまりの人の多さに高尾くんと離れちゃわないかな、なんてため息交じりに店を出る度に口にした名前だが、そんな心配をしなくていいよという彼の言葉は信じて正解だった。見失わないようにしてくれているのに加え、うまいように人を避けて歩いているのだ。感心していれば鷹の目ですと茶化されたので、流石緑間くんの相棒だと答えている。
 嬉しそうに頬を緩める高尾を見て、緑間が彼と出会えてよかったと心から思うのだ。人付き合いが不器用な姿を中学時代に見ていた側からすれば、彼のように手を引いてくれる人が居ることは何よりも大切なことだろう。最も、緑間にそれを問えば明後日の方向を向かれるか、彼の存在を当たり前だというように語られてしまうだろうけれども。

「よし次はあの店に行こっか」
「メンズものだよね?高尾くんの行き着けのお店?」
「いーや、俺は着ないタイプの服だけど真ちゃんには合うかなってさ」「どこかでみたことあるロゴなのは緑間くんが着ていたからかなー」
「前に俺が連れて来たことあったし、確か黄瀬くんが雑誌で着てた気がするからそれじゃん?」

 店の外側から窺っても白と黒が基調とされたシンプルな風味を持つ場所に高尾は慣れた様子で進んでいく。記憶を辿る名前の足が止まっていることも見えていたのか、自動ドア手前で振り返って手招きをしてくれた。
 些細な気遣いに嬉しくなりながらも店内に二人で歩んでいけば思った通りの店で、店員に恋人同士か聞かれた二人は顔を見合わせながら双子です、と満面の笑みを浮かべた。これには店員も驚いたのか苦笑いで人目では分からなかったですと二人から離れている。似ているとしたら面白いことが好きな性格ぐらいだが本当のことは内緒事。悪戯をしてきたのは何もこの店だけではないのだから。
 荷物を持ちなおして準備は万端。高尾の掛け声のもと、迷惑にならない程度に騒ぎながら物色していく。
 二人が今日一日を掛けてショッピングを楽しんでいるのにも理由があってのことだった。黄瀬や青峰や火神のように好みのブランドやファッションセンスがあるものならまだしも緑間はたまにだが、どうしてそれを選んだのか家の者が首を傾げ、名前が高尾に写真を添付してメールをしたくなるものを購入してくるときがある。あの黒子さえ頭を抱えて、もう少しだけ何とかしてくださいと述べるというのに、彼は何が悪かったのか分からないのに笑われたことだけは理解してリビングを後にしてしまうのだ。
 占いのアイテムで服を選ばないでね、名前が口すっぱく言うところで聞く耳持たず。困ったところで思い浮かんだのが彼の相棒の高尾の存在。他の者に内緒にしながら相談をしてみたところ、サプライズのプレゼントとして渡せば服も受け取って貰えるだろうということで二人で街に繰り出すことにしたのだ。
 いくら名前だって男の子の洋服を一人で選ぶのには無理があった。内緒にしたのは高尾と二人で街にいくと言えば煩く騒ぐものがいてそれが原因で緑間に事を知られてしまうのは避けたかったのと、緑間の為に服を一緒に考えてくれるのなんて彼ぐらいだから。火神と黒子は面倒見すぎだと言われてしまいそうで、青峰には正直任せてはいけない。面白いロゴのシャツはもう懲り懲りだ。
 二つ前の店で購入した薄手のカーディガンに合いそうなシャツを見つけた高尾が名前を店先でやったように手招きをして呼ぶ。手に持っていたジーンズを置いて駆けつけてみれば掘り出し物をみつけたからか良い顔で広げてみせてくれた。

「やっぱりさー、俺等ってかなり真ちゃんに甘くね?」
「あまいあまい、それだけ緑間くんが好きなんだろうねー」
「そうだよなあ。でさ、苗字ちゃんこれなんてどう?」
「試着…ってわけにもいかないけどサイズ大丈夫かな」
「聞かなくったって大体のサイズぐらい分かってるくせにー」
「高尾くんこそ分かっててそのサイズのシャツ取ったくせにー」

 ここは一度二人でシャツに緑間への愛を綴ったものをプリントアウトして彼の前に現れてみたいものだ。逃げ場を確保して、だけれども。いい案だと高尾がお腹を抱えていたのでいつかやってみるのは決定だ。作戦会議をする日もまた今日のようにどこかに集まって話題の大半が緑間関係になりながら街を歩くのだろう。
 会計を済ませ袋が軽いこともあり名前の持っているものから重たいものを選んで交換してから渡す。全てを持つと言っては彼女が遠慮することを高尾は分かっているからこその配慮だ。自然とやってのけるところが、彼の周りに人が集まることのひとつの理由かもしれない。
 時は夕方、夕飯の当番は自分ではないのだから急いで帰る必要はない。そうは言えども間食してしまえば本日の当番の人が料理は得意ではないのに作ったのが不満かと顔を引きつらせてしまいそうなので、程々にして帰ることにしよう。

「今日は付き合ってくれてありがとね」
「いやいや、俺こそあっちこっち連れまわしちゃってごめんね?」
「疲れないように休憩入れてくれていたのに。高尾くんってば謙虚だなー」
「それ、真ちゃんが聞いたら顔歪めて馬鹿を言えって言うんだろうな」
「そんなもん?」
「宮地さん、ああ先輩ね。あの人だって間違いだって言うって。苗字ちゃんくらいだよ、そう言ってくれんのさ」
「みんなは近すぎて見えないだけだよ。この後もし時間あったら夕飯どう?実は今日の当番は緑間くんなの」
「まじで!?行く!って行っていいの?」
「いいよ。今日じゃなくてもいつ来てくれたって、みんな大歓迎だから」

 元から大勢で囲む食事に一人増えたところで負担がないのも本当のところ。またもう一つ、緑間の口から何かと聞く高尾という相棒のことをもっと知ってみたかったのだ。名前だけでなく、あの家に住むものが皆して思っているだろう。大切な仲間の大切な友人のことを。
 同じ理屈で黄瀬の先輩である笠松や青峰が随分とお世話になっているらしい桜井を招いたこともある。後者では担当だった名前に手伝いますと隣に並んでキッチンで和気藹々としているのを青峰に茶々を入れられて、お玉が飛んだのは言うまでもない。フライパン投げちゃうよ、も本音が混じっていることを招かれた人以外は嘘ではないと知っているからかすぐさま大人しくなっていた。

「和食だと思うけど高尾くん好き嫌いはある?」
「真ちゃんが作るもんに文句つけはしねーよ。でもお汁粉三昧は勘弁かな」
「デザートになるかもしれないのは心得ておいたほうがいいかも」
「やっぱり?アイツは家でもそうなんか」
「いつでも小豆がある家なんてうちくらいかもね」
「とか言いながら苗字ちゃん嬉しそうだけどねー」

 隠せない笑みもある。彼等と同居を始めてお互いの好きなもので溢れていく、好きを共有する喜びはルームシェアならではのものだろう。不器用な人もいる、我侭な人も、素直な人も。相容れなさそうにみえて手を取り合って生活している様を第三者である高尾は羨ましくも、此の人たちだから出来ていることだろうと思うのだ。
 夕飯を作りながらお腹を空かせている人を黙れないのかと眉間に皺を寄せている人の元に二人はお土産を片手に少しだけ急ぎながら歩き出した。日頃お世話になっています大好きですと口を揃えて贈り物を渡そうと、段取りを決めている名前と高尾の笑顔が面白そうなことに直面しているときの笑みになってきたのは、受け取った時の不器用な人の慌てふためく姿を想像しているからだろう。
 敵に回したくない組み合わせが出来てしまったかもしれないことを本人は知る由もないまま、一人追加の知らせを受けて誰が来るのか首を傾げながら準備に取り掛かっていた。