日差しの暑さに眉間の皺を更に濃くさせた緑間や後先の不安に溜め息混じりの声を漏らした黒子と違い、他の面々は水着姿で全力疾走のまま海へ向かっていった。
 大分迷惑な大きなこども達だ。
 全員分の荷物が置かれたパラソルの下、残った名前も機嫌よさそうに肌に日焼け止めを塗っている。

「全く彼奴等には落ち着くという言葉はないのか」
「二人もはしゃいできていーよ?私まだ行けないから」
「お前は俺や黒子が馬鹿達に混ざっていくと思うか?」
「緑間くんの言う通りです。青峰くん達と一緒にされては困ります」
「いいんじゃない?青春してますって楽しそうだよ。特にきーちゃんなんかね」

 水着の上に着ていたパーカーを脱ぎ、折り畳んで荷物と一緒にしておく。一連の流れが終わったところで名前がもう一度海の方へと目をやれば、一際楽しそうに笑う黄瀬がそこには居た。
 いつの日だったか雑誌の撮影で海へ行ったという黄瀬が皆と行きたいと特集されたその雑誌を夕食時に持ち込んだのだ。
 当然雑誌したのは夏より前の話で寒さのあまり海を楽しめなかったから行くなら今だと、遠慮したそうな黒子の手をとり説得。緑間もあまり乗り気ではないし、名前も焼けちゃうなあと笑うものだから黄瀬がやけに小さく縮こまってしまった。
 結局は横暴に俺が行くからお前等も行くという青峰に、日本の海久々だと火神が言うので三人が折れたことで今日を迎える。
 電車で二時間程、腰が痛くなりそうな乗車時間だったのにも関わらず一目散に掛けて行った彼等は本当に海に来たかったのだろう。

「それにしても晴れてよかったねー」
「名前さんがお部屋にてるてる坊主つくっておいてくれたおかげですね」
「きーちゃんには内緒だよ?」
「こんなとこで騒がれてもご免だしな。名前、転ぶななのだよ」
「平気平気っ」

 遅れ組三人が海辺へ行けば既に全身びしょ濡れな三人が走って寄ってくる。
 火神の手にはビーチボール、どうやら海の家から借りて来たらしい。人数も丁度偶然だ、言わずもがな勝負になるのだろう。
 まだ水にすら触れてないのに、とそれでも笑う名前をよそに火神と青峰は彼女の隣にいた黒子を引っ張って海の家へと駆けていく。コートを借りに行くようだ。相変わらず忙しない。

「あれ?名前っちパーカーは?」
「海に入るつもりだったから脱いできたの」
「でも今からビーチバレーっすよ。焼けちゃうし、他の奴等の目が気になるから俺パーカー取ってくるから待っててくださいよ!」
「…気にしてないのにな」
「気になるのは黄瀬や俺達なのだよ。とりあえず此れを着とけ」

 せっかく黄瀬がパーカーを取りに行ってくれたのだが、緑間が自分の羽織っていたシャツを脱ぎ名前の肩へとかける。大きさの違いがありすぎて腕を通しては手が出ないので、あくまでも黄瀬がくるまでの予防策。
 遠目で彼女を見る人の視線に気づいた緑間が自分の影に上手く隠し、会話を続ける。自然にやってのけたので名前も気づけないくらいだった。
 戻ってきた黄瀬がシャツからパーカーへと羽織りを変えてきて、女の子はなるべく焼けちゃ駄目っすよ、なんて笑うのだ。緑間と違いストレートな言い方に照れくさそうに頬を緩めながらも、背の高い二人に挟まれながらビーチコートに向かう気分は少しだけ切なかった。彼等が高校生に見えるなら、遠目からみた自分は中学生くらいなのでは、と。

「コートは時間制らしいです」
「じゃあ組分けすっか、とりあえず名前と黒子は別だな」
「ちょっと青峰どういう意味」
「小さい奴はバラけろって?」
「大丈夫っすよ名前っち!青峰っちとチーム離れたら顔面狙い放題っすから!」
「てめぇ黄瀬、狙われてぇか?」

 組分けをした結果、上手くいかないのがこういうものだ。名前の元に来たのは青峰と黄瀬で、試合前に随分な言葉が飛び交うのをネットを挟んだ向こう側で聞く三人は少々頭が痛い。
 勝負は勝負、バスケでなくとも気を抜くつもりはないが、やっとのこと口喧嘩を終えたらしい青峰と名前の背後からは怪物でも見えそうなことに加え、黄瀬も上機嫌。幸いなのは近場でビーチバレーをしている人がいないことだろうか。

「やるからには負けないからね。緑間くん眼鏡外しておいた方がいいよ!」
「お手柔らかにお願いしますね、狙うは黄瀬くんですが」

 黒子が放ったボールは弧を描いて相手側のコートへ。名前がフォードに回ろうとすればネット届かねえだろ馬鹿、と青峰の声が掛かりすかさず緑間が受けたボールをネット前へと上がった青峰へ繋げる。
 結局は運動神経がいい集まりだ、海に遊びに来ていた人達が数人観客になり盛り上げてくれるぐらいには試合は白熱し、勝敗を決めたことより飛んでもネットに届かない二人の葛藤が印象に残った。
 朝と同じように電車に揺られて家に帰る。車両にぽつりぽつりとしか人はいない。遊び疲れた人が寝てしまっている中、緑間と名前は家に帰ってからどうするかを話合う。体調を崩されないように水分補給させて自室に放り込んで、明日は休みなのだから起こさないであげよう。

「きーちゃんは仕事あるって言ってたっけ?」
「確か正午過ぎてからなのだよ」
「なら皆と同じように寝せておいてもいっか」
「黄瀬が寄りかかってるのが重いなら場所変わるが?」
「いーよ、そのまま緑間くんに寄りかかるから」
「寝ないくせによく言うのだよ」

 残り十数分の距離を過ぎれば大きなこどもを連れて帰らないとね。
 口元に手をやりくすりくすりと笑う名前の手首を見て、少しだけ赤くなっているそこに楽しかったのは誰だと言う言葉を飲み込んだのは緑間と実は起きている黄瀬だけだった。