ザックザックと軽快で淡々とした音が台所からする度に何人かは気まずそうに目を泳がせる。名前が大ざっぱにキャベツを切り、たまに手で千切る音がまるで自分に例えられるようで更に大きな音がしたかと思えば、黄瀬は大げさに肩を揺らしてから黒子に助けを求めたが助ける気などないらしく目は合わせてくれない。
 何度も名前を呼ぼうとして躊躇い口を動かすだけの緑間と、何度も呼びかけても返事が貰えずつまらなさそうな紫原がそこにはいる。他は傍観者でいるつもりらしい。
 原因は先程の喧嘩の一件で、売られた喧嘩を買いバスケで対抗したものの散々な結果になってしまったからだ。女の子だからとハンディーキャップを与えてあげるとあしらわれたり、いざ本気になって抜かしてみれば女の子に本気は出せないと返す。勝てないからだと緑間が煽れば、ブロックと名ばかりの無駄な接触のセクハラ。
 つい紫原が自分達がキセキの世代だということを、これは仲間内二人に対してだが話しをすれば勝てっこないと試合放棄と罵声。先につっかかってむっくんと緑間くんを馬鹿にしたのそっちじゃない。名前が声を発すれば鼻で笑いからかってあげただけと言う始末。
 あまりの態度に一瞬泣き顔にかわった名前のその一瞬をみていた紫原が無言のまま相手に手をだしかねない雰囲気をだしたところで、帰りが遅いと迎えにきた黄瀬が乱入してことを終えたのだった。

「塩キャベツそんないらねーだろ。ほら、黄瀬だってお前を心配して迎えに行ったんだぞ?」
「…きーちゃんこなかったらせめて二人には謝らせたのに逃げられちゃったんだもん」
「分かってっと思うけど、二人はそうやって名前が怒ってくれただけで嬉しいんじゃねーの?」

 くしゃりと隣で一緒に夕飯の支度をしていた名前の頭を乱暴に撫でる。
 悔しかったんだ、二人のこと馬鹿にされたみたいで。
 火神にだけ聞こえるような声で漏らした本音。宥めるように名前から大丈夫だと言われるまで頭を優しく叩いてやる火神はいつもより小さくみえた女の子の様子に黄瀬が迎えにいったのは間違いなかったと思った。
 あのまま試合を続けたとしても、口喧嘩になったとしても、聞く限りの相手方の性格を察する限りでは汚い言葉で更に緑間達を罵られただろう。喧嘩を買ったんだから自分のことは何を言われたっていいと考える名前でも、二人はそうではなかったはずだから。

「でも名前さんに怪我がなかったんです、僕はそれにほっとしました」

 包丁を握る名前の手が止まる。どう考えたって自分がいけなかったというのに、それをカバーする緑間も紫原も、心配してくれた黄瀬や黒子の言葉も優しくて。
 優しいから怒ってくれたんだと緑間が言ってくれたって、此処にいる人たちに比べたらただの身勝手に過ぎない。
 やわらかい笑みで歩み寄った黒子が名前と場所をかわり火神と夕飯の準備を進める。ソファーに座る紫原の脚の間に座らされて頭を撫でられれば我慢してた涙がしずかに落ちた。

「ごめんね、私が喧嘩買っちゃったから余計に煽った…」
「いーのいーの。悪いの向こうで名前ちん悪くない」
「それに俺達の為に怒ってくれたんだ。紫原も俺も正直そこは嬉しかったのだよ。これっきりにして欲しいがな」

 涙をそっと人差し指で拭う緑間の行動には流石に驚いて涙はとまってくれたらしい。恨めしそうに口をすっぱくすり黄瀬の視線はこの際放っておこう。

「まだやりたりねーってんなら俺が夜通しで格ゲー付き合ってやるよ」
「いい。青峰のそれ冗談にならないから」
「お前いつも思うけど俺と他の奴で態度違い過ぎんだろ」
「気のせいだよ青峰くん」
「うぜえからやめろ、それ」
「あー!名前っちにうざいとか言っちゃ駄目っすよ!」
「てめえは黙ってろよ!」

 論点がずれたことで取り巻く雰囲気も代わり、夕食を囲むころには名前もまたいつものような笑顔に戻っていた。
 夕方買い込んだ紫原のお菓子をあけながら夜はリビングで青峰のゲームで一夜をあかし、朝になれば雑魚寝していた集団から抜け出して顔を洗う。すっきりとした顔の名前に、彼女が起きた気配で目を覚ました黒子は安心したようにもう一度瞼を閉じた。