卵が二パックとスポーツ少年達の身体作りとバランスを考えた大量の肉と野菜類。かさばる紫原のお菓子と名前のデザート用のゼリーやヨーグルト。自分のものは自分で持てと言われ頬を膨らませてお母さんの意地悪だなんて口々に言い出す紫原と名前を連れて夕食の買い出しに出掛けたのは緑間だった。
 普段は女の子ひとりということもあってか気丈に振る舞ったり面倒事を文句ひとつさえ口にしない名前も、紫原と並んでいるいまはどこか子どもっぽい。俺の隣だからと言っていたがどちらかと言えば、似た者同士が揃ったことで気が楽になったのだろう。
 突然連絡もなしに遊びにきた紫原に、じゃあむっくんのお菓子買わないとね。そう言いだした上機嫌な名前と手を繋いで家を出た紫原のお守りを任されたのが彼だった。
 おおきな子ども二人に両手にスーパーの袋を抱える緑間の姿は主夫のようにさえ見えた。

「あれあれ?大きな男に挟まれてんの誠凛の子じゃね?」
「あー確かそう、俺前にあそこに練習試合しに行った時みたことあるし」
「マネじゃないとか言いながら手伝ってたよな。おーい!誠凛の男バスマネの女の子!」

 自宅まであと十分もしないでつくだろうという場所で此方に向かって手を振る少年が三人いる。背格好からして高校生くらい。名前ちん知り合い?紫原の問いに隣で袋を抱える彼女は首を左右に振ってから怪訝そうに呼ばれた方に視線をやる。紫原や緑間とて名前がマネージャーでないことは知っていたが、あちら側が彼女を呼んでいるようなことは明確なので半歩前に出て背中に庇う。
 柄の悪い連中には見えないとはいえ、こどももちらほらみえる公園で騒ぎを起こすわけにはいかなかった。

「お前は俺達の前に出るなよ」
「まあ俺達二人の背中にいれば名前ちん見えないしねー」

 通り過ぎてしまおう、そう思った三人が相手にしないまま歩いていれば突如何か物が勢いよく名前の方に放たれた。咄嗟に利き手を前にして構えようとした名前だがその前に紫原の大きな手がその物を掴み、同じように勢いをつけて投げ返す。
 バスケットボールだった。

「緑間くんの卵割れなくてよかったね」
「自分が狙われたのに暢気なことを言うものじゃないのだよ」
「そうだねえ。ここが青峰と火神くんだったら一触即発で喧嘩だったかも」
「んー、でもさ名前ちん、俺だって許したつもりないんだよー?」

 誰に怪我をさせるつもりだったんだろうね。紫原がぽつりとこぼした言葉に名前は気にしないでいいから帰ろうよと服の袖を引っ張るが聞く耳持たず。自分だって腹が煮える程の感情を抱いていたが此方を心配そうに見上げてくる名前を見れば緑間だって手は出せない。
 口振りからして相手がバスケ部と分かれば余計に、だ。喧嘩して問題にでもなれば部活に支障がでないとは限らない。
 大丈夫だ。小さな頭に手をおけばほっとして笑う彼女に自分の選択は間違っていないと確信した緑間の耳に余計な一言が入った。

「売られた喧嘩も買わない、守るはずの女の子に庇われる。お二人さん格好悪いねー。誠凛の子さ、そんな背だけの男相手してないで俺等とバスケしようよ。意外と上手いんだよ?」

 しまったと思う時には既に遅く、煽られた一人が荷物を緑間に押し付けた。もう一人もまた、あーあというように眉を下げる。火神や青峰だけではない、もう一人ことによっては手がつけられない喧嘩っ早い人がいたのだということを忘れてはいけなかったのだから。
 相手方三人の前に出るなり事の発端になったボールを掴んで此方が引きつりため息がでる笑顔で啖呵をきった。

「背だけの男かあ、誰に対してそんなこと言ったの?いいよ喧嘩買ってあげるよ、バスケでいいよね。私も意外と強いんだよ?」

 公園にある遊具に混ざって作られた一角のコートを指刺す名前の笑顔に二人は止めることを止めて顔を見合わす。あからさま面倒事になったのを悔いる緑間に比べて、紫原はどこか楽しそうだ。
 二つに増えたスーパーの袋を持ち直して携帯を取り出した緑間は遅くなることを黒子に連絡をとる。面白がって駆け付けてきそうな二人と、女の子は喧嘩は駄目だと慌てて駆け出してきそうな一人には勿論内緒である。