佐久間の号令により練習を一時中断した一行は早々と名前の元に駆け寄った。簡易的には紹介されていたとはいえ、どんな子が来るか楽しみで仕方がなかったのだ。電話の直後のことに足された、名前や多少はサッカーが出来ること、お家柄女の子としてある程度は厳しく育てられていたからマネージャー業は問題なくこなすだろうということ。そして、辺見の咲山に似たところがあるという台詞には聊か顔は引きつりはしたものの、興味が薄れることはなかった。
 女の子が来るということに加えて、普段あまりそのような会話に混ざってこない咲山が呼んできた幼馴染とあれば、気になるのも仕方が無い。名前を囲むようにして集まってから一番最初に声を掛けたのは成神だった。

「同い年なんでしょ?名前で呼んでいい?」
「あ!なら僕も!」
「いいよ、好きに呼んでよ」

 成神の自らの同い年発言に安心したのか、嬉しそうに返す名前。辺見の話では先輩の方が多いと聞かされていたので、幾らかは緊張していたのだ。続いて椋本も会話に加わり、一年生同士の自己紹介が始まった。色々と話たがった一年生三人だが、佐久間の後で話は出来るから名前とポジションくらいにしておけ、なんて小言のせいでそう長くは会話できなかった。続くように三年の恵那の自己紹介から始まり、俺等はいいわ、と辺見が咲山の隣で手を横に振ることで、最後に佐久間の番が回ってきた。
 どこか見たことのある制服を身に纏い、フィールドには足を入れまいと一歩下がって此方を見ている彼女を見て、佐久間は今更だが彼女を此処に呼んだ理由を話していないことに気づく。粗方咲山か迎えに行った辺見から話がいっているのではないかと、二人を横目に見たものの、あくどい顔で笑みを浮かべているということは大方自分で話をしろということだろう。
 男の意地から始まって巻き込んだことを伝えれば、先程から嫌な顔ひとつせずに此方と会話してくれている苗字は腹を立てるのではないだろうか。否、そうあるのが普通だろう。考えれば考える程口が開かなくなる佐久間に痺れを切らしたのか、後ろ二人から早くしろとばかりに名前を呼ばれた。

「…佐久間次郎、FWで一応部内の参謀としてやっている」
「苗字名前です。咲山先輩と辺見先輩がお世話になっています」
「おい名前、辺見はともかく俺は佐久間の面倒見てる側ね」
「そんなことないと思いますよ。だって佐久間さんしっかりしてそうですし」
「それ以上に俺がしっかりしてんの」
「…二人共、佐久間が喋れねえだろ黙ってやれよ」

 自分を挟んで距離があるにも関わらず、わんやわんやと会話をする名前と咲山の会話を止めたのは矢張り辺見だった。あっと気づいたように謝ってくる苗字に別に謝らなくていいと告げれば、眉を下げたままもう一度謝られた。
 此の侭では空気も悪くなる。本題に移るか。意を決して佐久間が口を開き、事情を説明すれば彼が考えていた返答とは違い、驚いた顔を見せたものの、自分で良ければと返してくれた。此れにより期間限定ではあるがマネージャーが付いたことに嬉しくなるのが部員であって、名前の手をとってはしゃぐ一年生達を見れば、自分も申し訳ない半分、ほっとしてしまうのが佐久間だった。
 日曜日である本日、合同合宿が行われる火曜日までには明日という時間もある。何かと必要なことは明日教えていけばいいし、部活も終盤に近いこともあり、今日は帰っても言いと告げたものの、お手伝いをさせて欲しいという名前の言葉に仕事を教えようと出たのは源田だった。咲山も終わりまでいたら家まで送ると言い、成神はそれならお喋りが出来るとあって上機嫌だ。佐久間に限っては、後はどう鬼道に紹介すべきかと、今日来ていない不動にもどう説明するかが残っている為にぬか喜びはしていられない。困った時は源田を使えばいいが、不動に限っては自分にしつこく聞いてくるだろう。佐久間にとっては嬉しいようで、何ともいえない一週間の始まりである。