校門で笹川京子を待つ事早十五分。口に含んだ苺の飴も既に形を無くしあたしの口内へと溶かされてしまった。脳へと直接訴えかけるようなハードな音楽が流れ続けるヘッドホンも何時の間にか三曲目をあたしへと進めて来ている。要するに何処の誰だか分からない男に彼女との放課後の寄り道を妨害され、其の男の告白を受けとる彼女を待つあたしの時間は暇だってことで。だからって貴重な飴ちゃんを二つも開封することに躊躇ったあたし。
 思うのは告白を早く終わらせろという利己的なものだけ。

「ごめんね、遅くなっちゃった」
「いーよ、京子のせいじゃないしさ」

 春の風が彼女の髪を撫で上げる。ふわりふわりと揺れる髪が蝶のようで。うん、やっぱり京子は可愛い。
 放課後二人で開店したばかりの珈琲店に向かう足取りは軽いもの。あたしでも分からなくなるような様々なケーキの名前を上げる京子を横目に脳内は先程京子に告白した奴の事で一杯だった、のはさっきまでの話で店に入って今日の限定品とやらを机に並べて食べているあたしにはそんなことは既に頭に無かった。

「んーっ、幸せだよねー」
「本当に此のケーキ美味しいっ!」
「まじ?京子のも食べさせて!」
「へへー、いいよお」

 お互いの戦利品をつつき合い頬で味わいながら幸せを噛み締めて。苺に犯されながらも四方八方に目を輝かせながら見つめる先も勿論のことデザートで。そんなあたし達の空間を一人の店員が叫び声によって一瞬のひび割れのようなものを入れた。
 手を止めて京子と目線での会話を交わしながら騒がしい店内の核となっている窓に張り付く女店員の言葉に耳を傾けてみれば、何とかという芸能人が表を歩いているらしい。

「ねー京子、何とかさんって芸能人知ってたりする?」
「ちょっと分からないな」
「同感、てか興味が無い?」
「うん、その方が正しいかも」

 本当は此処で他の店員のように彼等に目を向けるのが妥当な判断なのかもしれないが、今のあたしたちの目はケーキを捕らえて離さない。本当に格好良かったら損なのかも知れないけれど、生憎あたし達の周りにも芸能人級の男子は揃っている、中学生だけどね。綱吉や獄寺とか山本、雲雀先輩や京子の兄貴も相当格好いいとあたしは思うよ。あと忘れてはいけないのが綱吉の家にたまに来てるイタリア人の金髪のお兄さん。あれは犯罪的に美男子だ。
 でもそれよりも机の上の彼等の方が今は魅力的。再び二人だけの世界へと戻り見た目も輝かしいケーキ達に手を伸ばす。色沙汰よりも食いけ、あたしと京子の青春は恋だけじゃないらしい。寧ろあたし達は甘いものに青春を味わさせて頂いているみたい。