「ねーベル交代して」
「何で王子が苦労する必要あるの?」
「普通は彼氏がこぐんだばーか、」

 王子のくせして優しさとか女性への配慮とか何処か足らないよ。何で女のあたしが後ろにベルって彼氏を乗せて自転車をこいでんのかな。理想では彼氏の後ろに乗ってその広い背中に抱きつくはずだったのに。後ろ向きに背中を預けられて進むこともう直ぐ半刻は立つからそろそろ足が疲れるよ王子。
 悠々と教科書で隔てを作りながら睡眠学習したりお菓子を食べてたさっきまでの時間が懐かしくて恋しい。あーなんでベルの電話一本で学校サボってんだよあたし。ちょっとばかりか、かなりベルに甘くない?休み時間だったからって学校抜け出すのはそんなに簡単じゃなかったんだから。


「てか何で早退させんの。次の時間楽しみにしてた体育だったのに!」
「体育なら今してんじゃーん。ほら速くこぎなよ」
「サディストが調子乗んな」


 確かに此れも体育だけどさ、あたしがやりたかったのはバスケであって競輪とかじゃないんだよ。ねえ後ろで携帯弄りながら遊ばないで!そして地面に足を付けないでください。重たくなるんですって馬鹿王子!だから窓ガラス割っただけで停学処分になんかにされるんだよ。もっと流れに身を任せたり人の話を聞かなきゃ駄目だって。
 あーもうどうしよう、ベルに促されるまま学校抜け出したあたしまで停学になっちゃったら。ベルと違って頭悪いから進級できなくなっちゃうって。後でスクアーロ…は無理だからルッスの姉貴にでもノート見せて貰おうっと。マーモンだとお金取られちゃいそうだもんね。

「ところで王子さまー、此れ何処に向かってるんですか?」
「そりゃあ明日ってやつじゃねーの?」
「いい加減にしてくれないと本当に落とすよ!」
「んー何時でも王子は本気だって」

 とりあえず二人で学校抜け出して自転車で逃げて、それで寄り道して買い食いしながらゲーセン行ってプリクラとってカラオケ行って。日が沈み始めたら自転車のまま海にでもつっこんでみてさ。おーい、とか叫んでみたいなーって王子は思ったわけよ。それで水浸しになってどちらかの家に転がり込んでさ。夜まで話して眠くなったら寝て。気づいたら朝でしたみたいな一日。
 背中に更に体重をかけながら仕方が無いから質問に答えてやったのに返事は無いし。もしかしておーいはまずかった?あれはカス鮫の言葉だっけ。

「ねーベル?」
「なに今度は、俺答えたけど」
「あたし今すっごい幸せかもしれない」
「かもじゃなくてそうだから」

 大体王子が一番側に居て幸せじゃないとか云い出したら切り刻んじゃうからね。抱えた彼女の鞄から煩いほどに鳴るのはきっと彼女を呼び戻すためのもので。ああもう、王子の理想の一日を邪魔しないでよね。
 さすがに携帯を壊したら本当に自転車から落とされかねないから「もっと速くこいでー、追っ手が来るよ」って笑いながら叫んでやれば少しだけど自転車のスピードアップ。やれば出来んじゃん、流石運動部。帰りはどうせ疲れるんだろうから王子がこいでやるよ。その為に先にやらせてるってのは気づかないんだろうな、きっと。