あたしを肩に担ぐのは彼に良く似た男の人。面白い事にあたしを貶す一言まで瓜二つ。鏡でも有るまいし、だって今目の前に居て苛立ちを隠せずに名前を呼んでくれているのがあたしのベルじゃないんですか。故に我等が王子、ベルくんは正真正銘の双子だと信じるをおえない。話には聞いていたけどお兄さんがいるだんて今までのあたしは冗談半分で受け流してた。
 だって、何がって嫌だもん。家事全般任されて女の子らしい事一つする暇もする暇も無いのも、デートが任務ついでだとか最早任務がデートに数えられてたり。其れも此れも彼だから許せるわけで面倒なことも甘ったれた事を云うのもベルだから愛しく思えるだけであって。
 顔が同じだとか染色体が同じですとか、全く関係ないし。寧ろ此の人嫌いだし。女の子を不意打ちで男五人に襲わせるとか紳士の欠片も持ち合わせていない。うちの王子様は一応はあたしを持つときはお姫様抱っこだし、抱く時だって紳士の如く優しいんだからね。そりゃあたまには痛いけど愛なんだから、いいんだよ別に。だから此の人の下僕とかレヴィの愛人に成り果てると同じくらいに嫌。

「なに囚われちゃってんの?お前に囚われのか弱いお姫様とか似合わねーんだけど」
「不意打ちだったし、顔がベルに似てて驚いたから油断したんだもん」


 呆れ顔でナイフを振り回すベルは彼氏の顔も見分けられねーのって哀れな目であたしを見ては自発的な溜息を溢す。あれか、嫌がらせか王子のくせに懐狭い奴なんだからもう。大体死んだと聞かされてたんだから仕方が無いと思ってよ。此の人が現れた時にはベルの生霊かと思ったんだから。冷蔵庫のプリン無断で食べたのを怒りだけで進んできたのかなって。
 視界に入って居ないかの様にベルと会話を続けてたら偽王子に腹を殴られる。拳で殴る辺り紳士失格だね。暗殺部隊の女の腹を甘く視るなよ、一度や二度殴られたぐらいで嘔吐感に襲われる程弱弱しくないんだから。それでも痛いのは痛いし、不意を突かれたのは情けないし近くに居るベルが遠いし。如何しよう、此の侭ベルを前に地獄への道にご招待とかされちゃったら。彼氏の前で死ぬのは御免だし、あたしが死んだら困るのはベルなんだから。嫌だ死にたくないし死ねないし。助けろよ王子様、白馬に乗れとは云わないから。全身に突き刺さる自分に対しての殺意が痛い。

「ベル、助けに来て」
「王子の嫁なら一人で倒せるでしょ?」
「此処は格好良く王子様が助けてくれるんじゃないの?」
「面倒じゃん、其れに近づくの」

 それでもお前を其れに捕られるのが一番面倒で胸糞悪いと云って死を恐怖したあたしが馬鹿だったみたいにすぐさま助けてくれるんだから。もう、やっぱりあたしの王子はベルだけ。
 ベルの胸に抱きかかえられたと同時に襲われた不可解な睡魔によって意図に反して瞼は閉じられる。
 気づいた時はベッドの上でベルとお揃いのパジャマに身を通していた事実。朝日のまだ見えない暗い夜は先程までの出来事とは時刻さえ狂っている。あれ、夢ですか。思い出したように触れたお腹は小さく痛みを遺しているのだから現実だったのか。手っ取り早く虚か真かを確かめるようにベルの頬を軽く叩けば頭を掴まれてキスを落とされる。

「変な夢見て気分悪いんだけど」
「あ、やっぱあれ夢なんだ」
「お前何云ってんの?」

 別に、もう一度潜り込んだ布団の中で自分の王子の存在を確かめるようにしがみつく。
 迎えた朝に何時もの様にベルがあたしをお姫様抱っこしてくれた時は此れは全てリアルな夢だったということで自己完結を迎える。仮に、彼があたしを肩に担ぐような事があったら。似て非なる人はあたしにまた殺意を向けて、空想するだけで足りない脳内が沸騰しそうだから考えることを止めた。


「お憑かれ様」
t./SLUTS OF SALZBURG