「獄寺、」
「何だよ」
「名前呼んだだけー」

 椅子の背を作られた意図とは違う使い方、即ち逆向きに腹を押し付けた状態で座るあたしは本来は後ろの席の獄寺の机をこうすることで彼と二人で使っている。
 今日が学校の校外学習だというのは呆れるくらいに担任からは聞かされていた。彼の人曰く、忘れたりする奴が一人や二人出てくるだろうからって。悪いね先生、あたしと獄寺は確信犯で。最初から乗り気じゃなかった彼と電車を毛嫌いするあたしは遅刻を装い校外学習をサボり、そんな我等の為に事前準備をされていた反省文とプリント学習を二人だけの教室で黙々とこなす。
 最も、獄寺なんかは遅刻を装うどころか何事も無かったかのように学校に来てたけど。

「ねー、反省文何書く?」
「禿げとでも書いとけ」
「担任傷つくよ?多分だけどさ」
「んな柔な性格じゃねえだろ」

 あたしが教室に入った時に気をきかせて消したであろう煙草の吸い残しに再び火を着けた獄寺は白い原稿用紙に押し付けた挙げ句黒い跡を作りやがった。あーあ、こりゃあ担任怒るだろうね。
 彼の人が禿げが増したのって獄寺のせいなんじゃない?イタリアの教育方針に疑問を抱きそう。

「で、てめえは何て書くんだよ」
「電車嫌いです、とか?」
「何だよ其れ」
「あたしがサボった第一理由なんだよね」

 人の波に呑まれるなんて窒息死しそうだもん。だからってそんな他人から聞いたら馬鹿っぽい理由書いたら呼び出し決定だもんな。
 面倒、何かいい理由は無いかなって白紙の原稿用紙を見つめてたら獄寺に紙をとられ何やら書き込まれた様子。自慢じゃないけど彼が書いた暗号なんて解読出来ません。

「何て書いたの?てか暗号?」
「俺が開発した文字だ」
「へー、そりゃあ凄いね。で?」
「反応薄いだろ、もっと感動しろ!」
「いいから日本語で解読してってば」

 あたしは日本語と単語程度の英語が少々理解出来る程度だから、獄寺文字とやらは読めないんだって。相手にして貰えなかったからか少しだけ膨れっ面になりながらも子供のように目を輝かせた彼に解読してもらったが、「失せろ禿げ、風紀委員とやらに髪分けて貰え」ってそりゃあ無いでしょ。
 自信満々の彼を目の前に突っ込みを入れる分けには行かないが、此れでは担任と風紀委員に喧嘩を売る羽目になる。嫌だよ、雲雀さんと喧嘩だなんて!そんな危険に鉢合わせしたら勇者隼人の背中に隠れてやるからね。其れでも何だか彼が書いてくれた事に満足を覚えた。嘘を並べるよりも清々しい。

「本当に此れで提出するの?」
「やったことには変わりはねえんだしよ」
「まあ、怒られるなら獄寺だしいっか」

 天才獄寺くんの答えを丸写しなプリントの束と彼の分を持ち席を立ち、彼もまた二人分の喧嘩上等要素満載な反省文用紙を持ち教壇へと向かった。
 投げつけるような勢いで教壇へと叩き付けられた罪の無い紙立ちを背に筆箱と財布しか入ってない鞄を肩に学校を飛び出した。他学年はまだ勉強している午後十一時、あたし達はとうとう学校さえもサボりました。

「お腹減ったー、ってもう昼じゃん」
「何か食って帰るか?」
「いいね、獄寺の奢りで!」
「ったく今日だけだからな」
「流石獄寺!太っ腹!」

 でも流石に制服姿でこんな時間にお店に入ったら補導されかねないって事で結局は獄寺の案で彼の家で昼飯をお世話になることに。やっぱり校外学習はサボって正解、獄寺と二人で過ごす時間の方があたしにはよっぽど楽しい。
 それに今しかこういう事って出来ないんだろうなと思ったら電車嫌いに感謝したくなった。