今日こそバダップの息の根を止めてやりたい。一度も三度もいいことに此の戯言は口癖だ。
 初めて残念な感情を抱いたのは子供の頃だった。軍事国家、名前の父もまた軍人であり、バダップの父の部下だった。名前も逆らうまでもなくリュックを背にお菓子を片手に、スリード家に挨拶に行った後にすぐさま軍事学校への入学。初等部入学、若干六歳の子供の遠足は無惨にも片道切符の地獄行きになっていた。ただの学校への入学ならまだしも、父親は立派な軍人になるのだと名前をスリード家に預けていったのだから、頭が痛くなる。
 趣味は実弾の射的です、剣道は型も知らずに刃付きなら得意です。苦手な事は手加減でしょうか。次はそんな小学生時代を過ごして来た少女の淡い恋のお話をしよう。
 融通の利かない兄のような存在であったバダップは俺より弱い男は許さないと、家に連れ込む度に男の骨を一本は折って、此れ目当てかとお土産に札束を持たせて帰らせる。お蔭様で思春期のあだ名は「権力実力バックも素晴らしい女王様」笑えない。笑えないったら笑えない。思春期の女の子が男の子を連れてきて何が悪いの。十も離れていなかったとは思うが、子供の頃の名前は口には出さないが、兄のことをおじさんなどと呼んでいた。

 振り返るに可哀想な私の青春を返して欲しいくらいよ。思考を巡らせれば常に私の邪魔をしてきたバダップこそが初恋の相手だなんて一番哀れなのは自分だったりする。
 どうせなら王子様みたいなミストレさんや、男気溢れるエスカバさんが良かったよ。でも彼等もバダップには劣るものの、立派な軍人さんだというのだから、理想ばかり立て並べてバダップと比べたところで、きっと私はバダップの優れているところを彼等とくらべてしまうだろう。

 そして今如何したものか、今日のバダップは私の上に居るのだ。しかも赤子の様に安らかに吐息を零しながら水滴を頬に残している。雫はまるで、彼の身体の消えない痣よりも凛々しく存在感を私にアピールしているようだった。
 名前は此処に来たときに出会ったバダップと、丁度同じ年齢の十四歳になった。
 今日こそバダップの息の根を止めてやりたいと幾度とある嘘を呟いた私は枕元にあるリモコンを手に取り、エアコンの温度を下げる。皮肉なことに、私に覆い被さるように寝ている人が部屋の温度に耐えられずに汗を流しているのを正常に見ていられるほど、私は幼い子供のままではいられなかった。初恋なんてこんなもの。